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可愛らしい方
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もう乗ることのないと思っていたふかふかの馬車PART2である。伯爵家の馬車も立派だったけど王家の馬車も異次元でした。物の価値はわからないけど立派なことだけはわかるから身の置き場がない。
仕立ての良さそうな服を着ている彼と比べると確かに私はちんちくりんである。
「どこに向かっているんですか?」
「付けばわかる。」
止まった馬車から外を見て思わず突っ込む。
「いや、馬鹿か。」
「王子に馬鹿とはなんだ。」
「いやいや、この格好で降りられるわけないでしょう?」
城下のメインストリート。貴族やトップクラスの商人しか歩かないセレブ通りだった。浮くどころじゃない。
「わかってる。」
「え。」
扉を開けてさっさと降りてしまった彼に戸惑う。さすがに晒し者にしようってわけじゃないよね?効果的だけども。
早く来い。手を引っ張られて馬車から降りる。強引ではあるが、力強くはない。そのままお店に入った。華やかなドレスショップに気後するが、話は通っていたらしい。あれやこれやという間に着替えさせられた。何か最近こんなことばっかりだな。
髪を上げられ、粉を叩かれて鏡を見てさすがプロフェッショナルと感心する。
「ほう。孫にも衣装だな。」
「…ありがとうございます。」
(それ、褒め言葉じゃないけどな。)
「あれ一式もらう。」
「ありがとうございます。」
「待ってください。こんなお高そうなのもらうわけには…!」
「誰がお前にやると言った。そんなちんちくりんじゃ連れ歩けないから貸しただけだ。図々しい。」
「…そうですか。」
会計が終わるまで黙り込むしかなかった。
「王子も会計とかするんですね。」
「当たり前だろう?」
「お待ち下さい!殿下。カード、お忘れですよ。」
そそくさと戻り、何事もなかったかのように隣に並ばれた。じっと見つめると目を逸らされる。
「ふん。たまたまだ。」
おぼっちゃまは存外可愛らしい方らしい。まあ悪い人ではない?
さらっと腕をとられてこちらが歩き易いように歩いてくれている。ということはエスコート慣れはしているようだ。黙っていればちゃんと王子殿下なんだけどな。
「喧嘩売っているのか貴様。」
「え?」
「黙っていなくてもちゃんと王子だ。私は!」
「……声に出てました?」
「ああ。」
「すみません。」
なんて奴だとプンスカしつつも、エスコートはきちんとしている。チグハグし過ぎて面白い。
「何笑っているんだ。」
「王子ってモテないでしょう?」
「何だと?」
あ、うっかり口に出してしまった。
「女は黙っていたところで寄ってくる!」
「玉の輿目当ての御令嬢が?」
「うるさい。」
あ。怒っちゃった。スタスタ歩いて行ってしまう。慌てて追い掛けようと思ったけどヒールが引っかかって転んでしまう。べしゃりとすごい音がして恥ずかしい。そうだ人生初のヒールなるものを履いていたんだった。恥ずかしくて顔を上げられないでいると、手を差し伸べられた。
「へ。」
「大丈夫か?痛いのか?」
地面なんて気にせず膝をつく。抱え上げられて確認される。スカートをなんの躊躇いもなくあげるのはどうかと思うけれど。擦りむいている膝にハンカチを巻かれてしまった。
「ちょ、汚れます。」
「外すな。もう汚れたのだから変わらない。」
スカートを下ろされて今度はしっかりと腕をもたれる。きちんと歩けているかちらちら見られているのには調子が狂う。
その後の食事は、相変わらずの態度だったけど想像していたよりは楽しかった。まあ、味わうことの出来ない高級料理店で隠し味やら食材やらを考えながらだったから話半分だったけど。料理人の性とは言えど、申し訳ない。
「今日はありがとうございました。とても美味しかったです。ご馳走様でした。」
食堂まで送ってくれちゃって、普通のデートみたいだったなあと思う。
「この洋服はクリーニングしてお返しします。」
「いい、持っておけ。」
「え、でも。」
「王族は他人が着た衣服などもう着ない。」
(そりゃ、そうかもしれないけれど。)
「…何回分割すれば払えるかな。」
「お前にお金出させるわけないだろうが。」
「いえ、でも。」
「これは詫びだ。」
「へ?」
この人らしくない言葉が聞こえた気がした。まあこの人のことろくに知らないけど。
「この、前は検討外れなことを言ってしまった。」
「え?」
「…よくよく聞いてみればお前は平民で、親父の無茶振りに付き合わされただけだった、とか。」
「……知らなかったんですか。」
「随分無神経なことも言ってしまった。だから、その、あの……っ、すまなかった。」
この人?謝った?
