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16 青森に上陸
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カーペットの部屋に戻ってみると、今野は頭まで毛布の中に埋もれて寝ていた。柔らかそうな髪の毛がふよふよ見えるだけで、寝顔なんか全然見えない。
でも今野は毛布をちゃんと2枚持ってきてくれていた。みのむし姿の今野の隣には、折りたたまれたベージュの毛布が置かれている。
時宗は自分も横たわり、真似をしてリュックを枕に毛布にくるまった。同じ色の毛布っていうのが、わけもなく楽しい。傍から見たら、みのむしが2つ転がって見えるんだろな。
床は硬かったけれど、時宗はすぐに寝入った。
「おい」
穏やかに揺さぶられて、時宗は目を開けた。目をつぶっただけな気がしたのだが、どうやらけっこうな時間寝ていたらしい。
毛布から顔を出すと、すぐ目の前に今野の顔がある。ぼけた頭で時宗はその顔を眺めた。目は切れ長で凛々しいのに頬のラインは柔らかく、全体としては人がよさそうな印象を受ける。
いい顔なんだよな。
すごく味があって、性格が良さそうで。
今野は時宗の顔をのぞきこんでいたが、困ったような顔で手の平をひらひら振った。
「もうすぐ着くから車行くぞ」
「あ……そうか」
のそのそ身を起こすと、今野は自分がくるまっていた毛布を丁寧に畳んでいた。時宗も同じ手順で畳んで渡す。今野は「ん」と短く返事をして受け取り、一緒にエコバッグに入れた。
「あとどのぐらいなんだ?」
「たぶんあとちょっとでアナウンスかかる」
今野が言ったとおり、それからものの数分で、とんでもない音量の船内アナウンスがあった。着岸まであと20分程度だから、準備して車へ行けということらしい。
このアナウンスに叩き起こされるのは、ものすごく心臓に悪い。今野はそれを見越して、時宗をできるだけ静かに揺さぶったものらしい。
この繊細さを見るにつけ、最初のアレは何だったんだと思わずにいられない。
「……お前、どうやってアナウンス前に起きたんだ?」
「スマホがアラームで振動するようにして持って寝んだ」
旅慣れしてるな。
「今野ってさ」
「?」
「いや、なんでもない。起こしてくれてありがとな」
お前ってもしかして、すごく性格がいいんじゃないか?と言いかけて、時宗は口をつぐんだ。それは言わない方がいい気がする。なんとなく、今野を馬鹿にした響きになってしまいそうだ。普通の褒め言葉ってどういうもんだっけ? 時宗はそんなことを考えながら、リュックを背負って今野の後ろをついていった。
階下の車両甲板で、車に乗り込む前にざっと見渡した限りでは、例の白いセダンは見つからなかった。大型トラックがけっこういるので、見通しが悪いのもある。
船のエンジン音が広い空間に響き、ちゃぷちゃぷと微かな波の音がそれに混ざっている。やがて揺れが静かになると、車列の向こうで船が開いていく。重い金属の音を聞きながら、今野がエンジンをかける。
時間は深夜。まばゆい灯りの向こうは黒い夜だ。しんと冷えた空気に雪がちらつく。
作業員たちが車止めを外したり、車列を誘導したりと動き回る中、車は整然と下船を始める。やがて自分たちの車の番がくる。
ゆっくりと車が発進し、ガコンと段差を踏み越えた。
今野と時宗は、遥かな東京に向けて、本州の端に上陸した。
でも今野は毛布をちゃんと2枚持ってきてくれていた。みのむし姿の今野の隣には、折りたたまれたベージュの毛布が置かれている。
時宗は自分も横たわり、真似をしてリュックを枕に毛布にくるまった。同じ色の毛布っていうのが、わけもなく楽しい。傍から見たら、みのむしが2つ転がって見えるんだろな。
床は硬かったけれど、時宗はすぐに寝入った。
「おい」
穏やかに揺さぶられて、時宗は目を開けた。目をつぶっただけな気がしたのだが、どうやらけっこうな時間寝ていたらしい。
毛布から顔を出すと、すぐ目の前に今野の顔がある。ぼけた頭で時宗はその顔を眺めた。目は切れ長で凛々しいのに頬のラインは柔らかく、全体としては人がよさそうな印象を受ける。
いい顔なんだよな。
すごく味があって、性格が良さそうで。
今野は時宗の顔をのぞきこんでいたが、困ったような顔で手の平をひらひら振った。
「もうすぐ着くから車行くぞ」
「あ……そうか」
のそのそ身を起こすと、今野は自分がくるまっていた毛布を丁寧に畳んでいた。時宗も同じ手順で畳んで渡す。今野は「ん」と短く返事をして受け取り、一緒にエコバッグに入れた。
「あとどのぐらいなんだ?」
「たぶんあとちょっとでアナウンスかかる」
今野が言ったとおり、それからものの数分で、とんでもない音量の船内アナウンスがあった。着岸まであと20分程度だから、準備して車へ行けということらしい。
このアナウンスに叩き起こされるのは、ものすごく心臓に悪い。今野はそれを見越して、時宗をできるだけ静かに揺さぶったものらしい。
この繊細さを見るにつけ、最初のアレは何だったんだと思わずにいられない。
「……お前、どうやってアナウンス前に起きたんだ?」
「スマホがアラームで振動するようにして持って寝んだ」
旅慣れしてるな。
「今野ってさ」
「?」
「いや、なんでもない。起こしてくれてありがとな」
お前ってもしかして、すごく性格がいいんじゃないか?と言いかけて、時宗は口をつぐんだ。それは言わない方がいい気がする。なんとなく、今野を馬鹿にした響きになってしまいそうだ。普通の褒め言葉ってどういうもんだっけ? 時宗はそんなことを考えながら、リュックを背負って今野の後ろをついていった。
階下の車両甲板で、車に乗り込む前にざっと見渡した限りでは、例の白いセダンは見つからなかった。大型トラックがけっこういるので、見通しが悪いのもある。
船のエンジン音が広い空間に響き、ちゃぷちゃぷと微かな波の音がそれに混ざっている。やがて揺れが静かになると、車列の向こうで船が開いていく。重い金属の音を聞きながら、今野がエンジンをかける。
時間は深夜。まばゆい灯りの向こうは黒い夜だ。しんと冷えた空気に雪がちらつく。
作業員たちが車止めを外したり、車列を誘導したりと動き回る中、車は整然と下船を始める。やがて自分たちの車の番がくる。
ゆっくりと車が発進し、ガコンと段差を踏み越えた。
今野と時宗は、遥かな東京に向けて、本州の端に上陸した。
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