16 / 54
マメ柴のシバ
さゆりのお友だち
しおりを挟む
「さゆりちゃん、家まで送るよ。もう遅くて危ないし。」
乗車早々かけられたえりかの言葉に遠慮したが、結局押し切られてしまいきみやにマンションの住所を伝えた。
「もし良ければだけど、ハチと私でシバ君の相手するから、さゆりちゃんはゆっくりお風呂でも入ったら?」
続けて出された提案には目を剥いてしまった。
えりかが自分の話を信じたとは思えない。
だとしたら、嘘を暴くためにさゆりを追い詰めようとしているのだろうか。
「でも遅い時間にお二人を付き合わせるのも申し訳ないし…。」
「いいっていいって。ハチもいいよね?」
えりかの問いかけにきみやはうんと頷いた。
どうやら何としてもさゆりの虚言を暴きたいらしい。
もういいや。精々驚いてくれ。
酒が後押しして大胆な気分になったさゆりはやけっぱちで了承した。
マンションにはさゆりが使える駐車場がなかったので、近くにあるコインパーキングに車を停めた。
2人を引き連れて部屋がある5階の角部屋に向かう。
解錠して扉を開けると、強い衝撃を体に感じた。
「さゆりー!おかえりおかえりおかえりおかえり!!!さゆりー!さゆっゲフッさっケフッさゆり!」
続けて男にしては高めの声で飛びついて来た塊に歓待される。
興奮のあまりむせているのももう慣れた。
とりあえずここでは他の住民からシバが見えてしまうので、慌ててシバごと体を玄関に押し込み、2人が後に続けるように靴を脱いで廊下に進んだ。
本当は廊下よりは玄関の方が汚れても片付けやすいが、今は仕方がない。
「あの、入ってください。」
少し玄関側に体をひねってえりかときみやの様子を伺う。
2人とも驚いた様子でこちらを見ていた。
シバの勢いに驚いているのか、
全裸に驚いているのか、
振り切れんばかりに振り回されている尻尾に驚いているのか。
多分全部だろう。
「入ってください。その、シバが他所に見られるとヤバイので。」
動かない2人に再度促すと、2人はさっと玄関に入り扉を閉めた。
ワンルームの玄関に大人2人はだいぶ窮屈だろう。さゆりは続けて上がるように告げた。
えりかがパンプスを脱ぎ、一歩さゆりとシバに近づく。
さゆりが2人に声をかけるためシバに抱きつかれながら半回転したので、えりかからはシバの側面がよく見えた。
その目線はしばらく耳が生えている頭頂あたりを見た後、下に移動して彼の腰辺りで止まった。
もちろん、シバのプリケツを見ているわけではないだろう。
容姿に優れたシバは臀部も標準と比べればだいぶ美尻なので、単体でも十分見応えはあるが、それでももっと注目すべき点があった。
そこから生えている、ブンブンと動く小麦色と白色の体毛に覆われた巻き尾である。
耳だけなら、精巧にできた付け耳に見えなくもない。
シバには他に耳がないので、本来人間のそれがある部分には何もないのだが、その部分はサイドヘアで隠れているのであまり違和感もなかった。
しかし、尻尾に関しては作り物というには無理があった。
動きがリアル過ぎるためである。
服を着ていれば、その下に仕掛けでも仕込めよう。
しかしシバの一糸纏わない体から直接生えたシッポがブンブンしているのは、トリックがあるようには到底見えなかった。
えりかは視線をあげてさゆりを見た。
その目は、マジかよ、と言っている。
さゆりも軽く頷き、目だけでかえした。マジだ、と。
「さゆり!誰?誰?誰なのー!!!さゆりー!だれー?」
無言でやり取りする2人を邪魔したのはシバだった。
「わっ!バカやめなさい!」
えりかに飛びかかろうとするシバを慌てて抑え込む。
即座にきみやがえりかの肩を掴んで後ろに引き、代わりに自分がシバの前に出た。
「えりかに触るな。」
低い声で唸るように言う。
すると、シバがピタリと止まった。
「シバ、この2人は私の、えと、お友だちで、シバに会いたいって来てくれたんだよ。」
正確には友達では無いのだが、シバはあまり難しい言葉を理解しないので彼も知ってる単語で説明した。
「お友だち!?シバとコウと一緒!?」
コウ、と言うのは向こうの世界のシバの友達らしく、たまにシバの発言に出てくるのをさゆりは記憶している。
「そうだよ。」
「さゆりのお友だちが、シバに会いに来てくれたの……!!」
その時のシバの顔に、さゆりは覚えがあった。
学生時代、友人がずっと憧れだったアイドルに会えた時にそんな顔をしていたからだ。
頬を紅潮させ、目は潤み、感極まっている感じ。
ヤバイかも。
さゆりがそう思った刹那、足に生暖かい水の感触がした。
乗車早々かけられたえりかの言葉に遠慮したが、結局押し切られてしまいきみやにマンションの住所を伝えた。
