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十三不塔

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第一章 火炙りと賭け金

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 地下二階はコロニアル様式の内装で統一されていた。
革張りのソファに囲まれた象牙牌の並ぶ雀卓。米国から取り寄せたクラシックなスロットマシーンに昭和中期のパチンコ台。紫檀のポーカーテーブル、サイコロ賭博用には金糸の縁の畳が床に直置きにされている。上品でありながらも毒々しい調度に銅音は気圧された。
「さぁ、まずは気合入れないとな」
 ここでも奥村は酒を飲んだ。眼前で当たり前に禁制品を摂取されると、銅音も感覚が麻痺してきて、酒のことを、節度を保って付き合うなら人生の友になれる大人の嗜好品だと錯覚しそうになる。
 ――ダメダメ、流されたらダメ
 銅音はブルブルと顔を振り、意識をしゃっきりさせた
「麻雀はできるか?」
「うん、でもパパとお正月にやる程度。もちろんお金なんて賭けたことない」
「それでいい。人数合わせだ。君も入れ、負けた分は俺が持ってやる。その代わり君の勝ち分もそのまま頂く、それなら君自身が賭博をやってることにはならんだろ?」
「うーん」
 ギリギリのラインだった。銅音自身がお金を支払ったり、掠め取ったりすることはなくても、ここに座ること自体がギャンブルの一部であり、それに加担していることになる。
「なんだよ、乗り気じゃねえのか」
「だって、さ」銅音はもじもじしている。
「この国じゃ賭博じゃないふりして賭博がある。売春じゃないふりして売春がある。パチンコや合法遊郭が誤魔化しと辻褄合わせで運営されてるのは知ってるはずだ。バカでもわかる欺瞞をスルーして生きてきたおまえに正義を語る資格なんてない」
「違う。わたしは誤魔化したりなんてしていない」
「だったら知らないだけか。法の外を知った上で留まるのか、踏み越えるのか。それを選択する時が来る。正義の側につきたけりゃそれなりの立場と力がいる。法の外があることを知らないのは善でも悪でもない。ただのガキだ」
 悔しいが、返すべき言葉を銅音は持たなかった。
「わかった。やるよ」こうして銅音は雀卓を囲むことになった。
 メンバーは、奥村の他に、銅音の父親ほどの年齢のサラリーマン風の男、それに銅音を除く唯一の女性客であるワンピースの女だった。女の年齢は不詳で、ひどく年老いているようでもあるし、ギリギリ二〇代後半といっても通用しそうでもある。昭和リバイバル・デザインの萌黄色のワンピースは、エキゾチックな店内の調度と悪くないミスマッチを成す。麻雀牌も同じ萌黄色だったから、そこには不思議な保護色のような効果が働いていた。
「グリーン夫人」と奥村が紹介する。
 呼ばれた女は軽く口角を上げる。サングラスで覆われた目元から、本当の表情を読み取ることができない。見た目通りのあだ名は、滑稽さより空恐ろしさを呼び覚ます。
「こちらは……」
 奥村が言いよどむのを、本人が会釈まじりに「辻堂です」と引き取る。常連の奥村にも知悉していない客がいるらしい。が、その名前とて本名かは疑わしい。ここでは何もかもが不確かだ。
「奥村さん、どうぞお手柔らかに。そちらのお嬢さんもね」
 慇懃さたっぷりにグリーン夫人が挨拶した
 グリーン夫人と並ぶと、あまり特徴のない辻村だったが、いかにも安物ですといったふうのペラペラのスーツやよれよれのタイはどこか作為的にも見える。銅音は世界史の柳渕先生を連想して、ちょっとした親近感を抱く。
