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16,転生悪役令嬢の義弟。
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某日
この日、隣国の公爵家の養子になった。
厄介払いと人質を足して割らないようなものだった。
この国の王家の魔力は俺の母国より強くて、共和的な故郷よりだいぶ独裁色が強い。
そのぶん国としても力があり、王弟庶子である自分が、この国の有力諸侯に送り込まれることは政治的に避けられないものだった。
しかも貰われる先にはとんでもない義姉がいるという。
全くついていないと思った。
どうして子供というだけで都合よく扱われなきゃいけないのかと夜中庭で隠れて泣いていたら、暗闇を横切る彼女を見つけた。
昼間に今日から義姉だと紹介されたそのとんでもないらしい女は、初対面では「両親をよろしく。」とだけ俺に告げた。
しかし、2人になってみると喋る喋る。
その夜も、何か勘違いしたままよくわからない妄想を繰り広げていてつい笑ったが、自分は死ぬのだと言われた時は無性に悲しくて泣いてしまった。
自分だって、さっきまで生きていても仕方がないと思っていたのに、彼女には生きていて欲しいと思った。
某日
最初は変わっているけど優しい人だと思っていた彼女は、すぐに優しいけど変わっている人だと気付いた。
相変わらず妄想は酷かったが、時折見てきたように未来を言い当てた。
おそらく何か潜在的な魔術だろうが、本人は前世で遊んだゲームのシナリオだと言い張る。
俺としては、それが嘘でも構わなかった。
どうせ世の中嘘ばかりだ。
父親も母親も俺を愛していたと言うが、父は俺を里子に出し、母は妹にしか魔力を与えなかった。
それよりは、俺は彼女の嘘が好きだ。
信じているといえば俺にだけこっそり打ち明けてくれる他愛ない嘘が好きだった。
でも、今回のことはあんまりだとしか言えない。
まさか王子と婚約してしまうなんて。
俺が故郷で王子だったら、彼女と婚約できたのだろうか。
くだらない発想をしてしまったことに少し笑った。
某日
改めて知る彼女の評判は、酷いとしか言いようがなかった。
それはどれも事実に反しているとしか思えなかったが、彼女の側近の侍従ですら、まるで見たように彼女の悪業を語る。
彼女は、実際に侍従たちにはそのように見えているのだろうから仕方がないと諦めていた。
その諦めに至るまでどれくらい傷ついたのだろうと思うと胸が痛い。
でも、俺しか本当の彼女を知らないのだと思うと、何とも言えない愉悦も感じた。
そんな自分をどうしょうもない人間だと思う。
某日
どうにか魔法学園に入学できた。
彼女の言うヒロインがまさか俺の双子の妹だとは思わなかったが、庶民の出なのに光の加護があると聞いた時点で予想できた事だったと今なら思う。
母は、生まれたばかりの妹に装置に保存したエルフの魔力を埋め込んで娘と去ったのだから。
妹は出自を何も知らないようだが、俺はこの国に来るまで散々影で言われてきて知っている。
女というだけで母が引き取られ幸せに暮らしてきた妹のことを、羨ましくないと言えば多分嘘になる。
でも、もし逆だったら彼女と過ごす事もなかったかと思うと、過去に戻ってどうするか選べるとしても同じ道を選ぶと思う。
某日
この日初めて妹に素性を明かして接触した。
彼女の言う身分のない平等な世界をここで実現するには、貴族に独占された魔法技術を再分配する必要があると思ったからだ。
妹は驚いていたが、魔道具に有力貴族の魔力を移して魔術の研究材料にするという提案にはもの凄く食いついてきた。
彼女自身の魔力だけでは、研究サンプルが不足していたらしい。
保護された魔術を取り込むことなんかできるのかと聞かれたので、王子と委員長が俺に魔法を飛ばす時は面倒がって魔力にプロテクトをかけていないことを教えた。
そうしたら、一も二もなく魔力を保存する装置を渡されたので、これからも思う存分喧嘩をふっかけて返り討ちにあっていく。
彼女の言う通り、妹は変態的なまでに魔術フリークだった。
あれがどうしたら甘酸っぱい恋愛模様を王子や委員長と繰り広げるのか少し理解に苦しむが、彼女曰く、この世界はその転換が巧みに表現されていく乙女ゲームらしい。
