上 下
18 / 36

第17話

しおりを挟む

 男性限定料理教室の日がやってきた。ウキウキとビクビクの両極端で僕はその日を迎えている。

 ウキウキはもちろん鹿島さん。今日はレッスン後、時間があるって言ってくれた。突然の呼び出しが無ければだけど。
 そしてビクビクは美原さんと沢城さん。美原さんとは今日まで何もなかったけど、レッスン中になにかまたしでかすかもしれない。そんな爆弾みたいなとこ、美原さんにはあるよね。
 沢城さんは自分でも言ってたように、いつも通りにしてくれるのかな。これは僕の方がちゃんとしなくちゃだよね。変に意識しちゃうとまずい。

「先生、今日のレシピ、何でしたっけ?」

 松田さんがスーツを脱ぎながらそう言った。彼は銀行員なんだ。固い職業なんだけど、中身はとっても柔らか。関西人特有のギャグを言って場を和ましてくれるので、とっても有難い。

「松田さん、今日は冷たい豚しゃぶじゃないですか」

 僕が言う前に小島さんが答えてくれた。夏が近づくと、どうしても食欲が落ちる。そんな時のためのメニューだ。他に茄子やトマトを使った副菜を作る。

 例の三人もやってきて、全員揃った。毎回違った緊張感があるな、このクラスは。あ、半分は僕のせいか。

「では、始めましょう」

 それでも僕はにこやかな笑顔を作り、そう言った。


「先生、片栗粉はこれくらいで大丈夫ですかぁ?」

 沢城さんの質問だ。お湯にくぐらせるまえに豚肉に片栗粉をまぶす。あまりたくさんつけすぎるとお湯に溶けちゃって困るので、軽くまぶすのがコツだ。

「そうですね。ビニール袋に入れてやる場合は量に気を付けてください」

 ――――ひっ!

 沢城さんの隣を歩くと、すっとお尻を触られた。でも、ここで顔見たりしたら他の人に気付かれる。鹿島さんは隣の調理台だけど、僕のこと見てるかもしれないし。

「片手がお留守ですね。粉は両手でまぶしてください」
 
 お留守の腕を軽く掴んでそう言ってやった。 

「はぁい。すみません」

 いつもの無垢な笑顔を向ける。この人、ホントに食えないっ。

「お湯は沸騰したら、弱めの中火にしてください。吹きこぼれちゃうんで」

 薄切りの豚肉、火はすぐに通る。通ったら氷水に付ける。片栗粉をまぶしているので箸でしっかりつかまないと滑り落ちてしまうんだ。調理台はしばらく、逃げる豚肉で大騒ぎになった。
 でもみんな楽しそうだ。二種類のたれを作り、副菜の茄子とトマトの煮びたしを添えて出来上がり。

「いただきまぁす」

 学生時代の給食時間のように食べ始める。こうして大勢でご飯を食べるのは本当に楽しい。

 ところで、先週に引き続き美原さんは大人しい。あの事を今も気にしてるんだろうけど、もう忘れてくれていいのに。いや、忘れてくれ。僕も忘れたい。ついでに沢城さんとのことも。
 僕の真ん前に、今日は鹿島さんが座っている。少し頬を赤らめながら、鹿島さんのことを見る。彼はそれに気づいたのか、照れくさそうに笑ってくれた。

 ――――んっ! 沢城さん……!

 今日は僕の左隣に沢城さんが座った。いつも山崎さんが座るのに、何食わぬ顔で座ったんだ。山崎さんは怪訝な顔して、その隣に座った。別に定位置があるわけじゃないけど、自然とみんな座る席が決まってくるんだよね。
 その沢城さんがしれっとした顔で、僕のモモ部分を撫ぜだした。僕はその手の甲を何食わぬ顔でつねる。すーっと何事もなかったように手が引っ込んでいった。ホントにもうっ! 絶対面白がってる。

 ――――えっ? どういうこと?

 なんと、今度は右からも手が伸びてくる。一体どうなってるんだ。沢城さんのせいで席がずれて、美原さんが僕の右隣にいるんだ。美原さんまで僕を触りたいのか。さすがにため息が出そうになる。
 でも、伸びてきた左手は途中で止まり、散々焦らしてそのまま戻っていった。

 ――――触んないのかっ。

 て、なんでイラついてんだろ。でも、美原さん、やっぱり自制しようとしてるんだよね。なんだか気の毒になってしまった。

 なんて思って彼の方を見ると、思わず目が合ってしまった。ヤバい。また誤解されるじゃないか。僕は慌てて前を見る。前方には愛しの鹿島さんが一生懸命ご飯を食べている。その可愛い姿に僕はキュンとした。
 

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

好きな人に迷惑をかけないために、店で初体験を終えた

和泉奏
BL
これで、きっと全部うまくいくはずなんだ。そうだろ?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...