怨刃=ENNJINN=

詠野ごりら

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一章

800年 3

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 暫くの時がたち、役人等の伝言が何段階も経て、天国へ伝えられた。

「この剣は誠に面妖な姿をしておるが、如何様な意味があるのだ?」
 こう伝えられると、天国は「恐れながら申し上げまする」と、前置きし。
「新たなる都に相応しく、又、大和の地に導きたる霊鳥八咫烏の恩魂をそこにこめ、平安の都が永劫に有らんことを祈り、作刀いたしまして御座りまする」

 天国の言葉が、伝言に伝言を経て、再び天皇の言葉が返ってきた。

「では、この剣を「小烏丸」と名付け、平安京の守り神といたそう」

「もったいなきお言葉・・・」
 天国は感動のあまり、平伏しながら嗚咽しそうになるのを必死で堪え、礼の言葉をいい短い「謁見」の時間は呆気なく終わった。

 しかし、天国の心は充実感と深い達成感に満たされていた。
 報酬のは僅かな砂金と名誉だけであったが、天国にはそれで十分で有った。


 だが、天国には気がかりな事柄が一つ残されている。
 八咫だ。
 
 あの小さな社で天国に「小烏丸」の発想と奇妙な力を与えたあの怪鳥と向かい合わなければならない。
 天国は工房へ帰るなり、意を決したように近くの井戸へ行き、水を汲み、工房の前の小さな庭で全裸になると頭から桶の水を被り身を清めた。
「あのカラスは儂が約束を破り大君に刀を献上したことに気づいているだろうか」

 きっと気づいているに違いない。
 
 日が暮れかけると、天国は二振りの刀を抱え、社のある小高い山に登った。
 社の鳥居をくぐると、社の屋根に八咫が舞い降りた。

「浅はかな企みを我が見透かしておらぬとでも思ったか」

「いや、見透かされていると覚悟の上、大君には真っ新な剣を献上した」
「なるほどな・・・してその二口(ふたふり
)の一つは我の授けた力で弟子を封じ込めた刃か・・・」
 天国は小さく頷いた。
「やはり、あの力はお前が儂に授けた力か」
「左様・・・あの力で我を刀に封じ込め、それを天皇に送らせたかったのだがな・・・まぁ仕方がなかろう」
「小烏丸に魂として入り、帝を操ろうとでも思っておったろうが、そのようなことをさせるはずがなかろう!」
 八咫は嘴を大きく開いて笑った。
「なにが可笑しい!」
「小烏丸か!我の魂を入れるには相応しい名を付けたものだがな・・・お主は我との契約を破った!」
 一瞬にして八咫の「表情」は厳しくなり、瞳が黄色く輝いた。
「我を欺こうなど、愚かなり!」

 八咫は社の屋根を蹴り、飛び上がると、地表に腹をこするほどを滑空し、天国を嘴で貫こうとする。

 一方天国は、八咫が飛び上がったと同時に刀を抜き、八咫を迎え撃った。

「ディエェェェイ!」

 天国の気合いの声と共に、八咫の身体は刀の中へ吸い込まれて行く。
「あのような力・・・おのれのような者に手渡したのが間違えだった!」

 八咫の苦悶の声は刀に吸い込まれ、もう一振りの「小烏丸」は青紫色の光りを放つと、やがてそれも消え、小烏丸は元の鋼の刀へと戻っていく。

 天国は荒い息が整うと、八咫の魂を封じ込めた「小烏丸」を鞘に収め、そっと社の中へ刀を治めた。

「これであの怪物もこの世に現れる事はあるまい・・・」

 既に暗闇に変容している中、天国はふらつきながら工房へと帰って行く。


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