161 / 181
161 『東京』にて(6)
しおりを挟む
「うお~い、宮城、配置完了まであとどれぐらいだ~?」
江藤が言うと、宮城がモニターの向こうで怒鳴る。
『あと15分です! くそ~、俺が一番トロいのか』
エンジン音と共に届いた悔しそうな宮城の声に、江藤は声をあげて笑った。宮城は今、中央線に沿って横に伸びきった前線を南に押し下げつつ、東へ移動している。埼玉から南下して敵の西へ回り込む薫と連動し、江藤のいる所にまとめて敵を追い込もうというのだ。
「心配すんな。充分やってる。薫がおかしいんだ」
『高田さんからも連絡きてました。なんか佐木さんがバグってるって』
「あいつだけ倍速で動いてんだよ。おっ噂をすればだ。薫、今どこだ?」
江藤は、宮城との会話に薫を入れた。薫の後ろでは車の音と一緒にアサルトライフルの音が断続的に聞こえてくる。
『あと9分で着く。陣は張り終わったか』
「宮城がまだ移動中だ」
『囲い込みながら動いてるんだから、いけるだろ。10分後に作戦を開始する』
「むちゃくちゃ言うな。宮城を待ってやれ」
『逃げたい奴は東に流せ。北に漏らさなければ、それでいい』
宮城が焦ったように言う。
『間に合わせます』
『頼む』
ガガガガ、という発砲音を残して薫の通話は切れた。
「なんか盛り上がってんな」
『佐木さんマジでおかしいですって』
「許してやれ。蒲田で何が何でも高遠を仕留めたいんだろ」
言いながら、江藤は雑居ビルだった建物の屋上から、北を眺めた。線路と道路の両方が視界に入っている。
薫は例のトンネル出口を爆破した後、高田に制圧を指示し、千葉の部隊を率いて即座に南へとって返した。中央線に沿ってだらだら散開した敵をまとめるべく、屋島に車を運転させて移動しながら、薫はあっという間に地図上にマーカーを置き、宮城に配置と移動を指示してきた。宮城は死に物狂いでその任務をこなしている最中だった。
ビルの屋上からは、全体の様子がよく見えた。
ひどい有り様だ。遠くでも近くでも、煙が夜空を灰色に薄めていた。至るところが燃えている。赤い舌のような炎が揺れ、不気味な音が聞こえてくる。物が壊れる音と燃える音が混ざり合った、獣の咆哮のような音だ。
消防車は使える取水施設から水を出し、必死で消火活動を続けていたが、ちょっとやそっとで収まる量ではない。
「後処理がめんどくさいな……これ……」
うんざりしながら呟く。薫はどこまで来てる? タブレット片手に、江藤は出番を待つ。自分の役目は、敵を蒲田に行かせないこと。もうすぐここは激戦区になる。
目をこらしているうち、数キロ先に大量のヘッドライトが見え始めた。住人が逃げた後の道が、火の間に黒い筋となって残っている。そこを、薫の率いる部隊が疾走してくる。焦った挙動の敵車両が、右へと視界を横切っていく。
江藤はタブレットで自分の陣の配置を再確認する。すべての道は封鎖し終えた。線路に上がる手段も封じてある。
「さぁて、始まるぞ。ひとりたりとも逃がすなよ」
「了解です」
江藤の宣言に、部下が応じた。
江藤が言うと、宮城がモニターの向こうで怒鳴る。
『あと15分です! くそ~、俺が一番トロいのか』
エンジン音と共に届いた悔しそうな宮城の声に、江藤は声をあげて笑った。宮城は今、中央線に沿って横に伸びきった前線を南に押し下げつつ、東へ移動している。埼玉から南下して敵の西へ回り込む薫と連動し、江藤のいる所にまとめて敵を追い込もうというのだ。
「心配すんな。充分やってる。薫がおかしいんだ」
『高田さんからも連絡きてました。なんか佐木さんがバグってるって』
「あいつだけ倍速で動いてんだよ。おっ噂をすればだ。薫、今どこだ?」
江藤は、宮城との会話に薫を入れた。薫の後ろでは車の音と一緒にアサルトライフルの音が断続的に聞こえてくる。
『あと9分で着く。陣は張り終わったか』
「宮城がまだ移動中だ」
