15 / 54
マメ柴のシバ
信頼あるいは気の迷い
しおりを挟む
優しい気持ちになれば、多少とも冷静に物事が考えられる。
泡だらけのビールとカットフルーツが添えられたジュースの格差なんて些末に思えた。
これだけ容姿に突出していれば、そもそも見える世界も背負う運命も他とは全く違ってもおかしく無いんでしょう。多分ね。
外見主義に生きづらさや敗北を感じる人間は、間違いなくこの世に五万といるだろうが、美は事実証明できる物理現象だ。
(1+√5)÷2や、1:√2や、1,3,5,8の並びが示すように、 美しさは根拠がある具象で、人間が望もうが望むまいが生体に科学的に作用してしまう。
高いところから落ちたら死ぬというこちらの都合が、重力さんにしてみたら全く知ったこっちゃないのと同じである。
ルッキズムのもたらす人の苦しみと、美がもたらす物理作用の折り合わせ方になんの策も思いつけそうにないので、さゆりは静かに雑炊を啜り続けることを選択した。
「それおいしいでしょ。」
えりかがさゆりに聞いてくる。
彼女は5杯目のハイボールに軽くレモンをしぼって、果汁のついた手をおしぼりでぬぐった。
「はい。うまいですねこれ。注文した中では1番おいしい。」
でしょ?と言ってえりかが笑う。
「えりかも頼む?」
きみやがすかさず尋ねるが、
「そんなお腹空いてないからいらない。」
と言ってハイボールを含んだ。
先程からあまり箸を進めないあたり、食より酒のタイプなのだろう。
その様子にふと、えりかも実は無策なのかもしれないと思った。
しかも10年間筋金入りの無策で、そのあげくがあのマイク入りペンだとしたら。
つまりえりかは無策の大先輩ということになる。
そんな共感が1%、血中のアルコールが判断力を阻害したのが残り1000%で、気づけばさゆりは兄が現れてからの一部始終をえりかに話してしまっていた。
「ええっと……大変だったね。」
一通りの話を受けてそう労うえりかが、さゆりを刺激しないように合わせているのは明らかだった。
おそらく信じたわけではないだろう。ただ、やべえ奴だと思われているだけだ。この2人にそうラベリングされるのは心外である。少なくともシバが人の会話を盗み聞きしたり、自分がそれを黙認したりはしていない。
「到底信じられないですよね……。だから私も誰にも言えなくて滅入ってたんです。でも、えりかさんに声掛けてもらって少し元気が出ました。ありがとうございました。」
それはさゆりの本心だった。えりかに言った所でなんの解決にもならないことは分かっていたが、情けに誠実で報いた事実がさゆりには大事だった。
「そろそろシバが心配なので帰ります。駅まで送ってもらっていいですか?」
そう言って五千円札をえりかに渡したが、今日は奢る約束だからと丁重に返された。
食事はあらかた終わっていたので、間も無くさゆりたちは会計を済ませて店を後にした。
帰り際、今までさゆりに一瞥もくれなかった店員たちが珍獣でも見るような目でさゆりを伺っていたので、多分話を聞かれていたのだろう。うっとおしいくらいテーブルにまとわりついていた店員が話の最中はぱったり来なかった理由を理解した。
ネットにやべえ奴来たって晒されんのかな、とか思いながら車に乗り込んだ。
泡だらけのビールとカットフルーツが添えられたジュースの格差なんて些末に思えた。
これだけ容姿に突出していれば、そもそも見える世界も背負う運命も他とは全く違ってもおかしく無いんでしょう。多分ね。
外見主義に生きづらさや敗北を感じる人間は、間違いなくこの世に五万といるだろうが、美は事実証明できる物理現象だ。
(1+√5)÷2や、1:√2や、1,3,5,8の並びが示すように、 美しさは根拠がある具象で、人間が望もうが望むまいが生体に科学的に作用してしまう。
高いところから落ちたら死ぬというこちらの都合が、重力さんにしてみたら全く知ったこっちゃないのと同じである。
ルッキズムのもたらす人の苦しみと、美がもたらす物理作用の折り合わせ方になんの策も思いつけそうにないので、さゆりは静かに雑炊を啜り続けることを選択した。
「それおいしいでしょ。」
えりかがさゆりに聞いてくる。
彼女は5杯目のハイボールに軽くレモンをしぼって、果汁のついた手をおしぼりでぬぐった。
「はい。うまいですねこれ。注文した中では1番おいしい。」
でしょ?と言ってえりかが笑う。
「えりかも頼む?」
きみやがすかさず尋ねるが、
「そんなお腹空いてないからいらない。」
と言ってハイボールを含んだ。
先程からあまり箸を進めないあたり、食より酒のタイプなのだろう。
その様子にふと、えりかも実は無策なのかもしれないと思った。
しかも10年間筋金入りの無策で、そのあげくがあのマイク入りペンだとしたら。
つまりえりかは無策の大先輩ということになる。
そんな共感が1%、血中のアルコールが判断力を阻害したのが残り1000%で、気づけばさゆりは兄が現れてからの一部始終をえりかに話してしまっていた。
「ええっと……大変だったね。」
一通りの話を受けてそう労うえりかが、さゆりを刺激しないように合わせているのは明らかだった。
おそらく信じたわけではないだろう。ただ、やべえ奴だと思われているだけだ。この2人にそうラベリングされるのは心外である。少なくともシバが人の会話を盗み聞きしたり、自分がそれを黙認したりはしていない。
「到底信じられないですよね……。だから私も誰にも言えなくて滅入ってたんです。でも、えりかさんに声掛けてもらって少し元気が出ました。ありがとうございました。」
それはさゆりの本心だった。えりかに言った所でなんの解決にもならないことは分かっていたが、情けに誠実で報いた事実がさゆりには大事だった。
「そろそろシバが心配なので帰ります。駅まで送ってもらっていいですか?」
そう言って五千円札をえりかに渡したが、今日は奢る約束だからと丁重に返された。
食事はあらかた終わっていたので、間も無くさゆりたちは会計を済ませて店を後にした。
帰り際、今までさゆりに一瞥もくれなかった店員たちが珍獣でも見るような目でさゆりを伺っていたので、多分話を聞かれていたのだろう。うっとおしいくらいテーブルにまとわりついていた店員が話の最中はぱったり来なかった理由を理解した。
ネットにやべえ奴来たって晒されんのかな、とか思いながら車に乗り込んだ。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説


せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています


三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる