疾走する玉座

十三不塔

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第五章 星火燎原

同心円

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「ヴェローナ。ベイリー・ラドフォードを地上から抹消して」

 ヴェローナの内側で奔流のように力強く高まった摂化力《ゾーナム》は、もはや少女の小さな身体に留めきれなくなって溢れ出ようとしていた。サルキアの言葉は水門を解放するきっかけであり、死神がその指示に従ったのではなかったが――、

「ベイリーを仕留めるよ、おばあちゃん」

「夢に見たのはこんな死に場所じゃなかったがな。まぁいい」

 ともあれ、力は放たれた。

 見えない力に射抜かれたベイリーはその場に崩れ落ちて意識を失った。

 駆け寄ったクラリックは外傷を見つけられなかったが、息は絶えていた。

「ベイリー様!」

 上官の心音を確かめると、切なげに首を振った。

 同時に、立ったままヴェローナの呼吸も停止していた。死神と呼ばれた少女の魂は地上の軛から解き放たれた。かつてウルスラは、ヴェローナに殺した数よりも多くの命を救ったと褒めたたえた。飛行船の悪魔を屠ったヴェローナが行く先は天国なのか地獄なのか、誰が知ろう? そして彼女の最後の標的となったベイリー・ラドフォードの行く先は?

「ベイリー様! 起きてください!」

 繰り返し呼びかけてもベイリーは眼を覚まさない。

「楽に死なせちゃったか、残念」
 とサルキアはひとりごちる。

 本心がどこにあるのか、その顔付きからは読み取れない。どこか呆けたような面持ちで涙ぐむと、すっかり力が抜けたようにへたり込む。切願を果たした喜びを実感しようにもサルキアの奥底にはどこか冷え切ったものがあった。

(シュローク、やったわ。ベイリーを倒した)

 かつての娼館の支配人を演じた侍女もまたこの世にはいない。が、そのことをサルキアは知らないでいる。ジヴは跪いてサルキアの昂った心を鎮めようとしたのかもしれない。あるいは、腕を取っ手引き起こそうとしたのかもしれない。
 しかし、そのどちらも叶わなかった。

「サルキ――」

 途端、ジヴの身体は、まるで芯のない人形のように脱力した。

 ベイリーの後を追うように、ジヴが、サルキアが、ガラッドが次々に膝下の浅い水に身を沈めていく。銅像のように屹立しているヴェローナを除いて、すべての人間が崩れ落ちていく。

 数秒後、大喰いを駆って現れたメリサは事態が飲み込めず、眼を白黒させた。

「――いったい、何が?!」

 やがてメリサの視界の下方、ひろがる水面に白い班が浮き出てくる。
 不気味なその斑紋の正体は、魚たちの白い腹だった。

 ――ドサっ。

 〈大喰い〉に新たな荷重が加わった。

「スタン?!」

 ふいに出現したのは、スタン・キュラム。まるで空中から魔法のように現れ出たとしかメリサにも思えなかった。

× × ×

 作戦通り、玉座を追い抜いたウェスたちとレイゼルは、強靭な網をその間に掛け渡し、標的を捕えるべく、わずかに減速した。二つの運動体の隙間をすり抜けようとすれば、古代機械と玉座は網にかかる仕組みだ。

「機械が網を避けるべき障害と認識してるかどうか、そこがわからない」

 決行前にウェスは不安材料を述べた。機械が網をかわしてしまうなら、作戦は成り立たない。そこは賭けだ。

「あるいは些末な抵抗と見做して突っ切ってくるか」
 とレイゼルが別の可能性を口にしたが、望ましいのはこちらだった。

 本当に取るに足らぬ抵抗であれば――ウェスたち人間とその乗り物は、古代機械の出力に振り回されることになるだろう。

 そして事実そうなった。

「なんて馬鹿力だ!」

 ウェスたちとレイゼルを引きずり回しても、古代機械のスピードと機動力はほとんど衰えなかった。右へ左へ旋回すれば、その遠心力でウェスたちは激しく振り回される。

「ラトナ乗り移れ!」
「落っことさねえでくれ、おらぁ、泳げねえかんな」
 生首のジャックスが喚く。

「知ったことかよ」

 スタンもまた名剣〈はた迷惑な微罪モレ・ステルペカ〉の腹を額に当て、精神を集中する。ラトナ―カルは玉座を機械から力任せにもぎ話す役だ。スタンの課せられているのは、可能であれば、機械そのものを停止させることだ。〈はた迷惑な微罪モレ・ステルペカ〉であれば、古代機械の外装を切り裂いて内部機構にダメージを与えられるはずだ。

