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お兄ちゃんは異世界の住人になっていた
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考えてみればおかしなことしかない状況すぎて、少しの違和感はすぐにすっ飛んだ。
とにかく、この状況を脳が理解できる形に落とし込まねばならない。
「ねぇ、どういうこと?」
10年行方不明だった家族が異空間から出てきた時の妥当な質問については残念ながら知見がなかったので、さゆりは見切り発車でざっくりと尋ねた。
「どうって、別の世界に飛ばされたとゆうか。」
人のプリンを勝手に食べたことを追及された時のような、
バツの悪い顔で返事が返って来た。
「は?」
「コンパの帰りに酔っ払って、目が覚めたら、異世界にいたみたい。よく覚えてないけど。」
待ってよ。それって普通は気付いたら部屋にいるか、女友達とラブホにいるかが精々のところじゃないの。
じゃあなんだ。
兄が今いる部屋は異世界なのか。まじでか。
いやンなことあるかい。
証拠出せ。
みつるの説明は想定を超えすぎていて、さゆりはにわかには信じられない。
リアクションに困り、色々な思うところを口にも出来ず、さゆりは兄をまじまじと見た。
そして遺憾ながら、妙なことに気づいたのである。
目の前の兄は、まるで記憶の中の兄そのものだということに。
髪は伸びていて、服もファンタジーなローブだけど、顔立ちが、最近眩しく見えてくるようになった会社の新卒社員のように若い。
みつるはさゆりより3歳年かさなのだから、三十路超えのおっさんのはずなのに。
待って、これ以上の情報は追いつかない。
でも聞かずにはいられなかった。
「お兄ちゃん、どうして歳取ってないの?」
「こっちに来て1年しか経っていないんだ。そっちは多分10年くらいは経っているんだろう?」
さゆりの頭はクラクラして来た。思考回路はショート寸前。
いや、なんならショートした。
ポンコツ頭に無理やり叩き込んだみつるの言葉を咀嚼してまとめると、
彼は酔いから覚めたら知らない街の裏路地におり、人混みに出てみれば街並みも、人の服装も、人種や言語まで日本のものではなかった。
かといって知っているどの外国とも違う。
ビジュアルだけ言えば、まるでファンタジー物のアニメやゲームに出て来そうな感じだ。
軽くパニックになっていると、Tシャツにジーンズ、パーカーという自分ではごく普通の出で立ちを見とがめた市民が通報したのか、みつるは憲兵の集団に保護され、役所の応接間に連れて行かれた。
そこでオドついていると、責任者の役人が数冊の書籍を出して来た。
それは日本語で記された書籍だった。
この場所は文字すら日本と違うことを街中の看板で知っていたみつるは、本の言語を確認するや目を剥いてむさぼり読んだ。
それは原口という、みつると同じ様に日本からこの世界に来た人物が記した、いわゆる渡航者向けのマニュアル本だった。
曰く、この世界はみつるがいた世界の平行世界であり、次元をいくつか跨いだだけの極近い時空を並走している宇宙であるらしかった。
そして二つの世界は近さから相互干渉が起こることがあり、時空の密度の違いからワームホールが繋がった時には、しばしば原口やみつるの様にこの世界に元いた世界から流れ込む者が出てくるのだという。
原口のいう時空の密度とは、わかりやすく言えば時間の進む速さの事らしく、さゆりにとっての10年が、みつるには1年だったという具合に、10倍の密度差があるらしい。
その差が動力源になり、時空が繋がった時にたまたま巻き込まれた元世界のヒトモノカネがこちらに転移してしまうのだという。
逆の移転が起こらないのは、水が自然では高い方に流れないのに近いんだって。
とにかく、この状況を脳が理解できる形に落とし込まねばならない。
「ねぇ、どういうこと?」
10年行方不明だった家族が異空間から出てきた時の妥当な質問については残念ながら知見がなかったので、さゆりは見切り発車でざっくりと尋ねた。
「どうって、別の世界に飛ばされたとゆうか。」
人のプリンを勝手に食べたことを追及された時のような、
バツの悪い顔で返事が返って来た。
「は?」
「コンパの帰りに酔っ払って、目が覚めたら、異世界にいたみたい。よく覚えてないけど。」
待ってよ。それって普通は気付いたら部屋にいるか、女友達とラブホにいるかが精々のところじゃないの。
じゃあなんだ。
兄が今いる部屋は異世界なのか。まじでか。
いやンなことあるかい。
証拠出せ。
みつるの説明は想定を超えすぎていて、さゆりはにわかには信じられない。
リアクションに困り、色々な思うところを口にも出来ず、さゆりは兄をまじまじと見た。
そして遺憾ながら、妙なことに気づいたのである。
目の前の兄は、まるで記憶の中の兄そのものだということに。
髪は伸びていて、服もファンタジーなローブだけど、顔立ちが、最近眩しく見えてくるようになった会社の新卒社員のように若い。
みつるはさゆりより3歳年かさなのだから、三十路超えのおっさんのはずなのに。
待って、これ以上の情報は追いつかない。
でも聞かずにはいられなかった。
「お兄ちゃん、どうして歳取ってないの?」
「こっちに来て1年しか経っていないんだ。そっちは多分10年くらいは経っているんだろう?」
さゆりの頭はクラクラして来た。思考回路はショート寸前。
いや、なんならショートした。
ポンコツ頭に無理やり叩き込んだみつるの言葉を咀嚼してまとめると、
彼は酔いから覚めたら知らない街の裏路地におり、人混みに出てみれば街並みも、人の服装も、人種や言語まで日本のものではなかった。
かといって知っているどの外国とも違う。
ビジュアルだけ言えば、まるでファンタジー物のアニメやゲームに出て来そうな感じだ。
軽くパニックになっていると、Tシャツにジーンズ、パーカーという自分ではごく普通の出で立ちを見とがめた市民が通報したのか、みつるは憲兵の集団に保護され、役所の応接間に連れて行かれた。
そこでオドついていると、責任者の役人が数冊の書籍を出して来た。
それは日本語で記された書籍だった。
この場所は文字すら日本と違うことを街中の看板で知っていたみつるは、本の言語を確認するや目を剥いてむさぼり読んだ。
それは原口という、みつると同じ様に日本からこの世界に来た人物が記した、いわゆる渡航者向けのマニュアル本だった。
曰く、この世界はみつるがいた世界の平行世界であり、次元をいくつか跨いだだけの極近い時空を並走している宇宙であるらしかった。
そして二つの世界は近さから相互干渉が起こることがあり、時空の密度の違いからワームホールが繋がった時には、しばしば原口やみつるの様にこの世界に元いた世界から流れ込む者が出てくるのだという。
原口のいう時空の密度とは、わかりやすく言えば時間の進む速さの事らしく、さゆりにとっての10年が、みつるには1年だったという具合に、10倍の密度差があるらしい。
その差が動力源になり、時空が繋がった時にたまたま巻き込まれた元世界のヒトモノカネがこちらに転移してしまうのだという。
逆の移転が起こらないのは、水が自然では高い方に流れないのに近いんだって。
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