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64 【2年前】(41)
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やれやれ。引き下がらないタケにうんざりして、変な昔話をしちまった。
そんなことを考えながら、エトウはチョコレートバーをもごもご食べた。サキが何日我慢できるか、正直読み切れない。1週間はもたないだろう。まぁまだ3日だ。よっぽどキレるようなことがない限り、あと数日はタカトオと遊んでいるはず。
タケは疲れた顔をして、一旦引き上げていった。少し寝てくれ、頼むから。沈んだ顔で事務室を出ていくタケを見送り、エトウは強張った肩を回し、ストレッチしながら時計を見た。
時間は夜7時を回っている。部下たちは、サキのチームと協力して全面抗争の準備を進めていた。万が一サキに何かあれば、両陣営が激突する可能性は高い。
それでも現状、エトウは統括ペンダントを動かす気もなければ、タカトオと交渉しようという気もなかった。1週間という期限は、タカトオが配下の連中に統括ペンダントを見つけさせるために切った期限でしかない。それらしき者は現れるたびに横の部下がメモを取っている。なにせエトウ達が書庫のド真ん前に居座っているせいで、誰ひとり書庫に入れず、タカトオ陣営は焦っているはずだ。このまま放っておけば、タカトオが期限を延長し、膠着状態に陥るだろう。サキやレンを殺すことも考え得るが、それは一度しか切れない最後のカードであって、私的な因縁を考えればそれはかなり後回しになる。
一方サキは、何も困らない。タカトオとやり合って死のうが、本人は一向に気にしない。統括ペンダントはエトウに託したわけで、仲間のレンをなんとか逃がせれば、後は好き勝手できる。帰る気になれば脱出して帰ってくる。
あいつ、自分の帰りを待ってる人間が大勢いるっていうことはわかってんのかね。
溜息をつき、頬杖をついて書庫のドアを見る。自分が慕われていることにイマイチ無頓着なサキのやり方には不満がある。他人を大事にするんなら、もうちょっと自分も大事にしろよ。
まったく。ほんと、しょうのない奴だ。
「エトウさん、スマホ鳴ってます」
「ん~?」
誰かに言われて、エトウは手元を見た。サキの腹心、ヤシマから電話が入っている。
「何かあったか?」
低い声で出ると、ヤシマが静かに報告してきた。
『タカトオの根城で動きがありました。映像を送りますので、それを確認してからもう一度通話をお願いします』
「わかった」
一旦電話を切り、メールを待つ。ほどなくして、動画が一本送られてきた。スマホで撮ったものだ。ヤシマたちは、タカトオの根城であるマンションを監視している。少し遠くから撮った映像では、最上階からひとつ下の階の1室がアップになっていた。バルコニーに出られないよう、木の板などで封鎖された部屋だが、縦に細く開いた隙間から室内の灯りが漏れている。その灯りが点滅していた。
じっと見ていると、灯りはしばらく消えた。それから数十秒。再度おもむろに点滅を始める。
トントントン、ツーツーツー、トントントン。
点滅は続く。その後、別なパターンの点滅が始まる。そちらも数回繰り返されると、電気は再び、何事もなかったように灯された。
エトウはペンと紙を取り、そのパターンをメモして検索にかけた。
「ほんっと、薫の奴」
呟きながら結果をしばらく眺めると、エトウはヤシマに電話する。
「そっちでは解析できたのか?」
『できました。SOS 6AM。決行しますので準備をお願いします』
「わかった」
電話はそれだけで切れた。
何があったんだ? こっちが思ったより早くサキは脱出してくるつもりだ。灯り以外の動きは報告に上がってきていないから、タカトオは殺されていない。
大あくびをすると、エトウはのんびり立ち上がった。横の部下に指示をする。
「すまん、仮眠してくる。シフト頼む」
「わかりました」
さてさて。サキは何を企んでいるのか。あるいは何にキレたのか。タカトオを殺すと同時に脱出するというのが理想の絵だが、そこまで事態を持っていけたのかどうか。モールス信号の果てまで覚えているサキの記憶力に呆れながら、エトウは事務室の隣にある会議室へ向かう。スマホのアラームを設定すると、並べてある簡易ベッドのひとつに倒れ込む。枕の下にスマホを突っ込みながら、エトウは目をつぶった。
スパイたちも仰天だ。明日からすべてが一気に動き出す。なんせサキが帰ってくるからな。
