【完結】(R18)先生、今日のレシピはなんですか?

紫紺

文字の大きさ
上 下
27 / 36

第26話

しおりを挟む


 なんだか、足元がふらつく。頭もぼぅっとしてきた。僕、沢城さんのこと嫌いじゃない。でも、好きなのは鹿島さんなんだ。それに、これはそういうことじゃ……ないかも……。

「先生!」

 僕はそのままキッチンルームに倒れ込んだ。


「38度5分。風邪かなぁ」
「すみません。沢城さん。もうお帰り下さい。朝になったらスタッフが来るんで、医者に行きます」

 僕は熱を出してしまった。雨に濡れたのが良くなかったのかな。あの後、シャワーと鹿島さんに暖められればこんなことにならなかったのに。

「いや、もし夜中に急変したら大変だ。私は平気だから、先生は眠って下さい。もうすぐ解熱剤が効いてくるでしょうし」
「沢城さん……」
「お礼はキスくらいで負けときますからぁ」
「何言ってるんですか……」

 僕の目の前で、イケメンが口角を上げてる。優しい眼差しだ。帰って下さい、沢城さん。僕は……大丈夫……。



 朝の光が寝室に入り込んでいる。街路樹にやってきた早起きな鳥たちが、美しい朝を称えるように唱っている。僕はゆっくりと目を覚ました。

「あ……」

 まだ少し頭痛が残っているけど、だいぶ楽になった。どうやら熱も下がったようだ。

「沢城さん!」

 僕の寝室にはベッドの他に小さなテーブルと椅子が置いてある。そこにうつ伏して寝ている沢城さんがいた。

「あ、目が覚めましたぁ。おはようございます、先生。ご気分どうですかぁ?」
「ずっとついてて下さったんですか? あ、パジャマが変わってる……」
「ああ、先生、凄い汗掻いてたんで、そこのタンスから新しいの引っ張り出しました。悪いことはしてないですよ」

 そうだったんだ。お陰でぐっすり眠れた。

「ありがとうございました」

 昨日のうちに、僕は舞に電話をしておいた。彼女はてきぱきと事を進めてくれて、今日のレッスンは振替にしてくれた。つまりお休みだ。今日のうちに治さないと。明日のレッスンは絶対やらなきゃ。

 僕はリビングまで下り、パンとコーヒーだけの朝食を沢城さんと一緒に取った。

「じゃあ、私は会社に行きます。もうすぐ舞さん? が来られるんですね」
「はい。本当にありがとうございました。このお礼は……」

 と言って、上目遣いで沢城さんを見る。

「ふふん、たっぷりもらいます」

 やっぱり。

「冗談ですよぉ。私はもっと正々堂々とつまみ食いします。あ、来られたようですね」

 正々堂々とつまみ食いってどういうことだろう。そこで、インターホンが鳴った。少し早いけど、舞が来てくれたんだ。本当にありがたい。
 沢城さんは装いを整え、鞄も持って玄関へと出て行った。舞は沢城さんがいること知らない。これは、怒られるよね。

 けれど……世の中そんなに甘くないことを僕は思い知らされる。玄関から聞こえてきたのは。

「沢城さん! なんであんたここにいるんだよ!」

 鹿島さんの驚いた声だった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

キスより甘いスパイス

凪玖海くみ
BL
料理教室を営む28歳の独身男性・天宮遥は、穏やかで平凡な日々を過ごしていた。 ある日、大学生の篠原奏多が新しい生徒として教室にやってくる。 彼は遥の高校時代の同級生の弟で、ある程度面識はあるとはいえ、前触れもなく早々に――。 「先生、俺と結婚してください!」 と大胆な告白をする。 奏多の真っ直ぐで無邪気なアプローチに次第に遥は心を揺さぶられて……?

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...