貴族子女の憂鬱

花朝 はな

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第十話 悪戯好きって誰の事④

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 「・・・母様のことだから、何か企んでいるんのでしょうね・・・」

 「あまり気になさらなくて良いと思いますよ、お嬢様」

 カイサが、私の呟きを聞いていたのか、言葉を返す。どうやら第二王子殿下のことで、母が何事かをしたと考えた結果、考えに行き詰まり、私が呟いたと思ったようだ。
 私は本当は第二王子殿下のことのみ考えていたわけではない。正しくはなぜあの母が婚約者の選定をしようとして各国の王族や貴族に申し入れをしたのか、その本心が知りたいと思って思わす呟いたのだが。

 「・・・」

 私は何も答えることなく、カイサをじっと見返した。その私の視線に、カイサは軽く頷くとなぜかにっこりと笑った。話を続けろと私が視線で促したと思ったようだ。事実はちょっと違うのだが。

 「反対にご自分の娘のお相手になる方が、お優しいだけではないのをお喜び為されていると思います。お里ではどのような暮らし方をされていたのかは知ってはおりませんが、王太子殿下と表向きは対立していたとは聞いておりませんでしたので、注目はされないようにしていたか、王宮で息を潜めていたとかではないかと」

 「・・・あの第二王子殿下のことを考えていたわけではないけど・・・」

 「・・・おや、それではどなたのことをお考えに?」

 「・・・いや、誰とかを想定してはいないのだけれど・・・」

 「・・・左様でしたか」

 「・・・」

 何か追及されるかと考えたのだが、カイサは何も言葉を重ねず、そのままつと用意してあったお茶を淹れるためか、ワゴンに向いて二三歩歩きかけて、足を止めた。くるりと振り向くが、暗い顔はせず、ただただ淡々と話を続ける。

 「私があの第二王子の立場なら、エルベン王国で王太子から警戒されて、息をひそめて生きるよりも、ログネル王国で暮らす方がマシだろうと考えます。何かしら警戒されていれば、暗殺の危険は付きまといます。他にも交友関係から痛くもない腹を探られ、ついには国家反逆の罪とかでっち上げられて死罪にされるなど、嫌や過ぎますし・・・。ですから、あの第二王子は転機を迎えていると思うのです、そして、あの王子もそれを理解している・・・。私はそう考えて居りますが、お嬢様はどう考えておられまるのでしょう?」

 「・・・まあ、エルベン王国の第二王子殿下に関しては、そのような見方ができるとは思うのだけれど」

 カイサに問いかけられ、私も一応そこまでは考えていたことを話す。

 「だけれど・・・?」

 カイサが訝し気な表情になる。

 「わたしはあのアランコの第三王子も顔見せをしたしね」

 「ああ、あれですか・・・」

 カイサは今でもあの人物が嫌いなようで、あの王子の話題が出るだけでそろそろ落ち着いても良いはずの年齢にもかかわらず、その侍女にしておくには勿体ない端正な美貌を顰めて、肌に粟を作って嫌悪感を面に出してしまう。

 「アランコ王国のあのダメダメ第三王子は、今では大人しくなったのですか?今だに学園には来ているようですけれど?」

 「うーん、・・・私には関わってはこないようだけど、時折、何かしら黙ったまま、じっと私を見ているときはあるね」

 「近づいてきたりとかはあるのですか?」

 「自らは近づいてきたりはしないみたい」

 そう言った後、私はその時の様子を思い出して付け加える。

 「・・・でも、護衛みたいな雰囲気の悪い男性が二三人周りに居たかな」

 「・・・」

 私の言葉に、カイサが一瞬だけ顔を上げ、ちらりと探るように私を見たが、すぐに視線を逸らす。そのまま、ワゴンに近寄り、お茶の準備を始める。

 「お嬢様にはどうでも良いお話だと思いますが、・・・どうもアランコ王国側は、ログネルのごり押しに屈せず、自国の名誉を守ったとか言われているらしいです。ログネルの貴族がアランコの王族を、下級貴族に嫁がせようと無理難題を言ったが、アランコ王国を馬鹿にしているとか、よく袖にした、ざまあみろ、ログネル如き怖くないとかが、巷の庶民で言われているようでして」

 「・・・強気なんだね」

 「まあ、仰る通りです。ログネルの軍は確かに強いですが、それは陸に置いての話で、海においてはアランコ王国の艦船が未だに有利と言われておりますから・・・。まあ、夢見たいのはどこの国民とて同じというところでしょうか」
 
 カイサがログネル貴族らしい冷静に状況を見て話して口を噤んだ。

 静まった部屋の中で、カップの音が微かに響き、やがて私の前にお茶が淹れられて置かれる。それまで私は、最近課題として出されている内容について考察をしようと書籍に手を伸ばしかけたが、掴んで手元に引き寄せたところで、そのまま動きを止めた。

 「・・・アランコに限らず、民は自由で信じたいことだけ信じようとするんだね・・・、なんだか貴族って、自由がありそうで自由がないよね・・・」

 私は持ち上げた書籍を手の中で摩りながら独り言ちた。

 「御用となれば、お呼びください」

 カイサがそのまま壁際に下がろうとしたので、私はちらりとカイサを見上げる。

 「ねえ、カイサも一緒にお茶をしない?」

 「・・・命令でしょうか?」

 「・・・命令とは言いたくないけど、私の乳母としてお話しない?」

 一瞬だけため息をついたカイサが、黙ったまま自らお茶を淹れ、テーブルに着く。そして笑顔で言った。

 「今回だけですよ、アウグスタ様」


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