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1章
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敵も味方も皆三郎兵衛に怯む中、なおも敵を威嚇し続けた。
「よく聞け!貴様らの腐れ主君、井藤十兵衛は、我が殿忠康様から、平野の土地を拝命されたにもかかわらず、その恩を踏みにじり、反旗を翻した腐れ下郎ぞ!貴様等はその砦を井藤砦などと呼びいい気になっているようだがこの丘も、その先にある平野城も忠康様のものなのだという事を忘れるな!」
平素、中年農夫のような見てくれで、温厚で物静かな三郎衛兵が、こと戦場に立つと人が変わり、口汚い言動が喉の奥からあふれ出る。
その口汚い罵りに触発され、兵の一人が合いの手のように敵を罵り始めた。
「そうだそうだ!そんな砦ワシ等がぶん取って、黒田砦にしてやるわい!」
「いやぁ!三郎衛兵様はやはり三郎衛兵様!三郎衛兵砦じゃ!」
「そうじゃそうじゃ!三郎衛兵砦じゃ!」
それをきっかけに三郎兵衛隊がワッと沸き立ち、ジリジリと歩を進め、攻撃にも勢いを増し始めた。
だが、前進を続ける三郎兵衛隊を、弓矢と投石が襲う、しかも投石のとどく率が増え始めた。
それを見極めた十吉が、三郎衛兵に声をかける。
「三郎兵衛様、敵の投石の範囲に入りましたぞ!ここは一端止まらねば」
「うむ!皆この場で迎え撃て!」
戦国前期はもとより、鉄砲が登場し平常装備となった戦国末期でも、投石は飛び道具の主流であり続けた。なぜなら投石は、弓矢や鉄砲より攻撃の連続性が保てる上に、「弾」となる石は、どこでも容易に確保出来る。しかも敵の戦意を消失できる。何より技術もいらず敵兵を殺傷可能な、優秀な武器なのである。
実は戦国期にあって、戦場での死亡原因の一位は投石であったというデータもあるほどなのだ。
三郎兵衛たちは、投石の射程範囲すれすれで踏みとどまり、応戦を続ける。
これ以上前進をすれば、味方の損失が大きくなる一方、こちらから反撃をする余裕が無くなるのだ。
「くっ!甲四郎の奴め、しくじったか」
十吉が苦い顔で丘の横にある岩山を見上げ、唸る。
「十吉よ我が息子を信じるのだ、今頃甲四郎も必死に砦に取り付こうとしておるのだ」
栗原甲四郎とは、栗原十吉の息子であり、井藤砦攻略戦、前日にみずから三郎兵衛に、丘の東側斜面から奇襲をかけるべきだと申し出た発案者であり、井藤砦攻略戦を正攻法の正面突破にしたのも、甲四郎の提案があったればこそなのである。
しかし、奇襲をかける頃合いはとうに過ぎている。
ここは奇襲が無いことも考えて戦略を練り直す必要があるだろう。
「やはりあのような愚息に、大役を任せるべきではなかったのでは・・・」
十吉は歯ぎしりをしながら丘の上をみあげた。
「十吉!我が子を信じずどうする!」
三郎衛兵も丘の上を睨みながら、十吉を叱咤した。
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敵も味方も皆三郎兵衛に怯む中、なおも敵を威嚇し続けた。
「よく聞け!貴様らの腐れ主君、井藤十兵衛は、我が殿忠康様から、平野の土地を拝命されたにもかかわらず、その恩を踏みにじり、反旗を翻した腐れ下郎ぞ!貴様等はその砦を井藤砦などと呼びいい気になっているようだがこの丘も、その先にある平野城も忠康様のものなのだという事を忘れるな!」
平素、中年農夫のような見てくれで、温厚で物静かな三郎衛兵が、こと戦場に立つと人が変わり、口汚い言動が喉の奥からあふれ出る。
その口汚い罵りに触発され、兵の一人が合いの手のように敵を罵り始めた。
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「いやぁ!三郎衛兵様はやはり三郎衛兵様!三郎衛兵砦じゃ!」
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それをきっかけに三郎兵衛隊がワッと沸き立ち、ジリジリと歩を進め、攻撃にも勢いを増し始めた。
だが、前進を続ける三郎兵衛隊を、弓矢と投石が襲う、しかも投石のとどく率が増え始めた。
それを見極めた十吉が、三郎衛兵に声をかける。
「三郎兵衛様、敵の投石の範囲に入りましたぞ!ここは一端止まらねば」
「うむ!皆この場で迎え撃て!」
戦国前期はもとより、鉄砲が登場し平常装備となった戦国末期でも、投石は飛び道具の主流であり続けた。なぜなら投石は、弓矢や鉄砲より攻撃の連続性が保てる上に、「弾」となる石は、どこでも容易に確保出来る。しかも敵の戦意を消失できる。何より技術もいらず敵兵を殺傷可能な、優秀な武器なのである。
実は戦国期にあって、戦場での死亡原因の一位は投石であったというデータもあるほどなのだ。
三郎兵衛たちは、投石の射程範囲すれすれで踏みとどまり、応戦を続ける。
これ以上前進をすれば、味方の損失が大きくなる一方、こちらから反撃をする余裕が無くなるのだ。
「くっ!甲四郎の奴め、しくじったか」
十吉が苦い顔で丘の横にある岩山を見上げ、唸る。
「十吉よ我が息子を信じるのだ、今頃甲四郎も必死に砦に取り付こうとしておるのだ」
栗原甲四郎とは、栗原十吉の息子であり、井藤砦攻略戦、前日にみずから三郎兵衛に、丘の東側斜面から奇襲をかけるべきだと申し出た発案者であり、井藤砦攻略戦を正攻法の正面突破にしたのも、甲四郎の提案があったればこそなのである。
しかし、奇襲をかける頃合いはとうに過ぎている。
ここは奇襲が無いことも考えて戦略を練り直す必要があるだろう。
「やはりあのような愚息に、大役を任せるべきではなかったのでは・・・」
十吉は歯ぎしりをしながら丘の上をみあげた。
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三郎衛兵も丘の上を睨みながら、十吉を叱咤した。
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