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ミステリー探偵部編

もう一人の部員

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 「どうしてそう思うのかな?」
 僕の発言を聞いてから池上先輩の雰囲気が大きく変化したように感じた。例えるなら普段全く怒らない人物が急に激怒して暴れまわったような。
 
 「池上先輩なら知っていると思いますけど部活は一人じゃ作れない」
これは他の高校でも同じだと思うけど、創部するためにはそれなりに生徒が集まらなければならない。神無月高校では部長と副部長、そして監視役の三人が集まってやっと創部する事が出来る。
 これは部の乱立をけたり、部活内で問題が発生した時客観的に解決する人が必要だからだ。
 
 「君は私が一人で部を作ったみたいな言い方をしているけどそれは間違いだよ。二つ上の先輩と創部したからもう卒業していないだけなんだ」
 先輩の話は真実だろう。部活顧問から話を聞けばわかる事を嘘つく必要はないからだ。部室をもらえるくらいの人数先輩達がいたのかそこを知りたいけどそれはまた今度でいいだろう。

 「ところで先輩。この椅子妙に綺麗ですね」
僕は先輩の傍に近づき、彼女の右横にあるパイプ椅子を指さす。
 最初部室内を見回した時、パイプ椅子に細かい白い埃が積もっていることに気付いた。だけど埃一つない綺麗なパイプ椅子もあったのだ。
 それがこのパイプ椅子だ。ついでに僕が座ったパイプ椅子は微妙に汚れていたので腰を下ろす前に手で払っておいた。

 「それはたまたま掃除しただけだよ。すぐ横の椅子が汚いなんて嫌だからね」
 先輩は立ち上がって掃除用具入れの中から雑巾を取り出して僕に見せる。
 「その割には床、結構汚いですけどね」
 部室内と言っても靴を履き替える場所がなく、床に砂が溜まってしまうのは仕方がない事ではあるが、汚いのが嫌で椅子を掃除するのに足元は掃除しないというのはどう考えてもおかしい。
 僕としては床が砂で汚れているのは嫌なので、いずれ下駄箱でも持ってきて部室内をスリッパで移動できるようにしたいけどね。

 「それは・・・」
 反論できないのか先輩は言葉に詰まっている。
 「あと池上先輩は左利きだ。本棚に入っている古びた本を用いて話をしていると仮定すると、先輩とその部員は横に座っている可能性が非常に高い。対面に座ってしまうとどちらかは文字を反転している状態で読まなくてはいけなくなるから」
 池上先輩が左利きだとわかったのは、彼女が左手に箸を持って弁当を食べていたからだ。
 それに鞄を左手側のパイプ椅子の上に置いているのは床が砂で汚れてきたないからとそこに誰も座らせたくないからだろう。右利きの人が左利きの人の左側に座ると手がぶつかって邪魔になるからね。
 分かっていてもあまり意味はないけど、そこから例の部員は右利きだという事がわかる。
 
 「・・・」
 先輩は「もうこれ以上反論できないよ」とでも言いたげな顔をしているけど僕は決定的な証拠を口に出した。
 「最後に僕がさっき家庭の事情でという話をした後、考えるふりをして机の下でスマホを弄っていたじゃないですか。あのタイミングでやる事は誰かに連絡を取っている以外ありえないです」
 あの時、池上先輩は十秒ほど考えるふりをしながら下を向いてこっそりスマホを弄っていた。
 中学生の時に先生が授業中に隠れてスマホを弄っている子を見つけ指摘していたが、結構腕や手の動きでわかるものなんだなと思った。

 「あー、ばれちゃってたか・・・。残念」
 先輩は諦めるようにハァと大きくため息をついた。
 「その部員に何らかの方法で僕の身の回りを調査させて怪しかったり使えない人物だと判断したら難癖付けて退部させるつもりだったんですよね?」
 僕が座っていた椅子が他の椅子と比べて、埃が少なかったのはたまに入部希望者がきてそこに座らせていたからに違いない。
 
 「あはは、風太君の言う通りだよ。でもそこまで知られちゃったら、ただで返すわけにはいかないんだよね」
 先輩はニヤリと意味ありげに笑い、スカートのポケットから青色のスマホを取り出すと、目にも止まらぬ速さで指を動かし誰かに連絡を取り始めた。
 口は災いの元と言うけれど、僕は一体何をされるのか・・・。

 「ところで風太君。君は七不思議って知ってるかな?」
 何をされるのか怯えていると先程までと変わりない口調で先輩から話しかけられる。
 
 そういえばミステリー探偵部の部活紹介にも七不思議を一緒に解き明かそうみたいな事が書かれていた。
 「七不思議ですか? それほど詳しいわけじゃないですけど、深夜理科室の人体模型が動き出して人を襲うとか、女子トイレに花子さんが出て来るとかですよね。もしかして神無月高校にもそういうのがあるんですか?」
 言ってから気づく。神無月高校に七不思議があったとしても、それはオカルト研究部が既に結論を出しているのではないだろうか。
 つまりここで先輩が言う七不思議っていうのは。
 「もしかしてですけど、学校じゃなくてもっと大きい単位なんですか?」
 「その通りだよ。神無月高校の七不思議じゃない。神無月市の七不思議なんだ」
 「神無月市の七不思議・・・」
 
 僕は生まれも育ちも神無月市である。旅行で町を離れる事はあったけど長い期間他の場所で生活したことはない。十五、六年間、神無月市で暮らしているのにそう言った噂は聞いた事がなかった。通っていた小学校・中学校の七不思議ですら聞いた事がなく、夏にオカルト番組でそういったモノを目にする度正直うらやましいと思っていた。

 「私はね、それを追い求めて神無月高校にミステリー探偵部を作ったんだ」
 先輩が言い終えると同時にスマホの着信が部室内に響き渡る。
 「あっ、返事が返って来た。いま旧図書館にいるみたいだから早速行こっか」
 彼女は鞄の前ポケットから部室の物と思われる銀色の鍵を取り出し、早く部室から出るよう手で促してきた。

 もしかしたら僕は相当おかしな事に首を突っ込んでしまったのかもしれない。
 
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