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マメ柴のシバ
出会い
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彼は、日本ではあまり見かけないチョコレートカラーのシベリアンハスキーを連れていた。
シバは一目散に男に駆け寄り、豪快に跳ね転げながらじゃれついた。
慌ててさゆりがそれを追う。
「すみませーん。」
ディスクを回収し、遠くから声を掛けながらたどり着く頃には、シバは青年に腹を見せてもみくちゃに撫で回されていた。
「すみません。飛びついちゃって、服大丈夫ですか?」
「平気ですよ。こいつに比べれば可愛いもんだし。」
青年が自分のハスキーを指して言う。
ハスキーは尻尾を振ってふんふんと転がるシバの尻の匂いを嗅いだ。
しかし、小首を傾げたと思うと、シバから離れ、その辺の草を食べだしてしまう。
「ありゃ、珍しい。普段は結構他所の犬に戯れるんだけど。」
さゆりはドキリとした。
それって、シバが犬ではないからではなかろうか。
「あの、茶色のハスキーって初めて見ました。名前なんて言うんですか?」
バレるわけもないが、なんとなく話題をそらしてしまう。
「確かにあんまこの辺にはいないかも。こいつはブラッキーです。茶色だけど。」
「あ、ゲームのモンスターから?」
「そうそう。この子の名前は何ですか?」
「シバです。」
「名前が?」
「はい。」
「手抜きすぎません?」
青年はクスリとわらった。
確かに、柴犬にシバと名付けていたらそうなる。
さゆりは特に言い訳もせず猫を被ってはにかんだ。
青年は爽やかで何とも好感が持てる。
年頃はさゆりと同じくらいだが、笑った所は何だか、シバに似ている気がして、つまり可愛い。わりと、とても。
これは!なんと!?
良い出会い来たのでは!?
と密かに期待がさっきのシバみたいに跳ね上がる。
まじか。
「俺よく来るけど、シバちゃんに会ったのは初めてですね。普段は上水公園の方行ってます?」
「実は散歩するの初めてで。」
「飼い始めたばっかり?」
「一時的に預かってるんです。」
「いつまで?」
「明日まで。」
自分で言って一転悲しくなる。
「そっか。残念だな。こんなに触らせてくれる柴犬は珍しいら。」
「……。」
やばい。せっかくの出会いなのに、意外に落ち込んでしまってそれどころじゃなくなって来た。
「あの、また預からせて貰えば良いんじゃないですか?それかこいつでよければいつでも貸しますよ?」
「じゃあ2週間くらいいいですか?」
つい本気で聞いてしまった。
男がぷふっと吹き出す。
「いやいや、流石に何の準備もなく大型犬預かっちゃダメですって。俺がいる時に貸したげるので、存分にもふってください。」
「じゃあまた来ます。いつ来たら会えやすいですか?」
「結構不定期だから、来るときは教えますよ。連絡先交換しません?」
まじかまじか。
「いや、でも彼女に悪いですよ。」
知ってる。連絡先聞き出すのが上手い男は、大抵相手がいるって。
そう思ってさゆりはちゃんとこれ見よがしなカマを掛けた。
「いないです。別れたばかりで。そっちは彼氏に悪い?」
「いないです。いつぐらいからいないんだっけ?」
狙い通りの自虐を笑われながら、さゆりは今しがた出会った江戸川と名乗る青年とメッセージアプリのアカウントを登録しあった。
まじかまじかまじか。
「あの、すみません、俺そろそろ行きますね。」
交換し終えると、江戸川はあっさり辞去して来た。
もう少し人となりを探りたかったさゆりは肩透かしを食らったが、止める理由もない。
まだじゃれつこうとするシバをつまみ上げ、ブラッキーを撫でて別れを告げた。
なんだか嘘みたいな話だ。
そう思ってしまう。
これは何かの罠ではないか?と誰かに陥れられるほど大した人物でもない癖に疑いたくなる。
とりあえず帰ったら彼の名前でSNSを漁りまくって、本当にフリーか調べよう。
さゆりは慎重に浮かれながら、残りの時間をシバとディスクで遊ぶことにした。