 とてつもない跳躍力で走る二つの機械の間を飛び移る竜猿ラトナ―カルの、その背中を追うようにして、ウェスは光走船の速度を上げていく。

「モード〈人見知りの逃避行ピンポンダッシュ〉」

 スタンが起動させたのは、〈はた迷惑な微罪〉に搭載されたいくつかの戦形《モード》のひとつだ。それは敵に一太刀浴びせるやいなや、敵の攻撃圏内より外へと強制的に転移させれるという究極の一撃離脱機能《ヒット&ラン》だった。カウンター攻撃を無効化し、帰り道の倦怠を取り除いてくれる一方、連続攻撃はできないし、転移される場所はデタラメなので、別の危険の中に放り込まれる危険性もある。

「使い勝手の悪い機能だが、ここならおあつらえ向きだ。あんな気味の悪い代物にいつまでもへばりついてるのはゾッとしねえ」

 刀身にさざ波のようなパターンが走る。はじめて瞬間移動を体験したスタンは、その不思議さにたじろいだが、再三にわたる実験でそれにも慣れた。ウェスはロドニーの科学力に改めて舌を巻いたのだったが、得体の知れないのは疾走する古代機械も同じだ――毒には毒を、未知には未知を――ウェスはひっそりと呟いた。

 メリメリと軋む音がする。ラトナの怪力が玉座を機械から――あるいは機械を玉座から?――引き離そうとする。呪いのような共生関係に終止符が打たれようとしてた。

 古代機械と玉座を接合したのは、失脚を覚悟したイルムーサだったが、美を奉じた宮廷美容師にしては、見栄えの悪い細工だった。いや、人生の最後に彼の芸術は、美とは見えぬ美という新たな境地に達したのかもしれなかった。

「やっちまえ、もう一息だ」

 ウェスの応援もラトナの耳には入っていない。

「おめぇは立派な猿だぁ。おらぁ誇らしくてなんねぇ」

 感慨深げな生首は、光走船の隅に転がっている。

 ――ついに、玉座と機械が離れかけたと思われたその時、スタンがようやく網を伝って機械に接近し、上段に振りかぶった剣を昆虫に似たその体躯の中心めがけて振り下ろした。

「なんだと――」

 驚愕の声を発した時、スタンは〈人見知りの逃避行ピンポンダッシュ〉の作用によって対岸の縁、それも上空数メートルの地点に転移させられていた。

「うわっと!」

 〈大喰い〉の車内に飛び込むまでの刹那、スタンは起きたことを反芻していた。

 スタンの剣は、ふいに伸びた二本の脚に妨げられた。危険を察した機械の防衛本能が働いたのだろう。剣の鋭さは脚を切断して胴体に向かったものの、

「浅い」

 レイゼルが評する通り、それは致命傷には遠く、

「まだ動くぞ」

 むしろ機械の攻撃性を目覚めさせる結果となった。

 機械は、己の目的を阻む要素、至純の演算を曇らせる夾雑物を取り除こうと身震いした。

 〈人見知りの逃避行ピンポンダッシュ〉によってここへ転移させられたスタンだったが、瞬時に自分の座標を確認した。これは繰り返し実験した成果だ。リアルな夢の醒め際のように、転移後は自分の居場所がわからなくなることがある。冷静になれずパニックに陥れば、それが命取りになってしまう。

「あの野郎、放電しやがった。ラトナは?」

 水中を伝う膨大な電流をスタンの眼は捉えることができた。眼を白黒させるメリサの存在をいったん無視する。ガラッド、ジヴ、サルキア、クラリックらがいきなり倒れたのは、感電したからだろう。

「あんたどうやって、ここへ? 向こうに居たんじゃ?」

 スタンは説明している場合じゃない、と首を振る。転移などというややこしい代物について、すぐに納得させる説明ができるとは思えない。

「クモの野郎、電気を放ちやがった。んなことしたら――」

× × ×

「目覚めるぞ」

 ウェスが言う。ウェスとレイゼルは、大きく河岸に振り出されて、水を伝う電気の攻撃を免れたのだった。それに湖水地方の電気ウナギ対策に網は絶縁塗料でコーティングされていたから、古代機械の危険な反撃を奇跡的にやり過ごすことができた。

「ラトナ?! 生きてるか!?」

 玉座にしがみついていたラトナーカルは直撃を受けたはずだ。玉座をもぎ取る寸前で水中に没した。

「クソっ、アレが出てこないといいけど」

 ウェスがアーカイヴから掘り出した情報によれば、汽水域には守護者がいる。

「アレとは?」

 訝し気にレイゼルが訊ねるのを制して、ウェスは「残念なことに」と呟いた。

「見りゃわかるって展開になりそう」

 ――何かが河底からせり上がってくる。

 あまりに巨大な動く質量が。河面は渦を巻き、混沌とする。

 うごめく黒い影を遊泳させるそれは、どこか人をして根源的恐怖を抱かせる。竜への畏怖とはまた違う。哺乳動物である人の生理を逆なでするもの。

「非典型生物」とウェス。

 レイゼルは無言でウェスに問う。

「ロドニーが作った属も類も持たない一代限りの孤独な生命体だよ。汽水域の水質を調整するための調整者にして守護者だけど、こうして生態系に一定以上の負荷がかかると、実力行使におでましになる」
「戦う術はあるのか?」
「普通ないよね。うん、ない」

 とてつもないものを目の当たりにすると嬉しくなるウェスでさえ、今度ばかりに恐怖に顔を引きつらせた。

 そうしている間にも、滝のような水飛沫を舞い散らせて、水面高く、九つの突起物が持ち上がった。

「九つの首を持つ水の怪物」

 その巨大さはロドニーの尖塔と比しても遜色を感じさせない。眼のない頭は何を見ているのかわからない。イソギンチャクのような口盤には触手がたなびく。歯のないそこに飲み込まれたたら噛み砕かれることなく、消化されるのだろう。

 忌まわしそうにウェスは言った。

「九頭蛇《ハイドラ》」
 

× × ×


 ベイリーは、その中心を撃ち抜かれた。

 いや、撃ち抜かれることによって、自己存在に中心があることに気付いた。
 それは傷つくこともなければ、濡れることも燃えることもない不壊の中心。

(ここは……知ってるぞ)

 深い安心が洪水のようにベイリーの意識を浸す。生まれてこの方、これほど平穏な気持ちになったことがあったろうか。母の胸に抱かれていた時分であっても、わずかに解かれぬ警戒心があったとすれば、ここにはそれが全くにない。

(知ってるぞ、これはあの凍った山頂で――)

 ――竜とは世界の外側、そして人の内奥にあるもの。

 そうだ、とベイリーは思う。ここは竜のように遠く、それでいて懐かしい場所。

 ――死は生を規定する。死は生の輪郭であり隈取り。

 その言葉の主は生憎、ベイリーの記憶になかった。

 ここは賢者たちが万の昼夜を瞑想に費やして辿り着く場所かもしれなかった。

 ベイリーが倒れたのは、肉体的なダメージによってではない。ヴェローナの放った両極の呪力がベイリーの精神を爆発的に退行させたからだった。

 幼児へと? 違う。

 人の想像の及ばぬ存在の深部というものがある。すべての虚栄も矜持も驕慢も剥ぎ取られて、ベイリーは寄る辺を失い、漂流し、まさしく存在の大洋へと躍り出た。

(海、そうだ、海を目指していた。私は何かを追いかけて……あれは一体)

