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第8話

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 一線を越えてしまった。鹿島さんは夜中に帰っていった。泊まってくれても良かったんだけど、仕事に差し支えるだろうって言って。確かに今日は午後からマダムたちのクラスがあるけど、そんなこと構わなかったのに。

「祥、おはようー!」

 午前中、僕が事務室として使ってる小部屋に一人の女性が入って来た。立川舞。僕の高校時代の同級生で、僕の理解者。そして経理等の担当してくれているスタッフだ。
 ショートカットにハッキリした目鼻立ち。普通に美人の彼女はTシャツにデニムといったラフな格好でお出ましだ。出勤は週三日。今日はその出勤日になっていた。

「おはよう、ご苦労様」
「あ、昨日、例の男子教室だったよね? あれからどう? 順調?」
「うん、順調だよ」

 色々、順調。

「ふううん。その表情。何か隠してるな?」

 全てお見通しかよ。実は、彼女は高校生の時、僕に告白してくれたんだ。だけど、僕はもう当時から男性が好きだった。でも、誰にも言えずに悩んでいたんだよね。
 彼女は昔からサッパリした姉御肌で、僕は告白してくれた彼女に、なんとカミングアウトしちゃったんだ。それから彼女は僕の親友になってくれた。
 で、今もまた、僕を助けて仕事をしてくれている。プライベートでは、素敵な旦那さんと一緒に仲良く暮らしているよ。

「なんでわかるんだよ……」
「顔見ればわかるわよ。良い事と困りごとがあるようね」

 よくご存じで。僕は言える範囲のことを彼女に話した。鹿島さんとの甘い夜についてはちょっと伏せた。

「大体、この企画を祥から言われた時、この事態は予想してたわよ。例の三人、やっぱり祥に言い寄ってきたか」
「あ、沢城さんからはないよ。彼は多分ノンケさんなんだと思う」
「まあた! なワケないじゃん。ボケっとしてると、襲われるわよ!」

 物騒なことを言う。

「僕、そんなにガード弱くないよ」
「はんっ」

 鼻で笑われた。

「で? 祥は鹿島さんが好きなんでしょ? もうヤッた?」

 ど、ド直球で来た! なんだよもう。僕が何も言えずに口をパクパクしていると、口角を中途半端に上げ、頬をひくつかせる。

「わあ、本当に尻軽ね」
「ち、違うよっ!」

 違わないかも。

「まあいいわ。でも、生徒さん同志でややこしくならないよう、他の二人とはちゃんと一線を引いてね」
「わかってるよ。僕は鹿島さんが好きだし。ちゃんとお付き合いする」

 舞は大きく頷いた。そう、この時は本当にそう思ってたし、そのつもりだったんだ。それが……あんなことになるなんて……。

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