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第三章 虹と失認
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驚くべき闘争本能と見えたものは、清澄に透き通って、いまや不思議の国に屹立する最後の生命の徴となった。水晶に触れることで彼女自身も結晶質の塩柱になってしまったようだった。漆間はいない。邪魔者はいない。夾雑物もない。銅音は佐倉結丹に敬意を覚えた。三つの毒杯を呷り、なおのこと立ち続ける少女に――銅音と星南は、最大級の畏敬を捧げた。
比率とサイズの狂ったアリス症候群の感覚世界において、佐倉結丹だけが等身大で存在した。指一本でさえ触れれば崩れてしまいそうでありながら、彼女は他の何よりも強くはっきりと在った。
「投げなさい」
銅音と星南はもう一度繰り返す。そうしないではいられなかった。勝負のことを二人は忘れていた。少女の崩落。それを防ぐのは、水晶の一擲しかないと、そう思った。
「アイ」投擲の瞬間、そう呟いたきり、佐倉結丹は呼吸を――そして瞬きを止めた。
水晶は宙を泳ぎ、永遠の刹那を経たのちに、秘めたる回転を純白の羅紗に展開する。輪は広がり、そして収束した。その時、やわらかな秘色のさざ波を見た気がしたが、それはきっと現実ではない。ここで起きたことはすべて切れば血が出るような鮮烈な幻だ。
数限りなくクッションに跳ね返り、正しい回転を含みながらポケットに落ちていく澄んだ球体。フリーハンドで美しい軌跡を描き出した少女はもうここには居ない。
――エンドロール。
銅音の中の星南がそう呟いた。
星南の中の銅音がそう肯った。
少女が少女の最期を見届ける。
転変の終焉。
――0:13
透明が背徳を塗り潰し――こうして彼女たちの長い夜は終わる。
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