17 / 181
17 【2年前】(6)
しおりを挟む
マスクが届くと、数日はグループ全体が忙しくなる。公立マーケットや医療施設など、様々な場所へマスクを分配し、売り上げを管理して記録する。こちらに直接買いに来る住民もいて、エントランスの奥のカウンターは、ちょっとした店としても機能していた。
今月のカウンターのシフトは第3チームだった。ミヤギが所在なさげにカウンターに座り、ぼんやりとエントランスを眺めている。松葉杖が傍らに置かれているが、ミヤギはそれほど落ち込んではいなかった。死ななかったのだから上出来だ。奥の事務室では、第3と第4チームが伝票や帳簿の仕事をしたり、地図を広げて、マスクや支援物資の配達経路を検討したりしていた。第1は建物の警備専門で、それ以外は配達や周囲の警戒に出払っている。
レンはガラス扉のすぐ内側で「門番」をしていた。入ってくる者には、必ずボディチェックをしなければならない。マスクが届いてから3日経ち、その仕事にもいい加減慣れた頃、ひとりの男がやってきた。
男は、正確に言えばひとりではなかった。建物の前にある駐車場に車を止め、ひとりで降りてきたのだ。車の中には2人ほどが残っていた。レンが見る限り、護衛のような雰囲気だった。
エントランスから入ってくると、男はフィルターマスクを外してレンに微笑んだ。30代だろうか。近くで見ると、男は190センチぐらい、レンより20センチ以上背が高い。彼は持っていた紙袋をテーブルに置くと、ジャケットの前をゆっくりめくり、ショルダーホルスターからジェリコを抜く。テーブルに2丁置いて、今度は腰からバックアップの銃を出し、さらにナイフやら予備弾倉やらを積み上げてから、彼はボディチェックのために両手を上げた。
「君は新人さんかい?」
快活な話し方だった。いたずらっぽい目で、男はレンに話しかける。Tシャツに適当なジャケット、擦り切れたジーンズといういで立ちだったが、その雰囲気には貫禄があった。整った顔をしている。
「はい。まだ2週間経ってません」
「そうか~。前はどこにいたの?」
「……埼玉の方です」
「そっかそっか」
男はそれ以上聞かなかった。
「あ、袋の中は差し入れだから、チェックしてもらってもいいかな?」
「はい」
言われたとおり、紙袋の中身を見る。レトルトのハンバーグやらシチュー、カレー、米などが入っていた。
男はおとなしくボディチェックを受け、紙袋だけ受け取って中へ歩いて行く。カウンターの奥にいたミヤギが声を上げた。
「エトウさん、おつかれさまです」
エトウと呼ばれた男は、片手を挙げてミヤギに挨拶をすると、カウンターに腰を預けて話し始めた。
レンがなんとなくそれを見ていると、同じチームの者が事務室からやってきた。交代の時間だった。レンは軽く引き継ぎをして事務室へ向かう。その姿に、ミヤギが会話を中断して話しかける。
「あ、レン。ちょっと待ってくれ」
ミヤギは紙袋をレンに差し出した。
「昼飯に皆で食べよう。事務室に持っていってくれ」
「わかりました」
エトウは、ミヤギとそのまま話していた。彼がミヤギに質問するのがレンにも聞こえる。
「で? 『司書』殿は今日はどこに?」
「あぁ、939って言ってました」
「そう」
何の番号だろう? そう思いながら、レンは事務室に入っていった。
今月のカウンターのシフトは第3チームだった。ミヤギが所在なさげにカウンターに座り、ぼんやりとエントランスを眺めている。松葉杖が傍らに置かれているが、ミヤギはそれほど落ち込んではいなかった。死ななかったのだから上出来だ。奥の事務室では、第3と第4チームが伝票や帳簿の仕事をしたり、地図を広げて、マスクや支援物資の配達経路を検討したりしていた。第1は建物の警備専門で、それ以外は配達や周囲の警戒に出払っている。
レンはガラス扉のすぐ内側で「門番」をしていた。入ってくる者には、必ずボディチェックをしなければならない。マスクが届いてから3日経ち、その仕事にもいい加減慣れた頃、ひとりの男がやってきた。
男は、正確に言えばひとりではなかった。建物の前にある駐車場に車を止め、ひとりで降りてきたのだ。車の中には2人ほどが残っていた。レンが見る限り、護衛のような雰囲気だった。
エントランスから入ってくると、男はフィルターマスクを外してレンに微笑んだ。30代だろうか。近くで見ると、男は190センチぐらい、レンより20センチ以上背が高い。彼は持っていた紙袋をテーブルに置くと、ジャケットの前をゆっくりめくり、ショルダーホルスターからジェリコを抜く。テーブルに2丁置いて、今度は腰からバックアップの銃を出し、さらにナイフやら予備弾倉やらを積み上げてから、彼はボディチェックのために両手を上げた。
「君は新人さんかい?」
快活な話し方だった。いたずらっぽい目で、男はレンに話しかける。Tシャツに適当なジャケット、擦り切れたジーンズといういで立ちだったが、その雰囲気には貫禄があった。整った顔をしている。
「はい。まだ2週間経ってません」
「そうか~。前はどこにいたの?」
「……埼玉の方です」
「そっかそっか」
男はそれ以上聞かなかった。
「あ、袋の中は差し入れだから、チェックしてもらってもいいかな?」
「はい」
言われたとおり、紙袋の中身を見る。レトルトのハンバーグやらシチュー、カレー、米などが入っていた。
男はおとなしくボディチェックを受け、紙袋だけ受け取って中へ歩いて行く。カウンターの奥にいたミヤギが声を上げた。
「エトウさん、おつかれさまです」
エトウと呼ばれた男は、片手を挙げてミヤギに挨拶をすると、カウンターに腰を預けて話し始めた。
レンがなんとなくそれを見ていると、同じチームの者が事務室からやってきた。交代の時間だった。レンは軽く引き継ぎをして事務室へ向かう。その姿に、ミヤギが会話を中断して話しかける。
「あ、レン。ちょっと待ってくれ」
ミヤギは紙袋をレンに差し出した。
「昼飯に皆で食べよう。事務室に持っていってくれ」
「わかりました」
エトウは、ミヤギとそのまま話していた。彼がミヤギに質問するのがレンにも聞こえる。
「で? 『司書』殿は今日はどこに?」
「あぁ、939って言ってました」
「そう」
何の番号だろう? そう思いながら、レンは事務室に入っていった。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
夏の扉を開けるとき
萩尾雅縁
BL
「霧のはし 虹のたもとで 2nd season」
アルビーの留学を控えた二か月間の夏物語。
僕の心はきみには見えない――。
やっと通じ合えたと思ったのに――。
思いがけない闖入者に平穏を乱され、冷静ではいられないアルビー。
不可思議で傍若無人、何やら訳アリなコウの友人たちに振り回され、断ち切れない過去のしがらみが浮かび上がる。
夢と現を両手に掬い、境界線を綱渡りする。
アルビーの心に映る万華鏡のように脆く、危うい世界が広がる――。
*****
コウからアルビーへ一人称視点が切り替わっていますが、続編として内容は続いています。独立した作品としては読めませんので、「霧のはし 虹のたもとで」からお読み下さい。
注・精神疾患に関する記述があります。ご不快に感じられる面があるかもしれません。
(番外編「憂鬱な朝」をプロローグとして挿入しています)
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる