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帰宅したら部屋が異世界と繋がっていた
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ありのまま今起こったことを話すぜ…。
帰宅したら、部屋が異世界と繋がっていた。
な…何を言っているのかわからねーと思うが、さゆりも何をされたのかわからなかった…。
頭がどうにかなりそうだった…。
催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わった。
さゆりには超常現象がわからぬ。さゆりは、都内のOLである。
書類を書き、満員電車と遊んで暮して来た。
けれども異変に対しては、人一倍に敏感であった。
そんなさゆりは、次の誕生日で28歳になる。伴侶はまだいない。
具体的には何も行動していないが、三十路になる前には優しくて頼り甲斐のある男性と自然に出会って結婚すると思っている。
が、最近はそれを言うと会社の先輩から何を甘いこと言ってんだと責め立てられるので、今度合コンに誘われたら行くつもりでいた。
誘われたら。
そんな、異常さんの方からさっとエレガントに避けて通るような箸にも棒にもかからない凡夫の部屋の、これと言った特徴もないワンルームの西側の壁に、ぽっかりと、そりゃあもう、ぽっかり、以外の言葉が見当たらないくらいの完璧なぽっかり、で、白雪姫に出てくる魔法の鏡をリスペクトしているような穴があき、向こうに見たこともない空間が広がっていた。
「わ、わぁ。サニーハイツのホグワーツやぁ~。」
さゆりは抑揚なく言った。
ふざけている訳ではなく、向こうの空間は確かに魔法学校のシークレットチャンバー的な割と欧風クラシックな部屋だった。
燭台にロウソクとか立ってるし。
あと、サニーハイツはこの部屋がある鉄骨マンションの名前だ。
廃れたグルメレポーター崩れと化したのは、現実逃避の可能性が高い。
今さゆりは、都内のワンルームにありがちな、玄関開けてすぐのキッチン兼廊下、その先の7畳半、みたいな部屋の入り側に立っている。正面にこだわりの南向き窓、左にテレビと思い付きでDIYしたガタガタのドレッサー、そして右側にベッドと、その上にぽっかりみある穴を捉えていた。
壁が崩れて隣人の若干攻め過ぎている部屋が見えているわけでないことは分かっていた。
何故なら、ここは角部屋でさゆりの部屋の西隣にもう部屋はないからだ。
こう言う場合って、警察呼ぶべき?中には入らない方が良いよね。
現場を残した方が良いし…。さゆりはとっさに事件ベースで考え、スマホを取り出そうとした。
さゆりは平凡だが、何かあったら警察、と反射的に行動できる人間だった。
それは、典型的日本の中流家庭出身な彼女の、少し変わった家族事情に起因する。
10年前、彼女の3つ上の兄が行方不明になり、当然家庭内は蜂の巣を突いたような騒ぎなった。
それからさゆりは繰り返し父母から非常事態のAtoZを言い含められてきた。
兄は、未だ見つからない。
「それ、まだ流行ってるんだ。」
否、見つかっていなかった。
今ここに至るまで。
10年前に聞いたきりの声が、スマホ操作のため視線を落としていたさゆりの耳に届いた。
想定外の事にびくりと体は飛び上がり、その1.5倍くらいの調子で心臓が跳ね上がる。
緊張に肌がざわつく。
声は出なかった。
音源に向けて持ち上げた首がギシリと音を立てた気がする。
西側の壁に空いた穴。
その向こうに見えるハリーだかポッターだかが杖をぶん回していそうな部屋。
その間に挟まれた、さゆりからはどう見てもファンタジーを始めるには不適当すぎる人物。
湛えられたまさかの笑顔。
「おにい…ちゃん…。」
穴の向こうに10年振りの兄の姿を見つけ、さゆりはスマホを握りしめたままヘナヘナとその場にへたり込んだ。
いや、もう消えたタレントだけど、と言う余裕はなかった。
帰宅したら、部屋が異世界と繋がっていた。
な…何を言っているのかわからねーと思うが、さゆりも何をされたのかわからなかった…。
頭がどうにかなりそうだった…。
催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わった。
さゆりには超常現象がわからぬ。さゆりは、都内のOLである。
書類を書き、満員電車と遊んで暮して来た。
けれども異変に対しては、人一倍に敏感であった。
そんなさゆりは、次の誕生日で28歳になる。伴侶はまだいない。
具体的には何も行動していないが、三十路になる前には優しくて頼り甲斐のある男性と自然に出会って結婚すると思っている。
が、最近はそれを言うと会社の先輩から何を甘いこと言ってんだと責め立てられるので、今度合コンに誘われたら行くつもりでいた。
誘われたら。
そんな、異常さんの方からさっとエレガントに避けて通るような箸にも棒にもかからない凡夫の部屋の、これと言った特徴もないワンルームの西側の壁に、ぽっかりと、そりゃあもう、ぽっかり、以外の言葉が見当たらないくらいの完璧なぽっかり、で、白雪姫に出てくる魔法の鏡をリスペクトしているような穴があき、向こうに見たこともない空間が広がっていた。
「わ、わぁ。サニーハイツのホグワーツやぁ~。」
さゆりは抑揚なく言った。
ふざけている訳ではなく、向こうの空間は確かに魔法学校のシークレットチャンバー的な割と欧風クラシックな部屋だった。
燭台にロウソクとか立ってるし。
あと、サニーハイツはこの部屋がある鉄骨マンションの名前だ。
廃れたグルメレポーター崩れと化したのは、現実逃避の可能性が高い。
今さゆりは、都内のワンルームにありがちな、玄関開けてすぐのキッチン兼廊下、その先の7畳半、みたいな部屋の入り側に立っている。正面にこだわりの南向き窓、左にテレビと思い付きでDIYしたガタガタのドレッサー、そして右側にベッドと、その上にぽっかりみある穴を捉えていた。
壁が崩れて隣人の若干攻め過ぎている部屋が見えているわけでないことは分かっていた。
何故なら、ここは角部屋でさゆりの部屋の西隣にもう部屋はないからだ。
こう言う場合って、警察呼ぶべき?中には入らない方が良いよね。
現場を残した方が良いし…。さゆりはとっさに事件ベースで考え、スマホを取り出そうとした。
さゆりは平凡だが、何かあったら警察、と反射的に行動できる人間だった。
それは、典型的日本の中流家庭出身な彼女の、少し変わった家族事情に起因する。
10年前、彼女の3つ上の兄が行方不明になり、当然家庭内は蜂の巣を突いたような騒ぎなった。
それからさゆりは繰り返し父母から非常事態のAtoZを言い含められてきた。
兄は、未だ見つからない。
「それ、まだ流行ってるんだ。」
否、見つかっていなかった。
今ここに至るまで。
10年前に聞いたきりの声が、スマホ操作のため視線を落としていたさゆりの耳に届いた。
想定外の事にびくりと体は飛び上がり、その1.5倍くらいの調子で心臓が跳ね上がる。
緊張に肌がざわつく。
声は出なかった。
音源に向けて持ち上げた首がギシリと音を立てた気がする。
西側の壁に空いた穴。
その向こうに見えるハリーだかポッターだかが杖をぶん回していそうな部屋。
その間に挟まれた、さゆりからはどう見てもファンタジーを始めるには不適当すぎる人物。
湛えられたまさかの笑顔。
「おにい…ちゃん…。」
穴の向こうに10年振りの兄の姿を見つけ、さゆりはスマホを握りしめたままヘナヘナとその場にへたり込んだ。
いや、もう消えたタレントだけど、と言う余裕はなかった。
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