人生の意義:推し

Prologue

1

いつも通り迷子を交番に届けて、重い荷物を持つおばあさんを助けて、ゴミ箱から溢れているゴミを持ち歩いているゴミ袋にしまう。よし。
そして、会社への通勤途中にある小さな神社で軽く手を合わせた。

(りょうくんの卒業ライブ、ぜったいにあたりますようにっ！！！！)

そう、私はお人好しでも善人でもなく、ただ推しに会うために全力を尽くすオタクだった。
推しに貢ぐためにお金を稼ぎ、推しのために自分を磨き上げ、会うためにひたすら善行に励んだ。

(りょうくんに会うためならなんだってしてみせるっ！)

大それた望みも展望もなくてりょうくんが生活するお金の一部を支えていると思うだけで幸せすぎる。

別に男にトラウマがあるとか、彼氏にこっぴどく振られたとか、そんな過去はない。
年相応に付き合い、別れて、を何度か繰り返したものの、やっぱりりょうくんに勝るものはないと気づいた。気づいてしまった。

まありょうくんに恋するようなそんなおこがましいことを考えられるはずもない。私にはりょうくんはりょうくんなのだ。神様、仏様、りょうくん、みたいな？神様に恋なんてできるわけがないよね？

私はこう考えているだけで同担拒否をするつもりはないし、ガチ恋勢を批判するつもりもない。
りょうくんに好きな人ができたなら相手がどんな人でも応援する。
人妻とか反社はちょっと考える…けど。だって推しが幸せになるんだよ。
とっても素敵なことじゃない。
我らがりょうくんをよろしくお願いします。

ガチ恋ねえ。私が超絶美少女で、家柄も性格もスタイルもよく、りょうくんを支えられるだけの収入があったなら考えなくもないが、私だからね。
まっ、ないわな。
潔く社会の歯車に徹します。

しかし、呆気なく交通事故に巻き込まれてしまった。
だって仕方ないじゃん？
小さな女の子が転んじゃって、トラックが目前まで迫って来ていて、たまたま一番近くに私がいたのだから。
トラックに吹っ飛ばされる直前視界に入った神社に、卒コンあたりますようにと願うのだから我ながら逞しい。