「レートはウーピンでよろしい?」
「ああ」と簡単に言い切った奥村や、無言で納得顔の辻堂に、銅音は眼を丸くした。それは一週間分の銅音のバイト代がたったワンゲームで吹っ飛ぶレートだった。
(これが大人の世界? ううん、これって犯罪、もしここに警察が踏み込んできたら私だってきっと言い逃れできない)
「さ、ゲームを楽しめ」
 賽が振られ、遊戯は巡る。ぐるぐると世界は回転し、遠心分離器のごとくすべてを振り分ける。勝者と敗者。興奮と冷徹。よろめきと身悶えを。
 ゲームが始まっても、奥村だけは口を動かし続けた。
 この魔窟の案内人を自任しているように銅音の疑問に答えていく。
「あの扉は?」
 フロアの奥にある、レリーフ付きの鉄扉が銅音は気になった。
「あっちは背徳の間だよ。こんなレートじゃ物足りない本当のギャンブル狂いたちがあそこにいる。青天井の解放区」
 高額賭博者ハイローラーホエール。上で奥村が言っていた連中のことか。銅音が受け取ったIDの所有者もそこの住人であるという。
「あの扉をくぐるには三つの条件が必要なのさ」
「……?」
「酒気を帯びていること。身体に他者にDNAを付着させていること。もうひとつはここに預けた電子チップに増減があること、だ」
「つまり?」
「酒を飲み、セックスあるいはディープスロート。口腔の粘膜をまさぐり合うようなキスでもいい。他者の体液を浴びるような行為をしており――もちろん誰かの返り血だって構わない――そして最後はこのフロアでギャンブルをして、当日のチップの数値に変化が見られるならば、あの扉が開く」
「どれもこれも――」
「ああ、この国じゃ違法かそれに近い」
 あっさりと奥村は言い切った。
 どうやらあの扉の向こうにはろくでなしの親玉たちが巣食っているようだ。
「君はあの扉を越えて向こうに行くことはない」
「行きたいとも思わない」
「でも、君のIDの主は何度もあの向こう側に棲んでいる」
 ――酒姫とモスリン織。銅音を悪所に導き入れた人物。
「誰なの?」
「いや、直接は知らない。非常に興味があるがね。君こそ、どんな経緯でそのIDを手に入れたんだ?」
 銅音は口を割らなかった。山から牌を摘み、そのまま河に捨てた。面倒見のいいこの男が信用できるとは限らない。何か思惑があってのことだと考えた方が自然だ。
「だんまりか、いいだろう。話したくなったら話せばいい。ともかく、そいつは向こう側の住人だってことさ。しかも、ただの客じゃない」
「どういうこと?」
「ああ」と奥村は声をひそめた。「国産密造酒ブートレグの生産者だ。ここにも酒を卸してる。あるいはここの経営に一枚噛んでる可能性すらある」
「極悪人じゃん!」
 そんなやつのIDを使用していていいのだろうか。銅音の胃の奥に不安とためらいが広がっていき、喉元にまでその不定形の塊がこみ上げてくる。
「ゲームに集中しなくていいのかしら、心が卓からお留守になってるんじゃ、わたしには勝てませんよ」
 と、グリーン夫人は言い、
自摸ツモ」と高々と勝ち名乗りを上げ、手牌を倒す。
 ――南二局。
 冷房が強まったわけでもないのに、空気の温度が下がった気がした。
緑一色リューイーソー、一六〇〇〇点オール」
「そんなのってない! 半荘に二度も役満が? しかも緑一色?」
 思わず銅音は抗議するが、夫人はそれを取り合おうとしない。たとえ不正があったとしても、それを見破らなければ糾弾する意味がないのだ。
 緑一色は戦後、進駐軍の米兵が発案したとされる役だった。グリーン夫人にはまさにお似合いの手と言えよう。しかし、その出現率は低く、一日に二度も拝めるような代物ではないはずだ。指先で緑色の「發」の牌を摘み上げ、これ見よがしに、そして端然と笑む夫人の姿は、どこか妖怪じみている。
