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マメ柴のシバ
えりか
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えりかがあの時最終的にどう高崎と自分の利害を調整したのか、あるいはしなかったのか。
さゆりには知る由もなかったが、少なくとも久々に会ったえりかは友好的だった。
「この辺住んでるの?」
「なんの仕事してるの?」
「職場どこ?」
「大学どこ行ったの?」
「昨日のドラマ見た?」
「うさぎ好き?」
てかLINEやってる?
とでも二の句には聞いて来そうなテンションで畳みかけてくる。
さゆりの方は、そんな態度を取られる覚えもないので、しつこいナンパみたいだな、と戸惑いながらも繰り出される質問にポツポツと答えた。
正直、えりかがこんなタイプの人間だとは意外だった。
初対面で会った時は、話す内容や相手を選定するような器用さのある人間に見えた。
けして小さくないさゆりよりも、さらに拳ひとつほど高いスラリとした体型で、切れ長で一重の目元が涼やかだ。
まゆのふんわりした所作とは正反対の、シャキシャキした身のこなしは今日着ている濃灰のパンツスーツとしっかりマッチしている。
スーツの胸ポケットには、大振りでマニッシュなペンが差し込まれていた。
もし、あのまま高崎とえりかが結婚していたら、いかにもなDINKSのパワーカップルになっていたのではないだろうか。
少なくとも暖色でまとめたフォト年賀状はつくりそうにない。
そんなスマートな印象が、
「好きな食べ物は?」
なんてくだらない質問を打ち返すたびに帰り飛んだ球が当たってボロボロと崩れていく。
それがなんとなく不審で、電車がホームに入るとのアナウンスをきっかけに、さゆりは別れの挨拶をする決心をした。
「あ、乗る電車来ちゃうので、私はこれで… 。」
そう愛想笑いで切り上げた。
つもりだった。
ホームに電車が滑り込むタイミングで、えりかに左上腕を掴まれるまでは。
「これから一緒にご飯行かない?」
えりかがにっこり笑って言った。
「てかLINEやってる?」が先だろ、と思いながら断りの言葉を発するために息を少し吸い込む。
「なんか思いつめた感じだから、心配で。」
さゆりの辞退の言葉を遮るように発せられた言葉に思わず息を飲む。見据えた先の女は、笑顔だが瞳は確かに気遣わしげだった。
電車に載っていた乗客が、開いた扉の前で突っ立っているさゆりを邪魔そうに避けながら下車した。
「お腹空いてるでしょ。奢るし、ね、付き合って?」
そう言って掴んでいた上腕を離してそのままポンポン叩くと、返事を待たず踵を返し歩き出す。
電車のドアが閉まる。
さゆりは乗らなかった。
鉄塊がゆっくり加速しながら走り出す。
次の電車はまたしばらく来ない。
えりかのどうでも良い質問にほいほい答えるうちに、死にたいくらいの憂鬱はいつの間にか頭の隅に追いやられていた。
代わりにくたびれた体に空腹感が襲ってくる。
私、お腹空いてたのか。
そう気づいてさゆりは目の前を行くえりかの背中を追った。
えりかは相変わらず、話す内容や相手を選定する器用な女だったようだと、彼女の後を追いながらぼんやりと思った。
さゆりには知る由もなかったが、少なくとも久々に会ったえりかは友好的だった。
「この辺住んでるの?」
「なんの仕事してるの?」
「職場どこ?」
「大学どこ行ったの?」
「昨日のドラマ見た?」
「うさぎ好き?」
てかLINEやってる?
とでも二の句には聞いて来そうなテンションで畳みかけてくる。
さゆりの方は、そんな態度を取られる覚えもないので、しつこいナンパみたいだな、と戸惑いながらも繰り出される質問にポツポツと答えた。
正直、えりかがこんなタイプの人間だとは意外だった。
初対面で会った時は、話す内容や相手を選定するような器用さのある人間に見えた。
けして小さくないさゆりよりも、さらに拳ひとつほど高いスラリとした体型で、切れ長で一重の目元が涼やかだ。
まゆのふんわりした所作とは正反対の、シャキシャキした身のこなしは今日着ている濃灰のパンツスーツとしっかりマッチしている。
スーツの胸ポケットには、大振りでマニッシュなペンが差し込まれていた。
もし、あのまま高崎とえりかが結婚していたら、いかにもなDINKSのパワーカップルになっていたのではないだろうか。
少なくとも暖色でまとめたフォト年賀状はつくりそうにない。
そんなスマートな印象が、
「好きな食べ物は?」
なんてくだらない質問を打ち返すたびに帰り飛んだ球が当たってボロボロと崩れていく。
それがなんとなく不審で、電車がホームに入るとのアナウンスをきっかけに、さゆりは別れの挨拶をする決心をした。
「あ、乗る電車来ちゃうので、私はこれで… 。」
そう愛想笑いで切り上げた。
つもりだった。
ホームに電車が滑り込むタイミングで、えりかに左上腕を掴まれるまでは。
「これから一緒にご飯行かない?」
えりかがにっこり笑って言った。
「てかLINEやってる?」が先だろ、と思いながら断りの言葉を発するために息を少し吸い込む。
「なんか思いつめた感じだから、心配で。」
さゆりの辞退の言葉を遮るように発せられた言葉に思わず息を飲む。見据えた先の女は、笑顔だが瞳は確かに気遣わしげだった。
電車に載っていた乗客が、開いた扉の前で突っ立っているさゆりを邪魔そうに避けながら下車した。
「お腹空いてるでしょ。奢るし、ね、付き合って?」
そう言って掴んでいた上腕を離してそのままポンポン叩くと、返事を待たず踵を返し歩き出す。
電車のドアが閉まる。
さゆりは乗らなかった。
鉄塊がゆっくり加速しながら走り出す。
次の電車はまたしばらく来ない。
えりかのどうでも良い質問にほいほい答えるうちに、死にたいくらいの憂鬱はいつの間にか頭の隅に追いやられていた。
代わりにくたびれた体に空腹感が襲ってくる。
私、お腹空いてたのか。
そう気づいてさゆりは目の前を行くえりかの背中を追った。
えりかは相変わらず、話す内容や相手を選定する器用な女だったようだと、彼女の後を追いながらぼんやりと思った。
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