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初優勝……

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 カント拳闘士武道大会。俺の初優勝を決勝戦で攫っていってしまったのは、ライムであった。俺が一緒に暮らした唯一の年下のメイドで妹的な存在。
 決勝戦は決着がつくほんの少し前まで俺の方が優勢であったし、勝ち上がり方も俺の方が疲労もダメージも少ないぐらいであったのだ。
 開始早々ペースを握った俺はそのまま優勢に試合を進めていった。俺に追い詰められたライムが捨て身の反撃に出ても、俺は慌てずに彼女の猛攻を凌ぎつつその動きをしっかりと見つめ、的確なカウンターでダメージを与えていった。
 その後も俺は冷静に闘った。ライムも粘ったが効果的な攻撃はできずじまいであった。と言うより、俺がさせなかったんだけど。
 あとはフィニッシュだけ。大きな一撃を考えたけど読まれてしまって、カウンターを食らってしまう可能性がある。少し迷っている時にその時が来た。
 試合展開から自然にグランドの攻防になって、俺はサブミッション技を狙っていった。腕ひしぎ、フロントチョーク、最後の力を振り絞り、何より勝負を最後の最後まで諦めなかったライムに、極められるその寸前までいって極められなかった。

 攻め手で試合を決めにいっている俺も守り手で試合終了の阻止に懸命なライムも、意地であった。ものすごくムキになっていた。少なくとも俺はライムからすごく意地というものを感じ取っていたのだ。
 試合の決着はあっけないものであった。負けてしまった俺からしてみたら残酷なほどに。
 俺はライムの身体の上にいた。そこから少しかわいそうだけど、拳を振り下ろした。彼女の方も必死に拳で俺の顔面を狙ってきた。アッパーだったと思う。立て続けに2発ほど顎に衝撃を感じて、俺は意識を少しだけぐらつかせてしまった。
 この時にできたタイムラグが致命的であった。ふと気づくと俺の頭全体がライムの太ももに挟み込まれてしまっていたのだ。一瞬だけど、顔の間近で彼女のおんなとしての大事な部分、その熱い息吹を感じたような気がした。
 反撃などする余裕は時間的にも態勢的にもなかった。首の頸動脈が彼女の脚部によって完全に完璧に締められていて、俺は何も考えられずに彼女のももに手を叩いて降参の意思を告げていたのだ。

 十中八九。勝っていた、勝てた試合だったと思う。だけど最後の最後でするりと初優勝は逃げてしまった。ライムに初優勝を攫われてしまった。
 後から来たのに追いこされてしまった。泣きたくはなかったけど、意識がはっきりしてきて痛みもそれと同時にすぐに無くなってしまうと、自然と溢れでくてくる涙を堪えることはできなかった。
 そんな俺を慰めてくれたのは、初優勝を飾ったライムであったのだ。胸の谷間に頭を少し強めに押しつけて抱きしめてくれたのである。その弾力ある柔らかさ温かさに、俺はベスと同じぐらい妹分の彼女から姉、あるいは大人の女性を感じてしまったのだ。

 俺の顎に炸裂したパンチ、最初はまぐれだと思っていてけれど、試合終了後しばらく経ってからライムからそのことを聞いたら、俺が強引に拳を振り下ろしてくるのがなんとなく読めて、その時に思い切ってカウンターでアッパーを狙っていったと教えてくれた。
 まぐれではなかったのだ。優勢に試合を進めながらフィニッシュの仕方に迷いのあった俺、最後の最後まで諦めない精神的な強さ、さらに冷静に苦しめられている相手の攻撃を読んで的確な攻撃をした精神の安定感。
 完敗であったのだ。ベスやもっと強豪の拳闘士だったらフィニッシュの仕方を知っていたであろう。あるいは逆にライムが優勢だったら、やはり彼女は順当に俺を仕留めていてと思うのだ。それに彼女ほど粘れずに途中で心が折れてしまって、情けない結末を迎えてしまったのかも知れない。

 俺は落ち込んで、そして、荒れに荒れてしまった。酒浸りな日々を一週間ほど過ごし、そんな時でったのだ。悪魔が俺に勧誘して来たのは。
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