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71 【2年前】(48)
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前橋に入ると、2人は手頃な衣料店で服を買った。汗臭いし、肌がべたべたする。サキは無精ひげを気にしていたし、レンは髪を洗いたくて仕方がなかった。ドラッグストアにも寄って、傷パッドや鎮痛剤、その他身支度に必要な物を調達する。
サキはいとも普通の顔を装ってローションとゴムもカゴに放り込んだが、レンは離れた所で気づかないふりをした。
まぁ期待はある。でもこの汚れた姿では、そういうことを考えるのが妙に恥ずかしかった。おまけに真昼間。頬に勝手に血が上がるのを、必死で鎮める。サキがそうした感情を自分に向けているというのも、いまいち現実感がなかった。ものすごく頭が良くて、かっこいいサキがレンのために行動を起こし、レンを口説きたがっている? 全然ピンとこない。この数日、サキはレンに取って理想のような人だったし、自分はずっとちっぽけで惨めな存在でしかない。
タカトオに毒されてるなぁと自分で思いながら、それでも、レンは惨めな気分から完全に抜け出すことはできなかった。自分には価値なんかないのに、サキはそんな自分と対等に接してくれる。
努めて無表情を作りながら、レンは自分の買い物を済ませ、サキと一緒に車に戻った。
荷物を後部座席に積み込むと、サキは車の横に立ったまま、電話で誰かと話している。通話を切ると、強くなってきた陽射しに目を細める。
「その辺のスーパーで昼飯を調達したら、ホテルでひとまずゆっくりしよう」
暑くなりそうだった。
話は通っていたらしく、大量の荷物を持った薄汚れた姿の2人に、ホテルのフロント係は何も言わなかった。目を丸くして嫌悪感は滲ませていたが、そこはプロだ。
チェックイン手続きの後、係は荷物を預かっていると言って、ズシリと物が入ったリュックと大きく長いケースを奥から持ってきた。一見すると金管楽器でも入っているように見えるが、それが狙撃銃だということはレンにもすぐわかった。サキは明日の朝までと言ったはずだが、こんなに短時間で届けてくるなんて、どういう知り合いだ?
改めて、サキがかつて『政府』の立ち上げに参加していたという話を思い出す。サキの一言で、瞬時に現金や車、カスタマイズされた狙撃銃まで現れる。その権力の底知れぬ強さに気づき、レンはまじまじとケースを見た。
サキはにこやかにフロント係に礼を言うと、レンを呼び寄せる。
「荷物が多いから、何往復かしないとダメだな。行こう」
カードキーをひらひら振ると、サキは両手に荷物を抱え、しっかりした足取りでエレベーターへ向かっていく。
オレ、ほんとにこの人と一緒でいいんだろうか……。
「お~い、エレベーター来たぞ。持ちきれないのは置いていっていい。早く来いよ」
「はい!」
思わず大きい声で返事をし、小走りで近づくと、サキはレンを見下ろして優しい目で笑った。
「疲れたか? 荷物を運んだらゆっくりできる。あと少しだ」
「はい……」
なんというか、レンにはサキが堪らなく大人に見えた。何度か行き来して荷物を運ぶ間、レンはまともにサキを見られなかった。
サキはいとも普通の顔を装ってローションとゴムもカゴに放り込んだが、レンは離れた所で気づかないふりをした。
まぁ期待はある。でもこの汚れた姿では、そういうことを考えるのが妙に恥ずかしかった。おまけに真昼間。頬に勝手に血が上がるのを、必死で鎮める。サキがそうした感情を自分に向けているというのも、いまいち現実感がなかった。ものすごく頭が良くて、かっこいいサキがレンのために行動を起こし、レンを口説きたがっている? 全然ピンとこない。この数日、サキはレンに取って理想のような人だったし、自分はずっとちっぽけで惨めな存在でしかない。
タカトオに毒されてるなぁと自分で思いながら、それでも、レンは惨めな気分から完全に抜け出すことはできなかった。自分には価値なんかないのに、サキはそんな自分と対等に接してくれる。
努めて無表情を作りながら、レンは自分の買い物を済ませ、サキと一緒に車に戻った。
荷物を後部座席に積み込むと、サキは車の横に立ったまま、電話で誰かと話している。通話を切ると、強くなってきた陽射しに目を細める。
「その辺のスーパーで昼飯を調達したら、ホテルでひとまずゆっくりしよう」
暑くなりそうだった。
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チェックイン手続きの後、係は荷物を預かっていると言って、ズシリと物が入ったリュックと大きく長いケースを奥から持ってきた。一見すると金管楽器でも入っているように見えるが、それが狙撃銃だということはレンにもすぐわかった。サキは明日の朝までと言ったはずだが、こんなに短時間で届けてくるなんて、どういう知り合いだ?
改めて、サキがかつて『政府』の立ち上げに参加していたという話を思い出す。サキの一言で、瞬時に現金や車、カスタマイズされた狙撃銃まで現れる。その権力の底知れぬ強さに気づき、レンはまじまじとケースを見た。
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オレ、ほんとにこの人と一緒でいいんだろうか……。
「お~い、エレベーター来たぞ。持ちきれないのは置いていっていい。早く来いよ」
「はい!」
思わず大きい声で返事をし、小走りで近づくと、サキはレンを見下ろして優しい目で笑った。
「疲れたか? 荷物を運んだらゆっくりできる。あと少しだ」
「はい……」
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