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174 『穴』にて(6)
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誰も、動かなかった。
銃口の奥から、高遠は薫と怜を睨んでいた。すべての怒りと憎しみをこめて。
だが、その銃口から煙は上がっていない。代わりに、口からゲホッと血が噴き出た。
いくつもの、いくつもの穴が高遠の胸にあいて、血が流れ出す。その目から光が消え、体がぐらりと傾く。
高遠はそのままゆっくりと窓の外へ倒れ込み、『穴』の底へと姿を消した。
薫と怜は、高遠が消えた空をじっと見ていた。
2人の銃からは細く硝煙が上がっている。薫のショルダーホルスターから咄嗟に銃を抜き、怜は反射的に撃った。薫も、腰に差していた銃を構えて撃つまで、何かを考える暇もなかった。
「撃っちゃった……」
怜の呟きに、薫が笑う。
「屈辱的なのが嫌で、自殺の手伝いを俺たちにやらせたかっただけだろ」
「だね」
放心状態の2人の後ろから、足音が近づく。薫と怜は面倒そうにそちらを向いた。
「お前らなぁ……いい加減、俺に世話を焼かせるな」
江藤が見下ろしている。呆れ返った顔で、銃を自分のホルスターに戻すところだ。
「まぁ、しょうがないんじゃないですか? 一番働いたわけだし」
竹田が肩をすくめ、これも銃をしまう。後ろで宮城と高田がニヤリと笑った。屋島はすでに銃をしまい、小隊に指示を出している。
「なんだ……結局全員撃ったのか」
薫の言葉に、江藤は腕を組んで2人を見下ろした。
「当たり前だ。これ以上あいつを生かしておくのは面倒くさい。お前らだって、奴を満足させたくないから、撃たないフリして俺たちに処刑させるつもりだったくせに」
怜はニヤリと笑った。
「バレてるよ薫さん」
「だな」
気にするふうもなく、薫は怜の体を横抱きにして立ち上がった。江藤がしっしっと追い払うように手を振る。
「後始末はやっておく。お前らはさっさと病院に行け」
いつもと変わらず飄々としている江藤と、その後ろにいる仲間たちを、2人で見つめる。
「みんな……世話になった」
「ありがとうございます」
照れたような笑みを残して、高田と宮城は階段の方へ向かって行った。竹田が窓際で指輪を拾い、それを薫に渡しながら言う。
「これで一段落ですかね。怜、後で佐木さんがどんなだったか、教えてやるよ」
「それ楽しみ」
「余計なこと話すな。打ち上げに呼ばないぞ」
「小さい嫌がらせやらないでくださいよ。まったく……2年前はこんなアタフタした人だと思わなかったな」
怜は声を上げて笑い、痛みに顔をしかめた。
「笑わせないで……竹田さんも、お世話になりました」
「また後でな」
手を振り、竹田も階段へ向かう。
下へ後始末に向かう連中と別れ、薫は怜を抱いたまま、屋島や護衛と共に屋上へ上がる。待機していたヘリコプターに乗った後も、薫は黙ったまま、じっと怜を抱き締めていた。
終わったんだ。もうあいつのことを考える必要はない。
空の上から、怜はぼんやりと『穴』を見る。
オレは……やり切った。母さんとばあちゃんの分は、ちゃんとやり返した。
一生懸命やったんだ。
「薫さん……オレ、頑張った……?」
「ああ。怜。お前以上の奴はいない……お前に会えてよかった。俺はお前のそばにいられて……」
涙をこらえているような薫の声を聞きながら怜は目を閉じ、ようやく訪れた休息に、脳を明け渡した。
銃口の奥から、高遠は薫と怜を睨んでいた。すべての怒りと憎しみをこめて。
だが、その銃口から煙は上がっていない。代わりに、口からゲホッと血が噴き出た。
いくつもの、いくつもの穴が高遠の胸にあいて、血が流れ出す。その目から光が消え、体がぐらりと傾く。
高遠はそのままゆっくりと窓の外へ倒れ込み、『穴』の底へと姿を消した。
薫と怜は、高遠が消えた空をじっと見ていた。
2人の銃からは細く硝煙が上がっている。薫のショルダーホルスターから咄嗟に銃を抜き、怜は反射的に撃った。薫も、腰に差していた銃を構えて撃つまで、何かを考える暇もなかった。
「撃っちゃった……」
怜の呟きに、薫が笑う。
「屈辱的なのが嫌で、自殺の手伝いを俺たちにやらせたかっただけだろ」
「だね」
放心状態の2人の後ろから、足音が近づく。薫と怜は面倒そうにそちらを向いた。
「お前らなぁ……いい加減、俺に世話を焼かせるな」
江藤が見下ろしている。呆れ返った顔で、銃を自分のホルスターに戻すところだ。
「まぁ、しょうがないんじゃないですか? 一番働いたわけだし」
竹田が肩をすくめ、これも銃をしまう。後ろで宮城と高田がニヤリと笑った。屋島はすでに銃をしまい、小隊に指示を出している。
「なんだ……結局全員撃ったのか」
薫の言葉に、江藤は腕を組んで2人を見下ろした。
「当たり前だ。これ以上あいつを生かしておくのは面倒くさい。お前らだって、奴を満足させたくないから、撃たないフリして俺たちに処刑させるつもりだったくせに」
怜はニヤリと笑った。
「バレてるよ薫さん」
「だな」
気にするふうもなく、薫は怜の体を横抱きにして立ち上がった。江藤がしっしっと追い払うように手を振る。
「後始末はやっておく。お前らはさっさと病院に行け」
いつもと変わらず飄々としている江藤と、その後ろにいる仲間たちを、2人で見つめる。
「みんな……世話になった」
「ありがとうございます」
照れたような笑みを残して、高田と宮城は階段の方へ向かって行った。竹田が窓際で指輪を拾い、それを薫に渡しながら言う。
「これで一段落ですかね。怜、後で佐木さんがどんなだったか、教えてやるよ」
「それ楽しみ」
「余計なこと話すな。打ち上げに呼ばないぞ」
「小さい嫌がらせやらないでくださいよ。まったく……2年前はこんなアタフタした人だと思わなかったな」
怜は声を上げて笑い、痛みに顔をしかめた。
「笑わせないで……竹田さんも、お世話になりました」
「また後でな」
手を振り、竹田も階段へ向かう。
下へ後始末に向かう連中と別れ、薫は怜を抱いたまま、屋島や護衛と共に屋上へ上がる。待機していたヘリコプターに乗った後も、薫は黙ったまま、じっと怜を抱き締めていた。
終わったんだ。もうあいつのことを考える必要はない。
空の上から、怜はぼんやりと『穴』を見る。
オレは……やり切った。母さんとばあちゃんの分は、ちゃんとやり返した。
一生懸命やったんだ。
「薫さん……オレ、頑張った……?」
「ああ。怜。お前以上の奴はいない……お前に会えてよかった。俺はお前のそばにいられて……」
涙をこらえているような薫の声を聞きながら怜は目を閉じ、ようやく訪れた休息に、脳を明け渡した。
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