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嵐の前の、爆弾

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「いらっしゃいませ。」

エスペリアント王国の城下町、ペオグラート。我家はこの街にいたって普通の食堂を構えている。少しはずれにあるこのお店はありがたいことに毎日繁盛していた。

「いつものでよろしいですか?」
「ああ、よろしく頼むよ。」

ロマンスグレーの素敵なおじさまである。常連の彼はいつも同じものを注文する。注文し終えたところで、特大のため息が落とされた。いつも疲労は窺えるが溌剌としていてここまで落胆していることはない。そんな姿に気になって声を掛けるが、心配ないと言われて仕舞えばそこまでである。ランチプレートを食べ終わった頃に、今日の日替わりデザートを持っていく。

「いや、頼んでないよ。」
「いいえ。お疲れのようですから、よかったらどうぞ。甘いものは疲れに効くそうですよ?」

ぽかんとするおじさまに笑いかけると注文の声がした。返事をして踵を返そうとすると、引き止められる。

「君くらいの子の方がいいかもしれないな。」

ボソリとした呟きは聞き取れなかったが、次の言葉に思わず持っていたお盆を落としてしまった。

「うちの愚息とお見合いしてみないか?」





遠回しNOと言っても聞き入れられずに、あれやこれやと言う間に話は決まってしまった。お母さんたちも乗り気なのどうにかしてほしい。まだ13なのに。結婚は早過ぎる。

お前は仕事しか興味がないからな。向こうから良縁を持ち込んでくれるなら、ありがたいもんだろ?との、こと。余計なお世話だわ。
確かに殿方よりも料理の方が興味あるけれど。

ここまではまだ余裕があった。

だって、見合いとは言え、絶対のものではない。相性が合わなければもう2度と会うことはないのだから。常連のお客様の顔を立てつつ、どうにか穏便に断ろうと考えていたのだ。

しかし、見合いの釣書が届いて度肝を抜かれることとなる。





それはとある晴天の日のことだった。

城下のなんて変哲のない食堂の前に1台の立派な馬車が止まる。一目見ただけで豪奢なそれは大層なやんごとなきお方が乗っていると容易に想像させた。店の中で馬車を見た私は、道を間違えたのか。地図を用意しないとなと準備していた。まさか自分に用があるとは思いもしなかった。

だから如何にもな騎士様が降りてこられて、私の名前を呼んだ時から既に記憶は曖昧だ。それでもこれだけは覚えている。

建国記念日などのパレードでしか見たことのないような、立派な制服をお召しになる騎士様は力強い声色でこう宣ってくれやがりました。

「ミリア様。国王陛下からのお茶会(お見合い)の招待状を届けに参りました」と。
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