彼女の妄想を壊す事になりかねないため、妹の事は彼女には内緒にしようと思う。
この日、隣国の公爵家の養子になった。
厄介払いと人質を足して割らないようなものだった。
この国の王家の魔力は俺の母国より強くて、共和的な故郷よりだいぶ独裁色が強い。
そのぶん国としても力があり、王弟庶子である自分が、この国の有力諸侯に送り込まれることは政治的に避けられないものだった。
しかも貰われる先にはとんでもない義姉がいるという。
全くついていないと思った。
どうして子供というだけで都合よく扱われなきゃいけないのかと夜中庭で隠れて泣いていたら、暗闇を横切る彼女を見つけた。
昼間に今日から義姉だと紹介されたそのとんでもないらしい女は、初対面では「両親をよろしく。」とだけ俺に告げた。
しかし、2人になってみると喋る喋る。
その夜も、何か勘違いしたままよくわからない妄想を繰り広げていてつい笑ったが、自分は死ぬのだと言われた時は無性に悲しくて泣いてしまった。
自分だって、さっきまで生きていても仕方がないと思っていたのに、彼女には生きていて欲しいと思った。
某日
最初は変わっているけど優しい人だと思っていた彼女は、すぐに優しいけど変わっている人だと気付いた。
相変わらず妄想は酷かったが、時折見てきたように未来を言い当てた。
おそらく何か潜在的な魔術だろうが、本人は前世で遊んだゲームのシナリオだと言い張る。
俺としては、それが嘘でも構わなかった。
どうせ世の中嘘ばかりだ。
父親も母親も俺を愛していたと言うが、父は俺を里子に出し、母は妹にしか魔力を与えなかった。
それよりは、俺は彼女の嘘が好きだ。
信じているといえば俺にだけこっそり打ち明けてくれる他愛ない嘘が好きだった。
でも、今回のことはあんまりだとしか言えない。
まさか王子と婚約してしまうなんて。
俺が故郷で王子だったら、彼女と婚約できたのだろうか。
くだらない発想をしてしまったことに少し笑った。
某日
改めて知る彼女の評判は、酷いとしか言いようがなかった。
それはどれも事実に反しているとしか思えなかったが、彼女の側近の侍従ですら、まるで見たように彼女の悪業を語る。
彼女は、実際に侍従たちにはそのように見えているのだろうから仕方がないと諦めていた。
その諦めに至るまでどれくらい傷ついたのだろうと思うと胸が痛い。
でも、俺しか本当の彼女を知らないのだと思うと、何とも言えない愉悦も感じた。
そんな自分をどうしょうもない人間だと思う。
某日
どうにか魔法学園に入学できた。
彼女の言うヒロインがまさか俺の双子の妹だとは思わなかったが、庶民の出なのに光の加護があると聞いた時点で予想できた事だったと今なら思う。
母は、生まれたばかりの妹に装置に保存したエルフの魔力を埋め込んで娘と去ったのだから。
妹は出自を何も知らないようだが、俺はこの国に来るまで散々影で言われてきて知っている。
女というだけで母が引き取られ幸せに暮らしてきた妹のことを、羨ましくないと言えば多分嘘になる。
でも、もし逆だったら彼女と過ごす事もなかったかと思うと、過去に戻ってどうするか選べるとしても同じ道を選ぶと思う。
某日
この日初めて妹に素性を明かして接触した。
彼女の言う身分のない平等な世界をここで実現するには、貴族に独占された魔法技術を再分配する必要があると思ったからだ。
妹は驚いていたが、魔道具に有力貴族の魔力を移して魔術の研究材料にするという提案にはもの凄く食いついてきた。
彼女自身の魔力だけでは、研究サンプルが不足していたらしい。
保護された魔術を取り込むことなんかできるのかと聞かれたので、王子と委員長が俺に魔法を飛ばす時は面倒がって魔力にプロテクトをかけていないことを教えた。
そうしたら、一も二もなく魔力を保存する装置を渡されたので、これからも思う存分喧嘩をふっかけて返り討ちにあっていく。
彼女の言う通り、妹は変態的なまでに魔術フリークだった。
あれがどうしたら甘酸っぱい恋愛模様を王子や委員長と繰り広げるのか少し理解に苦しむが、彼女曰く、この世界はその転換が巧みに表現されていく乙女ゲームらしい。
彼女の妄想を壊す事になりかねないため、妹の事は彼女には内緒にしようと思う。
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