「緑よ、緑、全部緑に染め上げてやりたい」
 こんなに手応えがないなんて興ざめだわ、とでも言いたげに夫人はガラスのパイプで大麻ミドリを燃焼させ、肺の隅々にまでゆっくりとその煙を行き渡らせる。
申し分なく、何もかもが緑色グリーンというわけだ。
 銅音はジッと夫人の手牌を見つめた。間違いない、紛れもなく緑一色が仕上がっていた。ただし、何かが引っ掛かる。喉に刺さった小骨のような違和感。
「この店の常連には珍しく、わたしは〈ドライ〉なの。お酒は肌に合わないわ。こっちのが方がずっと好き」
 夫人が煙を輪にして吐き出した。
「あのサングラスは?」と銅音は、奥村に探りを入れる。
「いや、一度改めたことがある。スマートウェアなんかが仕込まれちゃいなかった」
 麻雀にはガン牌という技術がある。牌に傷や目印をつけることで牌を伏せたままであっても中身を知ることができる。精密なスマートウェアを使えば、人の眼では個別性を見極められない牌の微妙な形質の差異を読み取り、ガン牌と同じ結果を得ることが可能だ。
 でも、それはない、と奥村は言う。でも何もしていないわけがない。だったら――
 じっくりと思案を巡らせる銅音の考えを読んだかのように奥村は先回りをして自説を述べる。二人はひそひそと相談した。
「そうだ。辻村とグル、つまりコンビ打ちってのはまず間違いない。だが、あの点滅しながら模様を変えるネイルアートが通しサインだとしたらあまりに見え透いている」
「怪しいところはたくさんある。でもどれが本命の仕掛けなのかわからないってことだね」
「ああ」不愉快に眉根を寄せ、奥村はジントニックを口に運んだ。
 と、いきなり辻堂が前のめりに突っ伏す。
 とりとめなく山を崩してしまうが、ややあって起き上がると「すまない、また症状が出たようです」と平謝りするので仔細を訪ねてみれば、
居眠り病ナルコレプシーなのよ、辻堂てば」
 グリーン夫人は、ふふふと可笑しそうに説明した。
 気を張り詰めていてもまぶたが落ちかかるらしく、辻堂は、ピシャリと頬を張って、意識を引き戻していた。
「いつもこうなの、ゲームに支障が出るから早く治療しなさいって言うんだけれどね、昭和のなんとかって雀士と同じ病気だったからって治そうとしないのよ」
「夫人、彼はボクの憧れですから」
 小説家でもあった、その男の名は有名らしいが、斉和生まれの銅音にはピンとこない。それにしても迷惑な話ではある。彼の時代とは違って現代では完治可能である疾患を放置してあるとは、物好きなことだ。
(それが、本当ならね)
 ゲームを妨げた場合は罰符としていくらかの点数を取られることになる。あと数度、同じ症状がぶり返したら、辻堂もただでは済まないはずだ。
「下らないゲン担ぎですが、この持病はボクの切り離すことのできない一部なのです」
「いいよ、好きなだけ落ちればいいさ。ただし、夢の中でだって勝負は続いていくんだ。覚悟を決めろよ。ギャンブラーに安息の場所はない」
 悦に入った奥村に、
(カッコつけてないで手品の種を突き止めろ。酔っ払い)
 と冷たい目線を浴びせながら、銅音は手配を整えていく。大きい役ではないが小回りの利く手ができそうだ。これで二度の役満で奪われた点数をいくらかは取り戻さなければ。獰猛なグリーンと居眠り雀士に拮抗するために銅音は懸命に運と戯れる。
 眠気覚ましのためか、辻堂はしきりにガムを噛む。
「ひとつどうです?」
「遠慮しとくよ」
 いくら奥村とて敵から差し出されたものを口に入れるはずがない。
「強烈なミント味なんですけれど、あんまり効かないなぁ」
 クチャクチャとガムを噛む音は半ば故意だろう、気にしだすと集中力がてきめんに殺がれる。苛立ちが募るが、奥村がクールダウンさせるように釘を刺す。
