異世界パピーウォーカー〜イケメン獣人預かり〼〜

saito

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マメ柴のシバ

モロ出しで寝てるぅ!

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みつるが現れたのは金曜日だった。
なので、土曜日の朝さゆりは8時過ぎくらいにふと目覚め、覚醒するにつれて昨日のことを思い出してベッド脇のカーペットを見た。
記憶通りならふわふわのマメ柴がすやすやなはずだ。

確かにすやすやしている。見知らぬ男が。

「は?」

さゆりはそれだけ言った。
本当に驚いた時、人は精々一文字くらいしか発せないのだろう。

男はミドルティーンくらいに思われた。
床に大の字になって寝ている。
殊更さゆりの脳を混乱に叩き落としたのは、彼が知らない男であるばかりか、全裸だったことだ。

丸出しである。

さゆりだって結婚適齢期(時代錯誤)の女性だ。
よもや処女ではないし、男のそれくらいシゴいたりしゃぶったりしたこともある。
でも、基本的にさゆりも過去の彼氏も、これと言って尖った性癖は持ち合わせてなく、それはいつだって薄暗い密室で行われた。
だから、朝日を浴びてくっきりとしたそれは、さゆりには赤裸々すぎたのだ。
私って朝カレーとかできちゃうタイプだけど、朝モツは無理みたい。さゆりは思った。
もちろん混乱しているからである。

とりあえず、あの破廉恥なモノをなんとかしなくては。
おたつきながらもそう思った彼女は、サイドデスクに重ねられていた郵便物の束から昨日の朝刊を取り出し、広げてそっと男の下腹部にかぶせた。

目の前には、大の字になって寝ている、股間に新聞をかぶせた全裸の見知らぬ男がいる。
見ようによってはよりパンチが効いた状況にも思われるがとにかくさゆりにとっては改善だった。
いくらか落ち着いた頭で考える。
これは昨日預かったマメ柴なんだろうな、と。
寝ている位置が一緒だし、何より、丸出しのものが隠れてしまえば、頭髪の間から昨日のワンちゃんと同じ耳が出ていることに注意が行くし、かぶせる時に足の間からアレではない方の尻尾が見えた。

つけ耳つけ尻尾の変態が痴漢目的で不法侵入して大の字に寝ているよりは、昨日預かった異世界の獣人が寝ている間に人型になってしまったという方が平和だ。
今日も自分の生活が平和でよかった。

さゆりはなんとかそう自分を納得させた。
そこから先はノープランだったが。

とりあえず、彼が起きた時のために服を用意する事にした。
プロ球団のファンサービスで貰ったフリーサイズのチームユニフォームと、部屋着用にディスカウントストアで買ったメンズのジーンズをタンスから引っ張り出す。
他人のあれが直で手持ちのズボンに当たる事には抵抗を感じたが、流石にアンダーウェアは持っていない。
過去の恋人が部屋に置いていった私物を仇とばかり処分してしまっていたことを、もったいなかったかな、と初めて思った。
とりあえず当面必要と思われる準備は済んだので、さゆりは男性を起こす事にした。
声を掛けて、挨拶して、服を着るように頼もう。そう段取りを決めた。

「あの、すみません。」
耳元にしゃがんでそう呼びかけた。生肌に触るのは憚られて、肩を叩いたりはできなかった。
犬の外見ならばいくらでもまさぐり倒せるのに。

耳元で話したのが利いたのか、男はパチリと目を覚ました。
そして寝起きを感じさせない勢いでガバリと跳ね起き、

「さゆりー!おはよーおはよーおはよーっ!!!!」

と叫びながらさゆりに飛びかかった。
相手はだいぶ小柄ながら高校生くらいの体格をしていたので、飛びかかられたさゆりはなすすべなく後ろに倒れこんだ。
肩を押さえ込まれたまま、あごをベロベロ舐められる。
もちろん、せっかく被せた紙はあえなくずり落ち、今やさゆりはフリちんの男に押さえ込まれて頸部を舐めまわされていた。
背中に悪寒が走り、体が硬直する。

訂正しよう。本当に驚いた時、人は一言も発せないと。

思考停止したまま、防衛本能が渾身の力で男を押し返した。そのままカサカサと手足をばたつかせて壁際に移動し間合いを取る。
頭の中は真っ白で、具体的なことは何一つ浮かんでこなかった。

男は押し返されて後ろに飛びのいたが、直ぐに満面の笑みでまた飛びかかってきた。

違う。遊んでるんじゃない。

「待て!!」

さゆりはとっさに右腕を伸ばして相手に手のひらを突き出し、静止のポーズをとった。
甲高い声は犬が喜んでいると勘違いすると聞いたので、なるべく低い声で命令した。
まあ、いかんせん犬分が耳と尻尾だけなので、いまいち犬には見えないのだけど。

男はそんなさゆりの手のひらをしばし見つめた。

やったか?
さゆりは思った。

「さゆりー!遊ぼう遊ぼう遊ぼーー!!!」

効果はいまいちだ!

男は再びさゆりに飛びかかり、顔中を舐め出す。

全然間に合わない、
そう言った兄の言葉が反芻した。

さゆりには見えていなかったが、
男の尾てい骨から生えた尻尾は吹き飛ばんばかりに振り切れていた。

間に合わないってレベルじゃねえだろ。
顔中をビシャビシャにされながらさゆりは思った。
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