 何もない空白が一転し、海に似た大量の水が意識のスクリーンに映じてくる。

「ベイリー。今年は負けねえぞ」

 隣の手漕ぎ船にはスタン・キュラムが乗っている。ウェス・ターナーもニヤリとこちらに笑いかけてくる。見回せば、ベイリーの船にもクルーがいる。メリサにルゴー、ナローやゼロッドたちが櫂を握って頷く。クラリックは湖岸から手を振っている。大観衆はいまかいまかとスタートの合図を待っていた。

(これは湖岸地方の水上レースか)

「大将、あの島を左回りに回って戻ってくるだけです。気楽にやりましょうや」

 懐かしいナローの声だ。ひょろ長い体躯は座っていても隠しようがない。

「レイゼルは大外か」

 レイゼルは中指を立てて、自分の心臓を指した。己が信念を掲げるジェスチャーだ。

「ふん、あの女、何か企んでいそうですね」とメリサがうっそりと言う。「島の裏側が風が強い、吹き流されないように気をつけて」

(北の白狼が船を駆るか。妙な夢だ)

 湖上は吹く風は気持ちよくベイリーの肌を撫でた。夢にしては、現実味がありすぎる。しかし、ベイリーとそのクルーがこうして悪魔の中指でなく、船に乗っているなどという荒唐無稽な状況は夢以外ではあり得なかった。

「スタン、ウェス、この土地がおまえたちを育てたのだな」
「レースだ。俺たちはいつも鼻先一寸でも先を目指す」
「まったくだ。しかし、どこへ?」

(自分自身さえ置き去りにして我々はどこへ?)

 ――場景が替わる。

 今度は、ベイリーのよく知っている場所だ。
 父クライスの領地にある馬場だった。

 屋敷からも近く、父に付き従ってよく行ったものだ。干し草の匂いが懐かしい。ここでもまた、ベイリーはスタンとレイゼルと競っていた。三人とも小さな子供となって、身を預けているのは馬ではなくポニーだった。

「息子よ、期待しているぞ。父の元へ勝利を持ち帰ってくるのだ」

「はい、父上」父を喜ばせることだけが、この頃のベイリーの至上命題だった。

 クルーたちはいない。孤独なレースだ。

 いや――とベイリーは思い直して、ポニーの首を撫でる。

「お前がいたな。相棒」

 それは幼いベイリーが祖父から贈られ、飼育を任されていたポニーのマイロだった。葦毛の豊かな毛並みに始終眠たそうな瞳。蠅を追う尻尾。間違いない。ベイリーの最初の乗り物にして親友だった。

「先に三周。それでいいな」

 十歳前後の少年であってもスタンはやはりスタンだ。

「勝つよ、ワイム」

 ポニーの耳元に顔を寄せるレイゼルも同じ年ごろの少女になっているが、三人が同年代であるのはやはりおかしい。が、夢のつじつま合わせにいまさら驚いても仕方がない。

 ベイリーは、彼の出征直後に死んだマイロに再会できたことだけで満足だった。
 トラック状のコースはダートで、コーナーはやや不規則なカーヴを描いている。

「おまえたちは競って走ることを運命づけられている」とクライス・ラドフォードは淡々と述べた。「勝者には、ほら、あのお城を上げよう」

 節くれだった指が示す先には、美しい城館があった。

(あの方角にあんなものはなかった)

 麻の乗馬ズボンを着こんだスタンは興味なさそうだったが、競争そのものには血を滾らせているようだ。銀髪の三つ編みに赤い守り布を編み込んだレイゼルは眼をキラキラさせる。ベイリーはといえば、勝負も賞品もどうでもよかった。ただ、マイロと全力で駆け巡ることがうれしかった。

(いや、マイロだけじゃない。スタン、そしてレイゼルと走ることが――)