「もし良ければだけど、ハチと私でシバ君の相手するから、さゆりちゃんはゆっくりお風呂でも入ったら?」
続けて出された提案には目を剥いてしまった。
えりかが自分の話を信じたとは思えない。
だとしたら、嘘を暴くためにさゆりを追い詰めようとしているのだろうか。
「でも遅い時間にお二人を付き合わせるのも申し訳ないし…。」
「いいっていいって。ハチもいいよね?」
えりかの問いかけにきみやはうんと頷いた。
どうやら何としてもさゆりの虚言を暴きたいらしい。
もういいや。精々驚いてくれ。
酒が後押しして大胆な気分になったさゆりはやけっぱちで了承した。
マンションにはさゆりが使える駐車場がなかったので、近くにあるコインパーキングに車を停めた。
2人を引き連れて部屋がある5階の角部屋に向かう。
解錠して扉を開けると、強い衝撃を体に感じた。
「さゆりー!おかえりおかえりおかえりおかえり!!!さゆりー!さゆっゲフッさっケフッさゆり!」
続けて男にしては高めの声で飛びついて来た塊に歓待される。
興奮のあまりむせているのももう慣れた。
とりあえずここでは他の住民からシバが見えてしまうので、慌ててシバごと体を玄関に押し込み、2人が後に続けるように靴を脱いで廊下に進んだ。
本当は廊下よりは玄関の方が汚れても片付けやすいが、今は仕方がない。
「あの、入ってください。」
少し玄関側に体をひねってえりかときみやの様子を伺う。
2人とも驚いた様子でこちらを見ていた。
シバの勢いに驚いているのか、
全裸に驚いているのか、
振り切れんばかりに振り回されている尻尾に驚いているのか。
多分全部だろう。
「入ってください。その、シバが他所に見られるとヤバイので。」
動かない2人に再度促すと、2人はさっと玄関に入り扉を閉めた。
ワンルームの玄関に大人2人はだいぶ窮屈だろう。さゆりは続けて上がるように告げた。
えりかがパンプスを脱ぎ、一歩さゆりとシバに近づく。
さゆりが2人に声をかけるためシバに抱きつかれながら半回転したので、えりかからはシバの側面がよく見えた。
その目線はしばらく耳が生えている頭頂あたりを見た後、下に移動して彼の腰辺りで止まった。
もちろん、シバのプリケツを見ているわけではないだろう。
容姿に優れたシバは臀部も標準と比べればだいぶ美尻なので、単体でも十分見応えはあるが、それでももっと注目すべき点があった。
そこから生えている、ブンブンと動く小麦色と白色の体毛に覆われた巻き尾である。
耳だけなら、精巧にできた付け耳に見えなくもない。
シバには他に耳がないので、本来人間のそれがある部分には何もないのだが、その部分はサイドヘアで隠れているのであまり違和感もなかった。
しかし、尻尾に関しては作り物というには無理があった。
動きがリアル過ぎるためである。
服を着ていれば、その下に仕掛けでも仕込めよう。
しかしシバの一糸纏わない体から直接生えたシッポがブンブンしているのは、トリックがあるようには到底見えなかった。
えりかは視線をあげてさゆりを見た。
その目は、マジかよ、と言っている。
さゆりも軽く頷き、目だけでかえした。マジだ、と。
「さゆり!誰?誰?誰なのー!!!さゆりー!だれー?」
無言でやり取りする2人を邪魔したのはシバだった。
「わっ!バカやめなさい!」
えりかに飛びかかろうとするシバを慌てて抑え込む。
即座にきみやがえりかの肩を掴んで後ろに引き、代わりに自分がシバの前に出た。
「えりかに触るな。」
低い声で唸るように言う。
すると、シバがピタリと止まった。
「シバ、この2人は私の、えと、お友だちで、シバに会いたいって来てくれたんだよ。」
正確には友達では無いのだが、シバはあまり難しい言葉を理解しないので彼も知ってる単語で説明した。
「お友だち!?シバとコウと一緒!?」
コウ、と言うのは向こうの世界のシバの友達らしく、たまにシバの発言に出てくるのをさゆりは記憶している。
「そうだよ。」
「さゆりのお友だちが、シバに会いに来てくれたの……!!」
その時のシバの顔に、さゆりは覚えがあった。
学生時代、友人がずっと憧れだったアイドルに会えた時にそんな顔をしていたからだ。
頬を紅潮させ、目は潤み、感極まっている感じ。
ヤバイかも。
さゆりがそう思った刹那、足に生暖かい水の感触がした。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説


せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています


三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる