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第1話
しおりを挟む自宅に増築したキッチンルームでの料理教室。明るいうちは可愛らしいエプロンを付けた女の子やマダムたちが、コロンの香りを振りまきながら料理をする場所だ。でも、今日はちょっと違う。陽が落ちて街に灯りが灯る頃、スーツ姿の男たちが僕のキッチンへやってくる。
「じゃあ、今日は皆さんもお好きでしょう、肉じゃがを作ります」
「ハードル高いですねぇ」
生徒の一人、エリート会社員の沢城さんがハスキーボイスで言う。
「大丈夫ですよ。僕のやり方なら、簡単にできます」
「先生、ジャガイモはどっちがいいですか? メークインと男爵」
お、研究熱心な刑事の鹿島さんだ。抑揚のない話し方が特徴。もう一人、弁護士の美原さんと合わせて、とても積極的な三人なんだ。三人ともアラサーで年も近いし、背も高くてとってもカッコいい。この教室で仲良くなってくれるといいな。
「僕のおススメは男爵ですね。煮崩れするのが嫌な方は、メークインっていう選択もあると思いますが。今日は男爵をご用意しました」
デニムのエプロンをした筋肉質の鹿島さんは何も言わずに頷いた。
このクラスは今日で三回目だ。僕は会社帰りの彼らが、自分たちの作った料理で満たされてくれたらと思い、この時間を選んだ。居酒屋に寄るよりいいでしょ?
「ジャガイモは洗ったらレンチンしてください。時短になります」
キッチンには二つの調理台を置き、四人ずつに分かれて調理している。女の子たちの時は五人一組にしてるから余裕あるはずなんだけど、やっぱり体が大きいのか手狭に見える。
「熱いので皮をむく時は気を付けてくださいね」
「先生、気を付けても熱いですっ」
「美原さん、慌てないで大丈夫です。布巾を使ってください。お家ではゴム手や綺麗な軍手を使うのもありですよ」
レンチンの後、ジャガイモの皮を剥くのは確かに熱い。僕みたいな料理に慣れてる人なら素手でも我慢できるけど、初心者の彼らにはハードだろう。僕は四苦八苦している刑事の鹿島さんに手を貸した。
「ほら、こうして……」
図らずも手が触れ合った瞬間、じろっと僕の目を睨む鹿島さん。男っぽい顔立ちの、イケメンというより男前と言ったほうがいい部類の顔立ちだ。刑事だから、ガタイもいい。僕は少し怯んで手を引っ込めた。
「ありがとうございます」
お礼を言われた。はにかむような笑顔だ。そのギャップになんだか、きゅんとしてしまった。
エプロンを取り、洗い物も終わったところで今日のレッスンは終わる。玄関までみんなを送り出し、僕はホッと息をついた。そこに予期せぬインターホンの音。
「あれ、鹿島さん、どうされました?」
玄関ドアの前には黒革のジャケットを羽織った鹿島さんが立っていた。高身長で足も長くてとにかくスタイルがいい。
「忘れ物しました。先生、入っていいですか?」
「もちろん」
僕はそう言って彼を迎え入れた。でも、おかしいな。キッチンには何もなかったような。
「何を忘れました?」
僕が振り返りながら言った途端、鹿島さんの彫の深い顔が僕の直前に迫ってきた。
「え?!」
何? と思ったその時、僕は廊下の壁に詰め寄られた。ちょっと待って、僕何か悪いことした? 刑事という職業柄か、その威圧感は半端ない。思わず僕は身に覚えのない犯罪を思いめぐらしてしまった。
「先生。俺の忘れ物です」
「んんっ!」
僕は鹿島さんにキスをされた。
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