「――スタート!」クライスは大声を張り上げる。

 三人と三頭は一斉に飛び出す。

 しかし、書き割りの馬場を突き抜けたその先は雪山だった。

 ベイリーの身体はさらに縮んでいた。これは五歳の身体だった。

 またもや三人は同じ線上に立っていた。染みひとつない白の傾斜。北の大地では雪解けの期間はほんの数週間だという。急峻な丘の上に五歳ばかりの子供がどうやって登ったというのだろうか。

「雪玉を転がして、あの木の間を一番先に抜けたら勝ち、どう?」

 二本の針葉樹の隙間は、ここからはひどく狭く見えた。

 レイゼルはひときわ大きな雪玉を用意していた。

 モコモコの防寒具に覆われて膨れ上がったスタンもまた、レイゼルに負けない大きさの雪玉を拵えていたものの、やや角ばった出来栄えで、真っすぐ転がるとは思えなかった。

「おまえは?」
「これでやる」

 ベイリーの雪玉は赤ん坊の頭ほどの大きさで、他の二人に比べて小さかったが、滑らかに入念に整形してあり、どの雪玉よりも抵抗なく転がりそうだった。

「じゃ、行くよ」

 レイゼルの合図と共に三人は雪玉をリリースする。三つの雪玉は、転がるそばから膨らんでいき、重量が増すにしたがって加速していった。

「行け!!!」

 スタンが叫ぶ。レイゼルも、ベイリーも腹の底から、寒さに負けぬように声を振り絞る。しかし、いったいどれが自分の雪玉なのか、やがてわからなくなった。それどころか、大きくなった雪玉は、他の二つの玉を飲み込んで、さらに大きな雪玉になってしまう。

「くっついちまった!」

 大げさな身振りでスタンが天を仰ぐ隣で、ベイリーは無言で首を振った。

 レイゼルだけが、まだ真剣にレースの行く先を見守っている。

「あとは、ゴールできるかどうか、ね」

 すでに勝者のいない勝負だったが、それでも三人は丘の麓を一生懸命に凝視した。

 大きくなり過ぎた雪玉はゴールの針葉樹どころか森も村も冬眠中の熊も飲み込んで転がり続けた。

「どうしよう?」

 いたずらっぽくスタンが片方の頬を膨らませる。少女であるレイゼルは、生意気に肩をすくめるとふたりと手をつないだ。

 ベイリーはそれにどんな意味があるのか、わからずじまいだったけれど、スタンがもぎ離そうとしないところを見ると悪いことではなさそうだった。この先、キスや殺しの感触を知ることになる自分にベイリーは「止まれ」とも「進め」とも言いたかった。その両方を意味する言葉があればいいのに、とも思った。

「大丈夫」
「何が?」
「わかんないけど大丈夫」

 レイゼルは握る手の力をギュッと強くした。ベイリーはその手を握り返そうとするが、どうしてもうまく力が入らなかった。

 どうして我々は競争を果てもなく繰り返すのだろうか。繋いだ手から体温といっしょに問いかけも伝わる。三人はもう互いを隠せない。負の感情や記憶だけでない、喜びと温もりもこれからは共有できる。

「山歩きした時さ、ウェスが立ち止まって葉っぱを眺めてた。どうしてこんなにいろんな形の葉っぱがあるんだろうってね。太陽の光を受け取るだけなら、もっと効率のいい形状があるはずなんだとさ。ちょっとでも多くの光を受け取りたいはずなのに、あえて取りこぼすこともしている、そうして木漏れ日は苔や下生えにも降り注ぐ」

 スタンの口ぶりは体つきに見合わない大人びたものだった。

「奴はあの時、なんて言ったんだろう? なんだか難しい言い方をしたよ。確かこうだった。“生命は、競合の中で共生のバランスを探ってる”」
「意味わかんないけど、意味はわかる」
「なんだそれ、意味わかんないよ」

 三人の少年と少女は輪になって手を繋ぎ、いっせいに凍てつく空を見上げた。

「なんだ、ここに居たのか? ラトナーカル」

 遊泳する巨大な影が白銀の雪原に映える。

(おまえをずっと探していた気がするよ)
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