「敵のペースに乗るな、またやられるぞ」
 さらに神経を逆なでするようにグリーン夫人がわざとらしく辻堂を注意する。
「辻堂さん、はしたないですよ。不快な音が漏れてます」
「ああ、済まない。こればっかりは直らなくてね」
 頭を下げながらも辻堂に悪びれる様子はない。
「まったく、お二人からも仰ってやってくださいな。マナーが人間を作るんですから」 
 とんだ茶番だ。
 見ていればわかる。辻堂は緑一色の構成牌を夫人に鳴かせることによって送り込んでいく。やつらがグルなのは明白だが、どういうふうにサインを送っているのかがわからない。相手がコンビであることを隠さないように銅音と奥村もあからさまに協働することをためらわなかった。
「観察しろ。探求しろ。剔出しろ。ルールを跨ぎ超えるやつらを敵に回すなら、どういった戦い方があるのか、それを見極めるんだ」
 まるで試験を見張る指導教官のような口ぶりで奥村は命じる。教育機関の教師たちの言葉よりも決然としており、厳格で、そして何より虚飾がなかった。
 卓に突っ伏すことはなかったが、辻堂はそれからも何度もウトウトと船を漕ぎ、そのたびにブルブルと首を振って意識を保った。
 ――サングラスに居眠り?
 リーチ棒を投げながら、銅音は思考を巡らせる。
 ――もしかしたら?
 もう少しで何かが閃きそうな予感。そう、これは火がくすぶるようなスリルだ。
 そうしてついに銅音はたどり着く。卓に牌を強打して言った。
「こいつらは〈相乗り〉オムニバスしてる。それも交互に!」
 銅音の言葉には確信が漲る。疑義を挟むのは、不正を怪しまれた二人ではなく、奥村だった。
「その根拠は? 言ったはずだ、ここへ入店するにはチェックがある。相乗りを許されるのはVIPの連中くらいだってな」
 奥村は、レリーフのある扉を指差した。
 それはそうだろう。でも――銅音はひるまない。
「ルールには隙間がある。この店には通常、相乗りは入れない。ただし入店してからなら?」
「そうか」奥村は膝を打った。
 うつらうつらと頭を揺動させていた辻堂もパチリと眼を見開いた。聞き捨てならない言いがかりをつけられたからには夢から帰還すべきだったのだろう。
「ボクたちがつるんでるとしても〈相乗り〉オムニバスとは‥‥女子高生らしい奔放な想像力ですね」
「〈相乗り(オムニバス)〉はまだ特殊な技術で一般的ではないわ。相乗りはお手軽で簡単なものだとあなたは考えているかもしれないけれど。意識を他者の身体に上乗せることはできても、どこぞの青春ファンタジーみたいに、お互いの意識を交換することはできないのよ。お互いの手牌を伝え合うなら、通しのサインで済むし」
「サインはない」悠然と奥村は言い切った。「俺は意図あるどんな仕草も見逃さない。あんたらは俺の眼からは、どんな合図も送り合っていないように見える」
「だったらなおさら、わたしたちに不正はありません」
「――が、それは不正がないという意味じゃない。もっと周到で込み入った、あるいは大胆なほどシンプルな方法があるのかもしれない。盲点を突く方法が」
「で、その方法というのが、交互に行う〈相乗り〉オムニバスだと?」
 あくまでも落ち着き払って辻堂が話を戻す。
「そうとしか考えようがない」と銅音。
「待って、ひとりがもうひとりの内に相乗りしている間、空っぽの身体が取り残されることになるでしょう? 魂の抜け殻みたいな、そんな状態でどうやってゲームをするというの? 相乗りしている最中、残された身体は昏睡に近い状態になるというじゃない。とても麻雀なんてやってられないわ。座っているのでさえ精一杯」 
「座ってられず、卓に突っ伏したじゃないですか」
「だから、あれは――」
