そして悲しみは夜を穿つ

夜野綾

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19 【2年前】(8)

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 数日後、昼食後に休憩しながら、レンは事務室のタブレットでこの間聞いた番号を調べていた。東京都内でまだ通信機器はあまり使えない。だが誰かの話ではケーブルを図書館まで引いたので、この施設内ではインターネットを使うことができる。どういう仕組みで、誰が使えるようにしているのか、レンにはさっぱりだったが。
 例の番号が、本を内容に合わせて分類するためのものだということはわかった。939。アメリカ文学。ただ、それがなぜカウンターでミヤギからエトウに告げられたのかは、レンにはよくわからなかった。
 本なんて、あまり読んだことがない。文字は一応読めるけれど、難しい漢字はわからないし、何よりじっと座ってただの紙を眺めていることに、なんの意味があるのかが理解できなかった。
 タブレットをじっと眺めていると、後ろに人が来る気配があった。椅子の背に寄りかかりながら振り向く。同じチームのタケだった。レンがここに来たときから面倒を見てくれている男だ。26歳、レンより4歳年上の快活な男だった。
 タケは奥へ向かう途中でレンを見ると、ひょいと手を挙げて近づいてきた。タブレットをのぞきこむ。
「何調べてんだ?」
「え、この間サキさんに会いに来た人に、ミヤギさんが番号を言っていて。何かなと思って」
「ふ~ん。あれだろ本の分類をする番号」
「えぇ。そこまではわかりました。でもなんでそれが話題になるのかなって」
 タケはタブレットに手を伸ばした。
「おれも本は読まないけど……その番号を聞くと、エトウさんはサキさんの居場所がわかるらしい。サキさんはマスクの番人をしている時はいつも書庫にいるだろう? その番号の本のところに、サキさんがいるってことだ。」
 それだけ説明すると、タケはレンが調べていたページを閉じ、代わりに音楽ソフトを立ち上げた。聞いたことのない音楽が始まる。女性ボーカルの高音が事務室に突如響く。
 皆が一瞬、レンとタケの方を見たが、特に気にする様子もなく、それぞれが自分の手元に視線を戻した。タケはそうした全員の動きをちらりと確認すると、レンの耳元に口を近づけた。
「どういうつもりだ?」
 ? 何の話だろう? 通じていないレンに、タケはためらうような顔を見せた。それからもう一度レンに囁く。
「今夜お前の部屋に行っていいか。話がある」
「はぁ……大丈夫ですけど」
 それだけを言うと、タケはレンの肩をポンと叩き、奥へ行ってしまった。音楽ソフトを閉じたものの、履歴をたどる前に第3リーダーのミヤギが呼ぶ声が聞こえた。


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