腐れ外道の城

詠野ごりら

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2章

八山 5

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     八山 5

 ドンドンドン!
 寺の木戸を激しく叩く音に、八山は面倒臭そうに反応した。
 激しい雨は収まったとはいえ、まだ外は小雨が降り続いている。
「なんだ!なんだ、こんな夜更けにやかましい」
 八山は眉をひそめながら、戸を開けると、そこには村人の青年が血相を変えて立っていた。
「どうした?なにかあったか」
 青年はずぶ濡れで、しかも腰から下が泥だらけで、一見しただけでも尋常では無いことがわかる様相であった。
「樋野の侍だと思うんだが・・・いや、樋野の侍だって言っておるんじゃが、オラの畑で、若ぇ奴が泥だらけで倒れとってよぉ・・・」
「なんと、物騒だのぉ、そいで、その若ぇのは生きておるのか」
「おう、助け上げて、オラの家に連れてったら、八山と言う坊主に会わせろ、ここにおるはずだってえれぇ剣幕でいうものだで、どうしたらよいべや」
 八山も眉をひそめるしかない、三郎衛兵が少年だった頃、樋野の地を出てから、樋野とはなんの関わり合いもないのである。
「樋野の侍が拙僧になんの用じゃと?」
 その時、戸の影から全身茶色の、泥人形のような男が現れた。
「アンタが八山か・・・」
「おめぇ着いてきただか!」
「いかにも、拙僧が八山だが」
「俺は甲四郎・・・栗原甲四郎・・・三郎兵衛様が亡くなる前、八山坊主に会えと言われたのでここまできた」
 八山の周りだけ一瞬時が止まり、血の気が引くのが恐ろしいほどわかった。
「三郎兵衛が死んだと!」
「左様、三郎兵衛様は、反吐のような新国主に、腕を斬られ・・・首をはねられた・・・あんなのモノノフの死に方じゃねぇ!」
 泥の塊のような甲四郎は、天を仰ぎ、力尽きるように土間に倒れ込んだ。
 甲四郎はこの場に辿り着くまで、十日以上食事らしい食事も取らず、ただ三郎兵衛に言われた僧侶の名と、三郎兵衛も人づてに聞いただけの居所を目指し、この小さな山寺に辿り着いたのだ。
 そして甲四郎は糸が切れたように、土間に倒れまま意識を失った。

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