まだあいつは海の藻屑になる気はないらしい。ひとまずそれは喜ぶべきことだ。だったら。
あいつと一緒に楽しむだけさ。
そんなことを考えながら、エトウはチョコレートバーをもごもご食べた。サキが何日我慢できるか、正直読み切れない。1週間はもたないだろう。まぁまだ3日だ。よっぽどキレるようなことがない限り、あと数日はタカトオと遊んでいるはず。
タケは疲れた顔をして、一旦引き上げていった。少し寝てくれ、頼むから。沈んだ顔で事務室を出ていくタケを見送り、エトウは強張った肩を回し、ストレッチしながら時計を見た。
時間は夜7時を回っている。部下たちは、サキのチームと協力して全面抗争の準備を進めていた。万が一サキに何かあれば、両陣営が激突する可能性は高い。
それでも現状、エトウは統括ペンダントを動かす気もなければ、タカトオと交渉しようという気もなかった。1週間という期限は、タカトオが配下の連中に統括ペンダントを見つけさせるために切った期限でしかない。それらしき者は現れるたびに横の部下がメモを取っている。なにせエトウ達が書庫のド真ん前に居座っているせいで、誰ひとり書庫に入れず、タカトオ陣営は焦っているはずだ。このまま放っておけば、タカトオが期限を延長し、膠着状態に陥るだろう。サキやレンを殺すことも考え得るが、それは一度しか切れない最後のカードであって、私的な因縁を考えればそれはかなり後回しになる。
一方サキは、何も困らない。タカトオとやり合って死のうが、本人は一向に気にしない。統括ペンダントはエトウに託したわけで、仲間のレンをなんとか逃がせれば、後は好き勝手できる。帰る気になれば脱出して帰ってくる。
あいつ、自分の帰りを待ってる人間が大勢いるっていうことはわかってんのかね。
溜息をつき、頬杖をついて書庫のドアを見る。自分が慕われていることにイマイチ無頓着なサキのやり方には不満がある。他人を大事にするんなら、もうちょっと自分も大事にしろよ。
まったく。ほんと、しょうのない奴だ。
「エトウさん、スマホ鳴ってます」
「ん~?」
誰かに言われて、エトウは手元を見た。サキの腹心、ヤシマから電話が入っている。
「何かあったか?」
低い声で出ると、ヤシマが静かに報告してきた。
『タカトオの根城で動きがありました。映像を送りますので、それを確認してからもう一度通話をお願いします』
「わかった」
一旦電話を切り、メールを待つ。ほどなくして、動画が一本送られてきた。スマホで撮ったものだ。ヤシマたちは、タカトオの根城であるマンションを監視している。少し遠くから撮った映像では、最上階からひとつ下の階の1室がアップになっていた。バルコニーに出られないよう、木の板などで封鎖された部屋だが、縦に細く開いた隙間から室内の灯りが漏れている。その灯りが点滅していた。
じっと見ていると、灯りはしばらく消えた。それから数十秒。再度おもむろに点滅を始める。
トントントン、ツーツーツー、トントントン。
点滅は続く。その後、別なパターンの点滅が始まる。そちらも数回繰り返されると、電気は再び、何事もなかったように灯された。
エトウはペンと紙を取り、そのパターンをメモして検索にかけた。
「ほんっと、薫の奴」
呟きながら結果をしばらく眺めると、エトウはヤシマに電話する。
「そっちでは解析できたのか?」
『できました。SOS 6AM。決行しますので準備をお願いします』
「わかった」
電話はそれだけで切れた。
何があったんだ? こっちが思ったより早くサキは脱出してくるつもりだ。灯り以外の動きは報告に上がってきていないから、タカトオは殺されていない。
大あくびをすると、エトウはのんびり立ち上がった。横の部下に指示をする。
「すまん、仮眠してくる。シフト頼む」
「わかりました」
さてさて。サキは何を企んでいるのか。あるいは何にキレたのか。タカトオを殺すと同時に脱出するというのが理想の絵だが、そこまで事態を持っていけたのかどうか。モールス信号の果てまで覚えているサキの記憶力に呆れながら、エトウは事務室の隣にある会議室へ向かう。スマホのアラームを設定すると、並べてある簡易ベッドのひとつに倒れ込む。枕の下にスマホを突っ込みながら、エトウは目をつぶった。
スパイたちも仰天だ。明日からすべてが一気に動き出す。なんせサキが帰ってくるからな。
まだあいつは海の藻屑になる気はないらしい。ひとまずそれは喜ぶべきことだ。だったら。
あいつと一緒に楽しむだけさ。
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