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四章
2021暮秋2
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中根は尋常では無い目の前の人間に、怯み震えながらも、虚勢を張って見せる。
「なにをいってる・・・お前・・・頭おかしいんじゃねぇのか!」
言いながら中根の表情は恐怖に支配され、足が思うように動かないようである。
「怨みを解き放て!この男、幾人もの生きる道を葬ってきたのだぞ」
「おい!なにいってんだよ・・・あっ・・・今警察に電話するから・・・下手なことすんじゃないぞコラ」
八咫のもつ能力によるものなのか、中根の目を見ていると、数々の女性の中根に対する怨みの声が、村上の中に飛び込んできて、とても自分がけの精神では自分の身体を押さえきれない状態になった。
「お前は生きる価値もなければ、死ぬ価値もない、ならばいっそ・・・」
村上は、中根が貶めた者たちの怨みに支配され、刀を振り上げていた。
その行動は、八咫がさせているのでもなく、伊助が代わりに動いているのでもなく、あきらかに村上本人の行動であった。
「貴様のようなクズを、ひと思いに楽にしてしまうのもシャクだが、こうするほかないようだな」
村上が刀を振り下ろそうとすると、目の前の中根は、何者かに突き飛ばされ、目の前に違う人影が現れた。
岩田である。
岩田は、目の前で止まった刃にも躊躇することなく、激しい形相で村上を睨みつけていた。
村上は、岩田顔の寸前で止まった刃に、内心安堵しながらも、吠えた。
「余計なことを・・・」
そう叫んだ時、村上は体内から何かが抜け落ちるのを感じた。
岩田もそれに気づき、村上の足下を見る。
そこには、天国が天皇に献上したもう一振りの小烏丸が落ちていた。
「村上、これはお前の正義感が吐き出した形だ、さあお前も戻ってこい」
村上の表情は険しく、岩田を睨み付けて。
「アンタに俺の何がわかる!」
岩田は自分に対して吐き出された村上の怒りに、表情を変えることなく即答した。
「わかる?ふざかんな!お前のことなんかわかるわけねぇだろ!」
「えっ?」
村上は不快な思念が覆う中、いつも通り飄々とそこにいる岩田に、一瞬間の抜けた声で答えてしまった。
「人と人がいちいちわかり合う必要なんてあんのか?
村上よぉ!わからねぇ同士だから人はお互い生きて行けるじゃねぇのか?」
岩田は村上から目を離さず、徐々に緩やかな表情になり、少しづつ村上の方へ歩み寄ってゆく。
「人間が・・ワレの怨みに口だしするでない!」
岩田は八咫の声に変貌した村上にも、臆せず吠える。
「やかましいだよ!化け物は引っ込んでろ!俺と相棒の話をしてんだよ!」
「イワ・・・サン・・・」
「そんな所で薄気味悪いゴタクを並べてねぇで、こっちに帰ってこい!村上!お前は自分の怒りだけで手一杯だろ!こっち来い・・・」
岩田の目は強くも、距離感を掴み倦ねている父親の目であった。
「岩さん・・・・」
村上は、その場に力なく跪き、そのまま地面に倒れ込んだ。
岩田は村上を抱き上げ、前を見ると、八咫がこちらを見ながら低空で翼を羽ばたかせている。
岩田は、低空で羽ばたく八咫烏を見上げる。
「もう何処にでも行ってくれ!ここは化け物のいる場所じゃないんだ」
村上と岩田の目の前を羽ばたいていた、八咫烏の表情が何かを視界に捕らえ、険しくなった。
「オノレ!天国・・・」
八咫の目には、岩田と村上を守るように真の小烏丸から陽炎が立ち上り、そのなかに天国が立っているのが見えた。
「小烏をとれ!」
村上と岩田に。聞き覚えのない老人の声が聞こえた。
天国の声だ。
村上は必死に立ち上がり、小烏丸を取ろうとするが、思うように身体が動かず、代わりに小烏丸の柄をとり立ち上がったのは、岩田であった。
「なんでこうなるんだか・・・」
弱々しい姿勢で小烏丸を構える岩田に、八咫は急接近すると、伊助の姿に変わった。
「ケッ・・・」
「お前も取り込まれたクチか・・・」
伊助は上段から大ぶりに刀を振り下ろすと、岩田はそれを頭上で受け止めた。
