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マメ柴のシバ
密談
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晴天の公園は賑わっていた。
何とか駐車場に滑り込み、ピクニック用の荷物を抱えた一行は園内で1番大きな緑地の広場を目指した。
中央に大きな樫の木が生えているだけの開放的な空間は、たくさんの人を受け入れてもまだ走り回る余裕がある。
さゆりたちは他の客より少し余分に歩いてまだ人が少ないエリアを見つけると、そこに荷を広げることにした。
「ハチ、セッティングお願い。私はさゆりちゃんと売店で生ビールとか屋台飯買ってくるから。」
「分かった。」
「シバはきみやさんのお手伝いしててね。」
「はーい。」
レジャーシートを広げるきみや達を後に残して、さゆりとえりかは屋台が複数出店しているエリアに向かった。
「LINEで言ってた相談て何?」
歩きながらえりかがさゆりに問う。
前日、さゆりはえりかに相談があることをメッセージで送った。
聞かれたくないのでシバがいない時が良いことも。
だからえりかは、さゆりと二人になれる時間をアレンジしたのだった。
「あの、確証がある話じゃないんですが、シバの来た世界のことが少し気になっていて。」
さゆりはこれまでのシバの言動を伝えた。
獣人が警察組織に連れて行かれ、怖い目にあうケースがあるらしいこと。
振る舞いによっては体罰を受けるらしいこと。
働く先を主体的に選べないらしいこと。
「向こうの世界では、ひょっとしたら獣人て社会的な地位がけっこう低いんじゃないかって思って……。」
「それか、社会的にはそうでもなくても、シバ君の置かれた環境が酷いかだよね。」
その可能性も確かにある。
いずれにしろ気持ちが良いものではない。
しかし後者だとすれば、みつるがより積極的に加害者になっている可能性が高まるので、さゆりとしては考えたくない説だった。
「ごめん。配慮が足りなかった。」
結果としてみつるに嫌疑をかける発言をしたことに気付いたえりかが謝罪する。
「いえ、大丈夫です。どっちにしろ兄が関わっていることに変わりはないので。」
みつるはそういうことが出来る男だっただろうか。
10年前の兄を思い返しながら考える。
こちらにいる時、兄が悪事に手を染めたことは多分ないはずだ。
自分たちの日常はあまりに平和に守られ過ぎていて、他者を害する余地がそもそもなかったのだ。
しかし今はどうだろう。
どんな人間も環境次第で変わりうる。
「あのさ、ひとつ気になってることいいかな。」
「何ですか?」
「望月君、多分さゆりちゃんに嘘ついてるんだよね。」
えりかの言葉に目を見開くが、続きを待った。
「望月君がこっちに帰ってこれない理由、少しおかしいと思う。帰ってくると一気に時間が進んで体が保たないって言ったんだっけ?でも時間って相対的なものだから、仮に別世界の時間がこっちより遅く流れていたとしても、そこに行って帰って来た時に進まなかった時間が一気に進むなんて今の科学で考えたら変な話なんだよね。そんなこと、望月君が信じると思えなくて。」
「つまり、兄は自分の意思で帰らないってことですか?」
「それか、別の理由で帰れないのかも。」
仮にそうだとして、何故嘘をつく必要があるのか全く見当もつかない。
「それについては次に会う時に兄にきいてみるしかないですね。」
さゆりの言葉にえりかは頷いた。
「シバ君のことはどうしたいの?」
「どうって……」
「もし帰った先がシバ君にとって良い場所じゃなくても、このまま返す?」
えりかはストレートに核心をついて来た。
「正直、わかりません。」
こっちにいても、戸籍もなければ名前もない。シバからは言葉も通じない。
具合が悪くなっても病院にも連れていけないのだ。
それに、おそらくまともに働くことも出来ないだろうから引き取るなら一生さゆりが面倒を見なくてはいけない。
自分が先に死んだらどうするのか。
そう考えると結論は出なかった。
「まあ、考え過ぎかもね。結局憶測でしかないもん。まだ向こうが酷いところだって決まったわけじゃないし、シバ君が帰りたくないって言ってるわけじゃないんでしょう?」
「それはまあ。」
さゆりの下で働きたいとは言われたが、戻ることを拒否しているわけではない。
「そっちも望月君に聞いてみるのが良いんじゃない?あ、売店見えて来たよ。うわー結構並んでる!」
