異世界パピーウォーカー〜イケメン獣人預かり〼〜

saito

文字の大きさ
上 下
34 / 54
マメ柴のシバ

何で

しおりを挟む
「何でえりかさんは、私に良くしてくれるんですか?」

公衆浴場の広い浴槽に並んで浸かりながら、さゆりはずっと疑問だった事を聞いた。

「え、普通じゃない?特別な事何もしてないと思うけど。」

「話しかけてくれたり、ごはんに誘ってくれたり、心配してくれたりしたじゃないですか。」

「いや、普通のことじゃん。」

「でも、今まで全然接点なかったのに……。」

そういうとえりかは、あーと唸って少し逡巡していた。

「実はさ、さゆりちゃんのことは、望月君のことでちょっと他人事に思えなかったんだよね。」

そう言った後、えりかは自分の話をした。
えりかの母も、えりかが幼い頃行方不明になったという事。
当時えりかの両親は離婚していてえりかは母親と暮らしていたが、母親が行方不明になったため父親に引き取られた。

「私はお母さんがいなくなった時子供で何も出来なかった。だからさゆりちゃんがお兄さんを探すのを手伝いたかったんだよね。自己満足かもしれないけど。でもハチの事があって出来なくなっちゃって。それであの時さゆりちゃんみつけて、元気なさそうだったから、声掛けたの。」

「そうだったんですか……。」

「そしたらさゆりちゃんとんでもないことになってるし、望月君はもっと凄いことになってるし。まあ、ハチの友達が出来たのはよかったけど。」

「あの、ひょっとしたらえりかさんのお母さんも向こうに行ってるのかも!兄に聞いてみたら何かわかるかもしれません!」

無責任なのは分かっていたが、思いつくまま言った。

「ありがとね。でも、それは無いんだ。もう死んじゃってるの。体が見つかってる。」

「あ……すみません。」

「いいよ。昔の話だし。ハチのおかげでなんだかんだ寂しく無いしね。」

「……シバがきみやさんに迷惑かけてないか心配です。」

話題を変えるために、男性浴場にいるはずの二人の事に触れた。

「大丈夫でしょ。ハチはああ見えて面倒見が良いし、慣れてるよ。」

「へぇ。」

きみやがえりかを風呂に入れているというシバの話を思い出して、変な反応になる。

事実だとしたら、それを「面倒見が良い。」で片付けているえりかの認知に若干の不安を感じざるを得ない。

「さゆりちゃんさ、ハチと私の関係、めちゃくちゃ不気味がってるでしょ。」

「そんなこと……」

あります、と正直に言うわけにもいかず、さゆりは語尾を濁した。

「いいって。反応見てたらわかるよ。」

「……すみません。」

「いや、むしろ安心する。みんなあの外見に騙されるけどさ、やっぱあいつおかしいから。」

どう反応して良いか分からなかったが、えりかは自分の言葉にうんうんと頷いた。

「私が家事するとさ、泣くんだよ?やらせて下さいーって、ポロポロ泣くの。最初にあのペンマイク持って来られた時もさ、当然キレるじゃん。ざけんなって拒否したらさ、ハンストだよ。1週間くらい何も食べずイジイジしてんの。まじあいつ、どうかしてる。」

ひえ、と思う事をえりかは早口で語った。
普通に縁切り案件だと思うが、身内なだけあってそうもいかないのかもしれない。
切れるに切れない結果、無策に成り果て、面倒見が良いだけと言い聞かせて今に至るということだろうか。

「あーすっきりした。本人が聞こえるとこで悪口言うと泣くしさ。ハチが聞いてない状態で話すなんて何年振りだろう。本当にシバ君とさゆりちゃんに感謝だわ。」

これまでの振る舞いから、えりかがきみやを嫌っているとは思えないし、むしろさゆりやシバと関わるのはきみやのためじゃないかとすら感じる。
しかし、それはそれとして、やはりきみやの自分に対する執着振りには色々耐えかねるところがあるようだ。

さゆりはなんと反応したら良いか分からず、また話題を変えるため無難にえりかが使っている基礎化粧品の話を振ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...