「八咫烏の血を引く者よ・・・あのような獣に落とされたか!」
伊助には岩田の前に立ち、剣を受け止めている天国の姿がはっきりと見えている。
(ケケッ・・・ヤツに聞こえんように言ってやる、ヤツは俺を支配していると勘違いしておるが、支配しておるのは・・・俺よ・・・クックックッ)
そう言うと、伊助は身体を回転させながら、後方へ引き、八咫の姿に変わり、宵闇の空へ消えてしまった。
「岩さん・・・アイツは?・・・」
岩田は村上を抱き起こし。
「どっかへ飛んでいったよ・・・」
「違います・・・あのクズ野郎は」
岩田は中根を突き飛ばした方向を見るが、もうそこには中根の姿は無かった。
「ヤツはこれからたっぷり生き地獄を味わう事になるだろうよ・・・親からも見放され、法廷で次々と化けの皮が剥がれていくだろ・・・」
もう中根を守ってくれた少年法は、今の中根を守ってはくれない。
「それより、なんでここがわかったんです?」
「奴らの動きはずっと張っていた・・・ヤツの手下だった男が、化け物カラスに襲われたってウチの署に来た時に、次はアイツだなって・・・俺にも勘が働くときはある」
「伊助の刀・・・よくとめられましたね・・・」
岩田は一瞬口ごもったが、軽く微笑むと、手に持っている小烏丸を見つめた。
「この刀が・・・多分、テンゴクって爺さんが助けてくれたんだと思う・・・」
「テンクニですよ・・・天国(テンクニ)何回いったら覚えるんすか!」
「チッ!お前なんか助けるんじゃなかった・・・」
「その刀どうします?」
「馬鹿!返すに決まってんじゃねぇか!」
「マジっすか・・・いっぺん中にいるテンゴク爺さんに聞いてみたほうがいいんじゃないっすか?」
「馬鹿!刑事に国の宝物盗めなんて本気でいてんのかよ!・・・しかしどうやって説明して返せばいいと思う・・・コレ」
「ですねぇ・・・岩さんが返しにいったんじゃ、捕まりかねないですからね・・・」
「お前!本当にカラスの餌になってりゃよかったのにな!」
岩田は笑いながら、肩で抱いた村上を振り払うふりをした。
【完】
中根は尋常では無い目の前の人間に、怯み震えながらも、虚勢を張って見せる。
「なにをいってる・・・お前・・・頭おかしいんじゃねぇのか!」
言いながら中根の表情は恐怖に支配され、足が思うように動かないようである。
「怨みを解き放て!この男、幾人もの生きる道を葬ってきたのだぞ」
「おい!なにいってんだよ・・・あっ・・・今警察に電話するから・・・下手なことすんじゃないぞコラ」
八咫のもつ能力によるものなのか、中根の目を見ていると、数々の女性の中根に対する怨みの声が、村上の中に飛び込んできて、とても自分がけの精神では自分の身体を押さえきれない状態になった。
「お前は生きる価値もなければ、死ぬ価値もない、ならばいっそ・・・」
村上は、中根が貶めた者たちの怨みに支配され、刀を振り上げていた。
その行動は、八咫がさせているのでもなく、伊助が代わりに動いているのでもなく、あきらかに村上本人の行動であった。
「貴様のようなクズを、ひと思いに楽にしてしまうのもシャクだが、こうするほかないようだな」
村上が刀を振り下ろそうとすると、目の前の中根は、何者かに突き飛ばされ、目の前に違う人影が現れた。
岩田である。
岩田は、目の前で止まった刃にも躊躇することなく、激しい形相で村上を睨みつけていた。
村上は、岩田顔の寸前で止まった刃に、内心安堵しながらも、吠えた。
「余計なことを・・・」
そう叫んだ時、村上は体内から何かが抜け落ちるのを感じた。
岩田もそれに気づき、村上の足下を見る。
そこには、天国が天皇に献上したもう一振りの小烏丸が落ちていた。
「村上、これはお前の正義感が吐き出した形だ、さあお前も戻ってこい」
村上の表情は険しく、岩田を睨み付けて。
「アンタに俺の何がわかる!」
岩田は自分に対して吐き出された村上の怒りに、表情を変えることなく即答した。
「わかる?ふざかんな!お前のことなんかわかるわけねぇだろ!」
「えっ?」
村上は不快な思念が覆う中、いつも通り飄々とそこにいる岩田に、一瞬間の抜けた声で答えてしまった。
「人と人がいちいちわかり合う必要なんてあんのか?
