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マメ柴のシバ
その女堕ちる
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別にあいつに謝る必要無かったんじゃないか、と思いながら部屋に戻ったさゆりは、
あと二時間ほどでシバが帰って来る時間だと確認すると夕飯の準備に取り掛かった。
経緯はどうあれ、他人に面と向かってマイナス思考を否定してもらったおかげで今はだいぶ建設的な考えができるようになっている。
自分のしたことは間違っていたかもしれないが、まだ取り返しがつかなくなった訳では無いだろう。
シバと過ごす時間はあと3週間くらいある。
1日であれだけ劇的に変化するのだから全然挽回できるはずだ。
そう思い直し、買い込んだ材料で4人分のシチューとロールキャベツを作った。
普段そこまで手の込んだ料理をする訳でないので作業には多少時間が掛かったが、それでも全行程が終わってみるとまだ5時には余裕がある。
お茶でも飲んで一息つくかと電気ケトルを作動させた。
湯が沸くまでの間メッセージを確認する。
一時間前にえりかから、
「少し早めに行って良いか。」
というメッセージが入っていて、
やっちまった、と思いながら是と答えておいた。
程なくチャイムが鳴る。
マンション入り口の呼び出し音だった。
出てみると案の定えりかで、早く着いたことを詫びて来た。
こちらもメッセージの返事が遅れたことを謝って自動扉を解錠する。
あとは玄関のチャイムが鳴るまで待てば良い話なのだが、つい落ち着かなくて外廊下に出てしまった。
エレベーターを確認するが当然まだ誰もいない。
と思ったら少ししてその奥の外階段に通じる扉がガチャリと開いた。
続けて誰かが飛び出してくる。
「さゆり!」
キャスケットを被って耳を隠しているがすぐにわかる。
シバだった。
さゆりを見つけると一目散に走り寄ってくる。
それはそのまま突撃したらさゆりごと吹っ飛ぶくらいの勢いだったが、直前にスピードをぐっと下げて飛び込んだのでなんとかさゆりはシバを抱きとめた。
「シバ、おかえり。」
丸一日も離れていないのに。
この1日の感情の動きとシバの様子が作用して何だか胸が詰まった。
つい感傷的な声が出てしまう。
そのままの勢いでシバの後ろに回した掌を動かして労わるように背中をさすった。
もう粗相してもいいや、外だけど、と思えてしまったからだ。
所謂気の迷いである。
けれどシバは、抱きついた体を少し離してブルブルと身慄いはするものの、漏らす気配は見せなかった。
恐らく武者震いで興奮をなだめている。
さゆりは本で読んだ知識に辿り着くと、たった1日でこんなに賢くなって!!と感動した。
これまでの苦労と終日のペットロスで、賢さのハードルがだいぶガバついている。
「シバ、これまで沢山酷いことしてごめんね。」
さゆりはシバを興奮させすぎないようにそっと抱きしめると、
ゆっくりした口調で言った。
シバの肩に顎を乗せる形になりその背中が見下ろせる。
あるはずのしっぽはサルエルパンツと腰に巻いたパーカーで隠れていたが、それでももこもこと動いてるのが分かった。
こんなにダメな私なのに、シバはまだしっぽを振って迎えてくれる。
そう思ったら視界がボヤけた。
「さゆり、」
シバが呼んできたので、
上体を起こして向き合う。
「ただいま!」
続けてパァッと笑う。
(なにこれうちのこちょうかわいい。)
さゆりは遂に親バカに成り果てた。
あと二時間ほどでシバが帰って来る時間だと確認すると夕飯の準備に取り掛かった。
経緯はどうあれ、他人に面と向かってマイナス思考を否定してもらったおかげで今はだいぶ建設的な考えができるようになっている。
自分のしたことは間違っていたかもしれないが、まだ取り返しがつかなくなった訳では無いだろう。
シバと過ごす時間はあと3週間くらいある。
1日であれだけ劇的に変化するのだから全然挽回できるはずだ。
そう思い直し、買い込んだ材料で4人分のシチューとロールキャベツを作った。
普段そこまで手の込んだ料理をする訳でないので作業には多少時間が掛かったが、それでも全行程が終わってみるとまだ5時には余裕がある。
お茶でも飲んで一息つくかと電気ケトルを作動させた。
湯が沸くまでの間メッセージを確認する。
一時間前にえりかから、
「少し早めに行って良いか。」
というメッセージが入っていて、
やっちまった、と思いながら是と答えておいた。
程なくチャイムが鳴る。
マンション入り口の呼び出し音だった。
出てみると案の定えりかで、早く着いたことを詫びて来た。
こちらもメッセージの返事が遅れたことを謝って自動扉を解錠する。
あとは玄関のチャイムが鳴るまで待てば良い話なのだが、つい落ち着かなくて外廊下に出てしまった。
エレベーターを確認するが当然まだ誰もいない。
と思ったら少ししてその奥の外階段に通じる扉がガチャリと開いた。
続けて誰かが飛び出してくる。
「さゆり!」
キャスケットを被って耳を隠しているがすぐにわかる。
シバだった。
さゆりを見つけると一目散に走り寄ってくる。
それはそのまま突撃したらさゆりごと吹っ飛ぶくらいの勢いだったが、直前にスピードをぐっと下げて飛び込んだのでなんとかさゆりはシバを抱きとめた。
「シバ、おかえり。」
丸一日も離れていないのに。
この1日の感情の動きとシバの様子が作用して何だか胸が詰まった。
つい感傷的な声が出てしまう。
そのままの勢いでシバの後ろに回した掌を動かして労わるように背中をさすった。
もう粗相してもいいや、外だけど、と思えてしまったからだ。
所謂気の迷いである。
けれどシバは、抱きついた体を少し離してブルブルと身慄いはするものの、漏らす気配は見せなかった。
恐らく武者震いで興奮をなだめている。
さゆりは本で読んだ知識に辿り着くと、たった1日でこんなに賢くなって!!と感動した。
これまでの苦労と終日のペットロスで、賢さのハードルがだいぶガバついている。
「シバ、これまで沢山酷いことしてごめんね。」
さゆりはシバを興奮させすぎないようにそっと抱きしめると、
ゆっくりした口調で言った。
シバの肩に顎を乗せる形になりその背中が見下ろせる。
あるはずのしっぽはサルエルパンツと腰に巻いたパーカーで隠れていたが、それでももこもこと動いてるのが分かった。
こんなにダメな私なのに、シバはまだしっぽを振って迎えてくれる。
そう思ったら視界がボヤけた。
「さゆり、」
シバが呼んできたので、
上体を起こして向き合う。
「ただいま!」
続けてパァッと笑う。
(なにこれうちのこちょうかわいい。)
さゆりは遂に親バカに成り果てた。
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