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159 『東京』にて(4)
しおりを挟む佐木薫が帰ってきた。
そのニュースは戦場を本人より速く駆け抜けた。自衛軍や警察の間でも、かつて中央線南を仕切っていた江藤と佐木の名前はよく知られていたし、住民たちは2人がいた時代をよく覚えていたのだ。
高遠の車列は三鷹まで走り抜けた後に線路を下り、南東に向かっていた。全員の読み通り、蒲田に向かっている。
宮城はそれを囲い込むように追い立て、幹線道路に集中させようとしていた。江藤と薫は、都内を縦断する環八と環七を北上している。高遠の部隊はまずそこで挟み撃ちの形に持ち込まれた。
元々、そうした結果は向こうも予測していたらしい。一通り暴れ回ると、車列の一部は東へ向かって撤退を始めた。
薫はそれを許さなかった。精鋭の部下を連れた薫は、江藤より速く北上すると、あっという間に敵の東に回り込んだ。
戦闘は苛烈を極めた。
薫はまず、主要な道路を封鎖した。その辺の建築資材や足場を積み上げ、足を止めた車を襲撃するという原始的な作戦ではあったが、恐るべきはその速さだった。
少しでも停車させたら終わり。瞬時に運転手が撃たれ、蜂の巣にされる。何をどう分析しているのか、しまいには先回りされ、車の前面に足場が直接突っ込まれる。
全力で敵が走る。細道を抜けるまであと少し! その寸前に目の前に横づけされ、急ブレーキを踏む。ギアをバックに入れようと手を伸ばす、その一瞬、黒い影が轟音とともにボンネットに着地する。
叫び声が唐突に止まる。フロントガラスを突き破り、運転手の額が日本刀に貫かれている。助手席の男がわめく中、すでに日本刀ごと、怪物は消えている。
スーツ姿のまま、薫はイヤーモニターで指示を飛ばしながら、鬼神のように敵を駆逐していた。味方でさえ後々まで語り継ぐような戦い方だ。
薫には焦りがあった。埼玉まで行き着いて制圧までやり遂げ、帰るには時間がいくらあっても足りない。
屋島は常に車でサポートし続けた。敵から武器をかっぱらい、薫の動きに同調して時に挟みうちにし、時に追従する。
薫の手勢はわずか数台だったが、環七にたどり着いた数十台の敵は、1時間とかからず全滅に追い込まれた。
自分の車に戻ると、薫はドアの外に立ったまま、無表情にタブレットをのぞきこむ。そばに止まった車から弾薬を持ってきた部下が、恐る恐る薫に話しかける。
「先回りとか、どうやって指示してるんですか?」
「あぁ……地図を覚えたから」
薫は生返事だけ返し、考え事を続けていた。どういうことだろうと、その部下は屋島を見る。屋島は弾薬を受け取りながら説明してやった。
「地図を見て、細かい路地まですべて頭に叩き込んでおいて、ルート検索を頭の中でやってるんだ」
「こんな短い時間で?」
「ああ」
ぞっとした顔で、部下は戻っていく。
おかまいなしに、薫はタブレットを見ながら屋島に話しかける。
「ほぼ全て無力化できたはずだ。あとは……向こうの道から出てくる奴がいるはず」
顔を上げて指を振った、その先に、どんぴしゃりワンボックスが転がるように飛び出てくる。
「排除しろ」
『了解!』
イヤーモニターに部下の返答が入る。追跡車がアクセルを踏み、ワンボックスを容赦なくド突く。見事なタイミングで別の車がワンボックスの前に現れる。ワンボックスは焦ったようにハンドルを切り、バランスを崩した。
耳をつんざくブレーキ音、横転する車の重い破壊音、すべてを圧倒する弾幕の音。
しゅうううという音を残して車は動きを止め、グロックを構えた薫が冷たく言い放つ。
「これで、一段落か?」
「そうですね。移動しましょう」
屋島の冷静な答が返る。
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