「え?すみません、もう一度。」
「だから、悪かったと言っている!!!」
逆ギレかよ。笑えてくる。あはは。なんだこの人。
「面白いと思いますけどね。」
「は?」
「我儘坊っちゃんって思っていたけど、あなたはなかなか魅力的ですよ。」
普通に笑いかける。驚きながらも気を悪くはしていないようだ。
「褒めてるのか貶してるのかどっちなんだ。」
「ふふふ、まあ結婚相手としてはどうかと思いますけど。」
「この小娘!」
「それでは、さようならー!」
もう2度と会うことはないだろう。おぼっちゃまの詫びだって言うなら貰っておかないと女が廃るからね。
素直じゃないけど悪い人ではない、はず。この人を包み込めるくらい度量の広い人と結婚できたらいい。
(バイバイ、おぼっちゃま。)
仕立ての良さそうな服を着ている彼と比べると確かに私はちんちくりんである。
「どこに向かっているんですか?」
「付けばわかる。」
止まった馬車から外を見て思わず突っ込む。
「いや、馬鹿か。」
「王子に馬鹿とはなんだ。」
「いやいや、この格好で降りられるわけないでしょう?」
城下のメインストリート。貴族やトップクラスの商人しか歩かないセレブ通りだった。浮くどころじゃない。
「わかってる。」
「え。」
扉を開けてさっさと降りてしまった彼に戸惑う。さすがに晒し者にしようってわけじゃないよね?効果的だけども。
早く来い。手を引っ張られて馬車から降りる。強引ではあるが、力強くはない。そのままお店に入った。華やかなドレスショップに気後するが、話は通っていたらしい。あれやこれやという間に着替えさせられた。何か最近こんなことばっかりだな。
髪を上げられ、粉を叩かれて鏡を見てさすがプロフェッショナルと感心する。
「ほう。孫にも衣装だな。」
「…ありがとうございます。」
(それ、褒め言葉じゃないけどな。)
「あれ一式もらう。」
「ありがとうございます。」
「待ってください。こんなお高そうなのもらうわけには…!」
「誰がお前にやると言った。そんなちんちくりんじゃ連れ歩けないから貸しただけだ。図々しい。」
「…そうですか。」
会計が終わるまで黙り込むしかなかった。
「王子も会計とかするんですね。」
「当たり前だろう?」
「お待ち下さい!殿下。カード、お忘れですよ。」
そそくさと戻り、何事もなかったかのように隣に並ばれた。じっと見つめると目を逸らされる。
「ふん。たまたまだ。」
おぼっちゃまは存外可愛らしい方らしい。まあ悪い人ではない?
さらっと腕をとられてこちらが歩き易いように歩いてくれている。ということはエスコート慣れはしているようだ。黙っていればちゃんと王子殿下なんだけどな。
「喧嘩売っているのか貴様。」
「え?」
「黙っていなくてもちゃんと王子だ。私は!」
「……声に出てました?」
「ああ。」
「すみません。」
なんて奴だとプンスカしつつも、エスコートはきちんとしている。チグハグし過ぎて面白い。
「何笑っているんだ。」
「王子ってモテないでしょう?」
「何だと?」
あ、うっかり口に出してしまった。
「女は黙っていたところで寄ってくる!」
「玉の輿目当ての御令嬢が?」
「うるさい。」
あ。怒っちゃった。スタスタ歩いて行ってしまう。慌てて追い掛けようと思ったけどヒールが引っかかって転んでしまう。べしゃりとすごい音がして恥ずかしい。そうだ人生初のヒールなるものを履いていたんだった。恥ずかしくて顔を上げられないでいると、手を差し伸べられた。
「へ。」
「大丈夫か?痛いのか?」
地面なんて気にせず膝をつく。抱え上げられて確認される。スカートをなんの躊躇いもなくあげるのはどうかと思うけれど。擦りむいている膝にハンカチを巻かれてしまった。
「ちょ、汚れます。」
「外すな。もう汚れたのだから変わらない。」
スカートを下ろされて今度はしっかりと腕をもたれる。きちんと歩けているかちらちら見られているのには調子が狂う。
その後の食事は、相変わらずの態度だったけど想像していたよりは楽しかった。まあ、味わうことの出来ない高級料理店で隠し味やら食材やらを考えながらだったから話半分だったけど。料理人の性とは言えど、申し訳ない。
「今日はありがとうございました。とても美味しかったです。ご馳走様でした。」
食堂まで送ってくれちゃって、普通のデートみたいだったなあと思う。
「この洋服はクリーニングしてお返しします。」
「いい、持っておけ。」
「え、でも。」
「王族は他人が着た衣服などもう着ない。」
(そりゃ、そうかもしれないけれど。)
「…何回分割すれば払えるかな。」
「お前にお金出させるわけないだろうが。」
「いえ、でも。」
「これは詫びだ。」
「へ?」
この人らしくない言葉が聞こえた気がした。まあこの人のことろくに知らないけど。
「この、前は検討外れなことを言ってしまった。」
「え?」
「…よくよく聞いてみればお前は平民で、親父の無茶振りに付き合わされただけだった、とか。」
「……知らなかったんですか。」
「随分無神経なことも言ってしまった。だから、その、あの……っ、すまなかった。」
この人?謝った?
「え?すみません、もう一度。」
「だから、悪かったと言っている!!!」
逆ギレかよ。笑えてくる。あはは。なんだこの人。
「面白いと思いますけどね。」
「は?」
「我儘坊っちゃんって思っていたけど、あなたはなかなか魅力的ですよ。」
普通に笑いかける。驚きながらも気を悪くはしていないようだ。
「褒めてるのか貶してるのかどっちなんだ。」
「ふふふ、まあ結婚相手としてはどうかと思いますけど。」
「この小娘!」
「それでは、さようならー!」
もう2度と会うことはないだろう。おぼっちゃまの詫びだって言うなら貰っておかないと女が廃るからね。
素直じゃないけど悪い人ではない、はず。この人を包み込めるくらい度量の広い人と結婚できたらいい。
(バイバイ、おぼっちゃま。)
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