異世界パピーウォーカー〜イケメン獣人預かり〼〜

saito

文字の大きさ
上 下
52 / 54
マメ柴のシバ

出会い

しおりを挟む
彼は、日本ではあまり見かけないチョコレートカラーのシベリアンハスキーを連れていた。

シバは一目散に男に駆け寄り、豪快に跳ね転げながらじゃれついた。
慌ててさゆりがそれを追う。

「すみませーん。」

ディスクを回収し、遠くから声を掛けながらたどり着く頃には、シバは青年に腹を見せてもみくちゃに撫で回されていた。

「すみません。飛びついちゃって、服大丈夫ですか?」

「平気ですよ。こいつに比べれば可愛いもんだし。」

青年が自分のハスキーを指して言う。
ハスキーは尻尾を振ってふんふんと転がるシバの尻の匂いを嗅いだ。
しかし、小首を傾げたと思うと、シバから離れ、その辺の草を食べだしてしまう。

「ありゃ、珍しい。普段は結構他所の犬に戯れるんだけど。」

さゆりはドキリとした。
それって、シバが犬ではないからではなかろうか。

「あの、茶色のハスキーって初めて見ました。名前なんて言うんですか?」

バレるわけもないが、なんとなく話題をそらしてしまう。

「確かにあんまこの辺にはいないかも。こいつはブラッキーです。茶色だけど。」

「あ、ゲームのモンスターから?」

「そうそう。この子の名前は何ですか?」

「シバです。」

「名前が?」

「はい。」

「手抜きすぎません?」

青年はクスリとわらった。
確かに、柴犬にシバと名付けていたらそうなる。

さゆりは特に言い訳もせず猫を被ってはにかんだ。
青年は爽やかで何とも好感が持てる。
年頃はさゆりと同じくらいだが、笑った所は何だか、シバに似ている気がして、つまり可愛い。わりと、とても。
これは!なんと!?
良い出会い来たのでは!?
と密かに期待がさっきのシバみたいに跳ね上がる。
まじか。

「俺よく来るけど、シバちゃんに会ったのは初めてですね。普段は上水公園の方行ってます?」

「実は散歩するの初めてで。」

「飼い始めたばっかり?」

「一時的に預かってるんです。」

「いつまで?」

「明日まで。」

自分で言って一転悲しくなる。

「そっか。残念だな。こんなに触らせてくれる柴犬は珍しいら。」

「……。」

やばい。せっかくの出会いなのに、意外に落ち込んでしまってそれどころじゃなくなって来た。

「あの、また預からせて貰えば良いんじゃないですか?それかこいつでよければいつでも貸しますよ?」

「じゃあ2週間くらいいいですか?」

つい本気で聞いてしまった。
男がぷふっと吹き出す。

「いやいや、流石に何の準備もなく大型犬預かっちゃダメですって。俺がいる時に貸したげるので、存分にもふってください。」

「じゃあまた来ます。いつ来たら会えやすいですか?」

「結構不定期だから、来るときは教えますよ。連絡先交換しません?」

まじかまじか。

「いや、でも彼女に悪いですよ。」

知ってる。連絡先聞き出すのが上手い男は、大抵相手がいるって。
そう思ってさゆりはちゃんとこれ見よがしなカマを掛けた。

「いないです。別れたばかりで。そっちは彼氏に悪い?」

「いないです。いつぐらいからいないんだっけ?」

狙い通りの自虐を笑われながら、さゆりは今しがた出会った江戸川と名乗る青年とメッセージアプリのアカウントを登録しあった。

まじかまじかまじか。

「あの、すみません、俺そろそろ行きますね。」

交換し終えると、江戸川はあっさり辞去して来た。
もう少し人となりを探りたかったさゆりは肩透かしを食らったが、止める理由もない。
まだじゃれつこうとするシバをつまみ上げ、ブラッキーを撫でて別れを告げた。

なんだか嘘みたいな話だ。
そう思ってしまう。
これは何かの罠ではないか?と誰かに陥れられるほど大した人物でもない癖に疑いたくなる。

とりあえず帰ったら彼の名前でSNSを漁りまくって、本当にフリーか調べよう。
さゆりは慎重に浮かれながら、残りの時間をシバとディスクで遊ぶことにした。

「いいお兄ちゃんだったね。」
そうシバに言ったら首をウンウン振られたのが、2人をシバが引き合わせたくれたみたいでなんだか勇気付けられた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...