「居眠り病だと言うんでしょう。でも、そんなもの、あつかましい偽装。わずかな眠りに落ちていると見せかけて辻堂さんはグリーン夫人に相乗りして、その手牌を記憶している。そして方針を定める。何を送るべきかを。あるいは後で説明するけれど、何を白く塗りつぶすかを」
「塗りつぶす?」
 わずかに辻堂が顔色を失ったのを見逃さず、奥村は口を挟んだ。
「うん、それはあとで」きっぱりと銅音は奥村をはねつける。「これは大がかりな仕掛けなんだよ。そのうえ、ふてぶてしいくらいに手が込んでて想像の範疇の外にある」
「いいわ。聞きましょう」眉一つ動かさずグリーン夫人が頷いた。
「席の配置と自摸(ツモ)順からすると、後番のグリーン夫人の方が辻堂さんに乗っかることは少ないと思うの。でも、必要があればするはず。その時には、空っぽになった身体がまぶたを落ちてしまうのを隠す必要がある。まさか居眠り病が偶然二人もいるなんて嘘はつけないから」
「そうか、だからサングラスを」奥村は大げさに納得した。
「うん、そして脱力した全身が倒れかからないようにおそらくコルセットの類でガチガチに上体を固定しているはず」
「バカバカしい」とグリーン夫人。
「じゃあ、背伸びをしてみて?」
「悪いけどそんな気分じゃないの。四の五の言ってないで勝負を続けません?」
 ふてぶてしく夫人は言い放つが、銅音は追及をしなかった。
「ひとまず、わたしの意見は、仮定ってことでいい。妄想でも。だから、女子高生の寝言だと思ってもう少し付き合ってもらうね」
「勝手になさったら? ただし、辻堂さんの病気をイカサマのための狂言だと決めつけたことは看過できませんね。もし、わたくしたちが潔白だったなら、銅音さんと仰ったわね、あなたには相応のものを支払って貰いますよ」
 グリーン夫人は気位の高さをそのままに牙を剥いた。
 銅音は、ゴクリと喉を震わせ、
「構わない」
「おまえ笑ってるのか? ‥‥これは賭博だぞ」
 奇妙な高揚に声が震える。
「違う、これは賭博じゃない。不正がまかり通るか、正義が勝つかの戦いなんだ」
 信念なんていう曖昧なものにリスクを負う、それは立派なギャンブルじゃないかと奥村は言いかけた。たとえ法律がどうあれ、それは賭けであり、向こうみずな投機に違いない。 
「レートを上げてください」
「‥‥何を勝手に」
「さらにハイレートの勝負になれば……ギリギリの戦いになれば、この人たちは、かならず、またイカサマをやる。その一方で、わたしに尻尾を掴まれかけてることもわかってる。奥村さん、葛藤にさらされてるのは――追い込まれてるのはあっち」
「なんなんだ、おまえは?! イカれてるのか。負ければ俺の財布が空っぽになるだけじゃない。おまえだって」
「言いましたよね。どうなっても構わないって。嫌いなんです。ズルとズルい人が」
 勝負事になると眼の前が見えなくなるきらいは昔からあった。そこに不正や欺瞞が絡むと銅音は見境がなくなる。正しさを奉じるという狂気。銅音はとりついたものの――それが正体だった。
「暴いてやる、晒してやる、すりつぶしてやる」
 ブツブツと言い募る言葉は物騒な響きを帯びる。
 ――火柱刑stake賭け金stake
 星南の言葉がふとよぎる。燃えるジョイントと寂れたガソリンスタンド。
 賭け金をつり上げろ、火炙りにしてやれ。
 心臓の裏側で聞き慣れない声がする。同時によく知っている声が。それは銅音自身の声でもあり、また星南の囁きのようでもあった。
「この娘‥‥奥村さん、とんでもないの拾ったわね」
 グリーン夫人は言った。
「まったくだ。どうかしてる」
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