『囲い込みながら動いてるんだから、いけるだろ。10分後に作戦を開始する』
「むちゃくちゃ言うな。宮城を待ってやれ」
『逃げたい奴は東に流せ。北に漏らさなければ、それでいい』
宮城が焦ったように言う。
『間に合わせます』
『頼む』
ガガガガ、という発砲音を残して薫の通話は切れた。
「なんか盛り上がってんな」
『佐木さんマジでおかしいですって』
「許してやれ。蒲田で何が何でも高遠を仕留めたいんだろ」
言いながら、江藤は雑居ビルだった建物の屋上から、北を眺めた。線路と道路の両方が視界に入っている。
薫は例のトンネル出口を爆破した後、高田に制圧を指示し、千葉の部隊を率いて即座に南へとって返した。中央線に沿ってだらだら散開した敵をまとめるべく、屋島に車を運転させて移動しながら、薫はあっという間に地図上にマーカーを置き、宮城に配置と移動を指示してきた。宮城は死に物狂いでその任務をこなしている最中だった。
ビルの屋上からは、全体の様子がよく見えた。
ひどい有り様だ。遠くでも近くでも、煙が夜空を灰色に薄めていた。至るところが燃えている。赤い舌のような炎が揺れ、不気味な音が聞こえてくる。物が壊れる音と燃える音が混ざり合った、獣の咆哮のような音だ。
消防車は使える取水施設から水を出し、必死で消火活動を続けていたが、ちょっとやそっとで収まる量ではない。
「後処理がめんどくさいな……これ……」
うんざりしながら呟く。薫はどこまで来てる? タブレット片手に、江藤は出番を待つ。自分の役目は、敵を蒲田に行かせないこと。もうすぐここは激戦区になる。
目をこらしているうち、数キロ先に大量のヘッドライトが見え始めた。住人が逃げた後の道が、火の間に黒い筋となって残っている。そこを、薫の率いる部隊が疾走してくる。焦った挙動の敵車両が、右へと視界を横切っていく。
江藤はタブレットで自分の陣の配置を再確認する。すべての道は封鎖し終えた。線路に上がる手段も封じてある。
「さぁて、始まるぞ。ひとりたりとも逃がすなよ」
「了解です」
江藤の宣言に、部下が応じた。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
出産は一番の快楽
及川雨音
BL
出産するのが快感の出産フェチな両性具有総受け話。
とにかく出産が好きすぎて出産出産言いまくってます。出産がゲシュタルト崩壊気味。
【注意事項】
*受けは出産したいだけなので、相手や産まれた子どもに興味はないです。
*寝取られ(NTR)属性持ち攻め有りの複数ヤンデレ攻め
*倫理観・道徳観・貞操観が皆無、不謹慎注意
*軽く出産シーン有り
*ボテ腹、母乳、アクメ、授乳、女性器、おっぱい描写有り
続編)
*近親相姦・母子相姦要素有り
*奇形発言注意
*カニバリズム発言有り
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
家族連れ、犯された父親 第二巻「男の性活」 ~40代ガチムチお父さんが、様々な男と交わり本当の自分に目覚めていく物語~
くまみ
BL
ジャンヌ ゲイ小説 ガチムチ 太め 親父系
家族連れ、犯された父親 「交差する野郎たち」の続編、3年後が舞台
<あらすじ>
相模和也は3年前に大学時代の先輩で二つ歳上の槙田准一と20年振りの偶然の再会を果たした。大学時代の和也と准一は性処理と言う名目の性的関係を持っていた!時を経て再開をし、性的関係は恋愛関係へと発展した。高校教師をしていた、准一の教え子たち。鴨居茂、中山智成を交えて、男(ゲイ)の付き合いに目覚めていく和也だった。
あれから3年が経ち、和也も周囲の状況には新たなる男たちが登場。更なる男の深みにはまりゲイであることを自覚していく和也であった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる