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第27話
しおりを挟む僕は今、とってもマズイことになっている。リビングにはパジャマにカーディガンを羽織ったままの僕と黒っぽいジャケットを羽織った鹿島さん。そして後からやってきた舞の三人がいる。
沢城さんは、お仕事に行ってしまった。玄関で出会いがしら、鹿島さんに怒鳴られても全く動じず、
「そんなに大事な人なら、雨の中を一人で帰すようなこと、しないことですね」
と言ったらしい。言われた鹿島さんは一言も返せなかった。僕の前でも少し肩を落としてるようにみえる。
それはそうでも、僕が沢城さんを家に入れたのは事実で。その時は熱なんか出てなかったものね。でも、夕方体が重かったのは、そのせいだったのかな。
「いつも城山がお世話になっています」
そして、そのことに最も怒り心頭なのは、この舞だ。僕が昨夜電話した時は、そばに沢城さんがいることは言わなかった。それを物凄く怒っているのだ。知ってたなら、例え夜中でもここに来て、沢城さんに帰ってもらった。と、僕の耳元でまくし立てた。お陰で鼓膜がまだビリビリ言ってる。
「いえ、お世話になっているのは俺の方だから」
ちらりと僕の方を見る。僕は鹿島さんに申し訳なくて、穴があったら入りたい気分だ。
「祥、仕事の方、私がやっておくから、鹿島さんとゆっくり話しなさい」
「え……舞……」
行っちゃうの? 僕は目で精一杯訴える。このまま鹿島さんと二人にしないで。どう話していいのかわからないよ。
「自分で責任取れって言っただろうがっ。この尻軽!」
また耳元で怒られた。ううっ、酷いっ。でも、何も言い返せない。
ということで、僕は舞が淹れてくれた珈琲を口にする鹿島さんの前で、かしこまって座ている。
「もう、熱は下がったのか?」
「はい。お陰様で……」
「昨日は……すまなかった」
「いえ、お仕事だから、鹿島さんは悪くないです」
「だけど……」
カップを持ちながら鹿島さんが深いため息を吐いた。
「あ、あの、僕、沢城さんとは何もないですからっ」
少なくとも昨夜は何もしてない。パジャマを着替えさせてくれたのは、不可抗力だし、沢城さんも親切でやってくれたことだ。
「俺が腹立ててるのはそんなことじゃない!」
「鹿島さん……」
乱暴にカップをテーブルに置くと、険しい表情で叫んだ。僕は思わず背筋をピンとした。
「俺は、あんたに風邪をひかせただけでも許せないのに、あろうことか他の男に看病させた。自分で自分に腹を立てているんだ」
鹿島さんは昨夜、僕にメールを何度か送ったらしい。でも僕は、もうそのころ解熱剤で眠っていて気が付かなかった。何かあったのかと、今朝訪ねてくれたんだ。
「夜中でも、ここに来るべきだった」
「鹿島さん……」
嬉しいのと申し訳ないのとで、僕はたまらなくなった。鼻がツンとしたと思ったら、思わぬ涙が流れてきてしまう。
「どうした? また熱が上がったんじゃないのか?」
その様子を見た鹿島さんが、僕の隣に座り、おでこに自分のおでこを付けてきた。
「ごめんなさい……」
美原さんとのことも沢城さんとのことも、鹿島さんにはとても言えない。こんなふしだらな僕に、鹿島さんの優しさが胸に刺さる。
「何を謝ってるんだ。祥が謝ることは何もない」
鹿島さんはティッシュで涙を拭く僕の頭を肩に乗せた。鹿島さんの柔らかい唇が僕の髪に触れ、肩を抱いて頭に頬ずりしてくれた。
「やっぱり、少し熱があるのかも」
僕は鹿島さんの腕の中でそう言ってみる。鹿島さんはふっと笑って、腕に一層の力を込めてくれた。
僕はもうスイッチを入れないし、つまみ食いもされない。そう強く誓った。
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