「いいお兄ちゃんだったね。」
そうシバに言ったら首をウンウン振られたのが、2人をシバが引き合わせたくれたみたいでなんだか勇気付けられた。
シバは一目散に男に駆け寄り、豪快に跳ね転げながらじゃれついた。
慌ててさゆりがそれを追う。
「すみませーん。」
ディスクを回収し、遠くから声を掛けながらたどり着く頃には、シバは青年に腹を見せてもみくちゃに撫で回されていた。
「すみません。飛びついちゃって、服大丈夫ですか?」
「平気ですよ。こいつに比べれば可愛いもんだし。」
青年が自分のハスキーを指して言う。
ハスキーは尻尾を振ってふんふんと転がるシバの尻の匂いを嗅いだ。
しかし、小首を傾げたと思うと、シバから離れ、その辺の草を食べだしてしまう。
「ありゃ、珍しい。普段は結構他所の犬に戯れるんだけど。」
さゆりはドキリとした。
それって、シバが犬ではないからではなかろうか。
「あの、茶色のハスキーって初めて見ました。名前なんて言うんですか?」
バレるわけもないが、なんとなく話題をそらしてしまう。
「確かにあんまこの辺にはいないかも。こいつはブラッキーです。茶色だけど。」
「あ、ゲームのモンスターから?」
「そうそう。この子の名前は何ですか?」
「シバです。」
「名前が?」
「はい。」
「手抜きすぎません?」
青年はクスリとわらった。
確かに、柴犬にシバと名付けていたらそうなる。
さゆりは特に言い訳もせず猫を被ってはにかんだ。
青年は爽やかで何とも好感が持てる。
年頃はさゆりと同じくらいだが、笑った所は何だか、シバに似ている気がして、つまり可愛い。わりと、とても。
これは!なんと!?
良い出会い来たのでは!?
と密かに期待がさっきのシバみたいに跳ね上がる。
まじか。
「俺よく来るけど、シバちゃんに会ったのは初めてですね。普段は上水公園の方行ってます?」
「実は散歩するの初めてで。」
「飼い始めたばっかり?」
「一時的に預かってるんです。」
「いつまで?」
「明日まで。」
自分で言って一転悲しくなる。
「そっか。残念だな。こんなに触らせてくれる柴犬は珍しいら。」
「……。」
やばい。せっかくの出会いなのに、意外に落ち込んでしまってそれどころじゃなくなって来た。
「あの、また預からせて貰えば良いんじゃないですか?それかこいつでよければいつでも貸しますよ?」
「じゃあ2週間くらいいいですか?」
つい本気で聞いてしまった。
男がぷふっと吹き出す。
「いやいや、流石に何の準備もなく大型犬預かっちゃダメですって。俺がいる時に貸したげるので、存分にもふってください。」
「じゃあまた来ます。いつ来たら会えやすいですか?」
「結構不定期だから、来るときは教えますよ。連絡先交換しません?」
まじかまじか。
「いや、でも彼女に悪いですよ。」
知ってる。連絡先聞き出すのが上手い男は、大抵相手がいるって。
そう思ってさゆりはちゃんとこれ見よがしなカマを掛けた。
「いないです。別れたばかりで。そっちは彼氏に悪い?」
「いないです。いつぐらいからいないんだっけ?」
狙い通りの自虐を笑われながら、さゆりは今しがた出会った江戸川と名乗る青年とメッセージアプリのアカウントを登録しあった。
まじかまじかまじか。
「あの、すみません、俺そろそろ行きますね。」
交換し終えると、江戸川はあっさり辞去して来た。
もう少し人となりを探りたかったさゆりは肩透かしを食らったが、止める理由もない。
まだじゃれつこうとするシバをつまみ上げ、ブラッキーを撫でて別れを告げた。
なんだか嘘みたいな話だ。
そう思ってしまう。
これは何かの罠ではないか?と誰かに陥れられるほど大した人物でもない癖に疑いたくなる。
とりあえず帰ったら彼の名前でSNSを漁りまくって、本当にフリーか調べよう。
さゆりは慎重に浮かれながら、残りの時間をシバとディスクで遊ぶことにした。
「いいお兄ちゃんだったね。」
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