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マメ柴のシバ
言葉
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さゆりの驚きを、えりかは明後日の方向に解釈した。
「そうなの。ハチには従うんだよね。私にはあんまり。ハチがシバ君にタオルケットを巻いた時も大人しくしてたし…あ、部屋にあったタオルケット、借りちゃった。裸のまま連れ出すわけにはいかなかったから。洗って返すね。」
そう言われてフローリングを見ると、確かにいつもシバが噛んで涎まみれにしているタオルケットがなくなっていた。
「いや、じゃなくて、言葉、分からないんですか?」
「うん。こっちの言っていることは伝わってるみたいだけどね。さゆりちゃんはシバ君の言葉がわかるんでしょ?それも望月君の魔法?」
えりかは何気なく言ったが、その言葉にさゆりの中でみつるに対する怒りがこみ上げて来た。
あいつ、勝手に私の体に何してくれてんの!という怒りだ。
えりかの言う事は本当だろう。だって嘘をつく理由がない。
ということは、さゆりにシバの言葉が分かるのは、シバに魔法が掛かっているのではなく、さゆりに魔法がかかっているからではないか。
さゆりの意思を無視して無断でそれをした兄に、なんとも言えない不快感を感じた。自分の体に勝手に細工をされて喜ぶ奴がいるわけないだろ、やっぱぶっ殺す、と思った。
また、初めてみつるに対し、未知なものへの恐怖に近い感情を覚えた。
兄は一体、どこまでの力を手に入れているのか。
異世界からの人間は、特別に魔法の能力が高いと兄は言ったが、そんな兄でないと出来ない獣人の仕事というのは、どんな仕事なのか。
生物の教育や治療に、人間の脳に細工をする類と同等の超越的な能力がいるとしたら、一体どんなレベルのものなんだろう。
例えば、人格を丸ごと作り変えるとか、瀕死の状態から回復させるようなものだとしたら…
「さゆりちゃん?」
一気に考えが巡っていたところにえりかの呼びかけが届き、さゆりの思考はふつりと途切れた。
「あ、すみません。シバの言葉がえりかさんたちに通じてないと思ってなくて…。」
「え…。それは、ちょっと望月君酷いね。」
そう返すえりかの声音には確かにみつるへの非難が滲んでいて、
えりかもさゆりと同じ推測をして、さゆりが感じたのと同じ不快感を覚えたのだとわかった。
正直、えりかの考えていることはさゆりにはいまいち分からないし、行動力の有り余り具合に困惑しきりだ。
でも、彼女の倫理観はどうやら信じても大丈夫かもしれない。その気付きは少しさゆりを安心させた。
実際のところ、漣立つ感情を落ち着かせるのはちょっとした同情や共感だったりする。
この1週間孤独な戦いを強いられていたさゆりにとって、えりかの気遣いは癒しだった。
電話を終えた後なんとなくえりかを信頼してしまったさゆりは、気が大きくなって再度風呂場に向かうと、湯船にお湯を張り始めた。
久々の入浴を完璧に仕上げるために入浴剤や、マッサージオイルや、クレイパックなどを脱衣所の棚から引っ張り出し、浴槽から湯気が立ち上る頃には適当な鼻歌を歌うくらいには気持ちが切り替わっていた。
「そうなの。ハチには従うんだよね。私にはあんまり。ハチがシバ君にタオルケットを巻いた時も大人しくしてたし…あ、部屋にあったタオルケット、借りちゃった。裸のまま連れ出すわけにはいかなかったから。洗って返すね。」
そう言われてフローリングを見ると、確かにいつもシバが噛んで涎まみれにしているタオルケットがなくなっていた。
「いや、じゃなくて、言葉、分からないんですか?」
「うん。こっちの言っていることは伝わってるみたいだけどね。さゆりちゃんはシバ君の言葉がわかるんでしょ?それも望月君の魔法?」
えりかは何気なく言ったが、その言葉にさゆりの中でみつるに対する怒りがこみ上げて来た。
あいつ、勝手に私の体に何してくれてんの!という怒りだ。
えりかの言う事は本当だろう。だって嘘をつく理由がない。
ということは、さゆりにシバの言葉が分かるのは、シバに魔法が掛かっているのではなく、さゆりに魔法がかかっているからではないか。
さゆりの意思を無視して無断でそれをした兄に、なんとも言えない不快感を感じた。自分の体に勝手に細工をされて喜ぶ奴がいるわけないだろ、やっぱぶっ殺す、と思った。
また、初めてみつるに対し、未知なものへの恐怖に近い感情を覚えた。
兄は一体、どこまでの力を手に入れているのか。
異世界からの人間は、特別に魔法の能力が高いと兄は言ったが、そんな兄でないと出来ない獣人の仕事というのは、どんな仕事なのか。
生物の教育や治療に、人間の脳に細工をする類と同等の超越的な能力がいるとしたら、一体どんなレベルのものなんだろう。
例えば、人格を丸ごと作り変えるとか、瀕死の状態から回復させるようなものだとしたら…
「さゆりちゃん?」
一気に考えが巡っていたところにえりかの呼びかけが届き、さゆりの思考はふつりと途切れた。
「あ、すみません。シバの言葉がえりかさんたちに通じてないと思ってなくて…。」
「え…。それは、ちょっと望月君酷いね。」
そう返すえりかの声音には確かにみつるへの非難が滲んでいて、
えりかもさゆりと同じ推測をして、さゆりが感じたのと同じ不快感を覚えたのだとわかった。
正直、えりかの考えていることはさゆりにはいまいち分からないし、行動力の有り余り具合に困惑しきりだ。
でも、彼女の倫理観はどうやら信じても大丈夫かもしれない。その気付きは少しさゆりを安心させた。
実際のところ、漣立つ感情を落ち着かせるのはちょっとした同情や共感だったりする。
この1週間孤独な戦いを強いられていたさゆりにとって、えりかの気遣いは癒しだった。
電話を終えた後なんとなくえりかを信頼してしまったさゆりは、気が大きくなって再度風呂場に向かうと、湯船にお湯を張り始めた。
久々の入浴を完璧に仕上げるために入浴剤や、マッサージオイルや、クレイパックなどを脱衣所の棚から引っ張り出し、浴槽から湯気が立ち上る頃には適当な鼻歌を歌うくらいには気持ちが切り替わっていた。
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