村上よぉ!わからねぇ同士だから人はお互い生きて行けるじゃねぇのか?」
岩田は村上から目を離さず、徐々に緩やかな表情になり、少しづつ村上の方へ歩み寄ってゆく。
「人間が・・ワレの怨みに口だしするでない!」
岩田は八咫の声に変貌した村上にも、臆せず吠える。
「やかましいだよ!化け物は引っ込んでろ!俺と相棒の話をしてんだよ!」
「イワ・・・サン・・・」
「そんな所で薄気味悪いゴタクを並べてねぇで、こっちに帰ってこい!村上!お前は自分の怒りだけで手一杯だろ!こっち来い・・・」
岩田の目は強くも、距離感を掴み倦ねている父親の目であった。
「岩さん・・・・」
村上は、その場に力なく跪き、そのまま地面に倒れ込んだ。
岩田は村上を抱き上げ、前を見ると、八咫がこちらを見ながら低空で翼を羽ばたかせている。
岩田は、低空で羽ばたく八咫烏を見上げる。
「もう何処にでも行ってくれ!ここは化け物のいる場所じゃないんだ」
村上と岩田の目の前を羽ばたいていた、八咫烏の表情が何かを視界に捕らえ、険しくなった。
「オノレ!天国・・・」
八咫の目には、岩田と村上を守るように真の小烏丸から陽炎が立ち上り、そのなかに天国が立っているのが見えた。
「小烏をとれ!」
村上と岩田に。聞き覚えのない老人の声が聞こえた。
天国の声だ。
村上は必死に立ち上がり、小烏丸を取ろうとするが、思うように身体が動かず、代わりに小烏丸の柄をとり立ち上がったのは、岩田であった。
「なんでこうなるんだか・・・」
弱々しい姿勢で小烏丸を構える岩田に、八咫は急接近すると、伊助の姿に変わった。
「ケッ・・・」
「お前も取り込まれたクチか・・・」
伊助は上段から大ぶりに刀を振り下ろすと、岩田はそれを頭上で受け止めた。
「八咫烏の血を引く者よ・・・あのような獣に落とされたか!」
伊助には岩田の前に立ち、剣を受け止めている天国の姿がはっきりと見えている。
(ケケッ・・・ヤツに聞こえんように言ってやる、ヤツは俺を支配していると勘違いしておるが、支配しておるのは・・・俺よ・・・クックックッ)
そう言うと、伊助は身体を回転させながら、後方へ引き、八咫の姿に変わり、宵闇の空へ消えてしまった。
「岩さん・・・アイツは?・・・」
岩田は村上を抱き起こし。
「どっかへ飛んでいったよ・・・」
「違います・・・あのクズ野郎は」
岩田は中根を突き飛ばした方向を見るが、もうそこには中根の姿は無かった。
「ヤツはこれからたっぷり生き地獄を味わう事になるだろうよ・・・親からも見放され、法廷で次々と化けの皮が剥がれていくだろ・・・」
もう中根を守ってくれた少年法は、今の中根を守ってはくれない。
「それより、なんでここがわかったんです?」
「奴らの動きはずっと張っていた・・・ヤツの手下だった男が、化け物カラスに襲われたってウチの署に来た時に、次はアイツだなって・・・俺にも勘が働くときはある」
「伊助の刀・・・よくとめられましたね・・・」
岩田は一瞬口ごもったが、軽く微笑むと、手に持っている小烏丸を見つめた。
「この刀が・・・多分、テンゴクって爺さんが助けてくれたんだと思う・・・」
「テンクニですよ・・・天国(テンクニ)何回いったら覚えるんすか!」
「チッ!お前なんか助けるんじゃなかった・・・」
「その刀どうします?」
「馬鹿!返すに決まってんじゃねぇか!」
「マジっすか・・・いっぺん中にいるテンゴク爺さんに聞いてみたほうがいいんじゃないっすか?」
「馬鹿!刑事に国の宝物盗めなんて本気でいてんのかよ!・・・しかしどうやって説明して返せばいいと思う・・・コレ」
「ですねぇ・・・岩さんが返しにいったんじゃ、捕まりかねないですからね・・・」
「お前!本当にカラスの餌になってりゃよかったのにな!」
岩田は笑いながら、肩で抱いた村上を振り払うふりをした。
【完】
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