それから二人でいくつか出店している屋台を回り、酒とフードを買って戻った。
何とか駐車場に滑り込み、ピクニック用の荷物を抱えた一行は園内で1番大きな緑地の広場を目指した。
中央に大きな樫の木が生えているだけの開放的な空間は、たくさんの人を受け入れてもまだ走り回る余裕がある。
さゆりたちは他の客より少し余分に歩いてまだ人が少ないエリアを見つけると、そこに荷を広げることにした。
「ハチ、セッティングお願い。私はさゆりちゃんと売店で生ビールとか屋台飯買ってくるから。」
「分かった。」
「シバはきみやさんのお手伝いしててね。」
「はーい。」
レジャーシートを広げるきみや達を後に残して、さゆりとえりかは屋台が複数出店しているエリアに向かった。
「LINEで言ってた相談て何?」
歩きながらえりかがさゆりに問う。
前日、さゆりはえりかに相談があることをメッセージで送った。
聞かれたくないのでシバがいない時が良いことも。
だからえりかは、さゆりと二人になれる時間をアレンジしたのだった。
「あの、確証がある話じゃないんですが、シバの来た世界のことが少し気になっていて。」
さゆりはこれまでのシバの言動を伝えた。
獣人が警察組織に連れて行かれ、怖い目にあうケースがあるらしいこと。
振る舞いによっては体罰を受けるらしいこと。
働く先を主体的に選べないらしいこと。
「向こうの世界では、ひょっとしたら獣人て社会的な地位がけっこう低いんじゃないかって思って……。」
「それか、社会的にはそうでもなくても、シバ君の置かれた環境が酷いかだよね。」
その可能性も確かにある。
いずれにしろ気持ちが良いものではない。
しかし後者だとすれば、みつるがより積極的に加害者になっている可能性が高まるので、さゆりとしては考えたくない説だった。
「ごめん。配慮が足りなかった。」
結果としてみつるに嫌疑をかける発言をしたことに気付いたえりかが謝罪する。
「いえ、大丈夫です。どっちにしろ兄が関わっていることに変わりはないので。」
みつるはそういうことが出来る男だっただろうか。
10年前の兄を思い返しながら考える。
こちらにいる時、兄が悪事に手を染めたことは多分ないはずだ。
自分たちの日常はあまりに平和に守られ過ぎていて、他者を害する余地がそもそもなかったのだ。
しかし今はどうだろう。
どんな人間も環境次第で変わりうる。
「あのさ、ひとつ気になってることいいかな。」
「何ですか?」
「望月君、多分さゆりちゃんに嘘ついてるんだよね。」
えりかの言葉に目を見開くが、続きを待った。
「望月君がこっちに帰ってこれない理由、少しおかしいと思う。帰ってくると一気に時間が進んで体が保たないって言ったんだっけ?でも時間って相対的なものだから、仮に別世界の時間がこっちより遅く流れていたとしても、そこに行って帰って来た時に進まなかった時間が一気に進むなんて今の科学で考えたら変な話なんだよね。そんなこと、望月君が信じると思えなくて。」
「つまり、兄は自分の意思で帰らないってことですか?」
「それか、別の理由で帰れないのかも。」
仮にそうだとして、何故嘘をつく必要があるのか全く見当もつかない。
「それについては次に会う時に兄にきいてみるしかないですね。」
さゆりの言葉にえりかは頷いた。
「シバ君のことはどうしたいの?」
「どうって……」
「もし帰った先がシバ君にとって良い場所じゃなくても、このまま返す?」
えりかはストレートに核心をついて来た。
「正直、わかりません。」
こっちにいても、戸籍もなければ名前もない。シバからは言葉も通じない。
具合が悪くなっても病院にも連れていけないのだ。
それに、おそらくまともに働くことも出来ないだろうから引き取るなら一生さゆりが面倒を見なくてはいけない。
自分が先に死んだらどうするのか。
そう考えると結論は出なかった。
「まあ、考え過ぎかもね。結局憶測でしかないもん。まだ向こうが酷いところだって決まったわけじゃないし、シバ君が帰りたくないって言ってるわけじゃないんでしょう?」
「それはまあ。」
さゆりの下で働きたいとは言われたが、戻ることを拒否しているわけではない。
「そっちも望月君に聞いてみるのが良いんじゃない?あ、売店見えて来たよ。うわー結構並んでる!」
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