魔術があの子を消した

ねる

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最期の挨拶


私は石坂遥
現世では行方不明となっているわ。

でも実際私は死んでるけどね。
何でかって? 父親を名乗るあの男を呪い殺すために魔法陣を描いたからよ
効果もあってかあいつは自室のベットで苦しみながら死んだわ。
ざまあみろって感じだわ。ママをいじめた罰よ。

……まああいつが死んでるその前に、私も死んだけどね。
私の場合は眠っている時に心臓が止まったという、案外楽な死に方だけどね。
不思議なことに私の体はベットから消えたわ。

これも魔法の代償と、行方不明になった真相よ。
ママは私がいなくなって大騒ぎしたけどね。

私を迎えに来た天の使いにも言われたわ。殺人を犯した私は地獄行きだと。
それも仕方ないことだわ。
私はママを守りたくてやったことだし、悔いはない。

心残りはあるから、あの世に行くのはクラスメイトへの挨拶を済ませてからだと天の使いには説明した。
天の使いも理解はしてくれて今日の夜までだと言ってくれた。
ただ心配だから自分も同行するという。

地獄に行くのが怖い訳ではない。天の使いに言ったように私のクラスメイトに最期の挨拶をしたかったのは本当だ。
 教室にいた時は心が落ち着いていたのは確かだし。
 私は学校の門を潜り、自分が通っていた教室に行った。その間人が通りすぎたが誰も私に気づかなかった。本当に死んでるのね。私。
  私の体が消えてる地点で分かってはいたけど……
 天の使いが魔法で私の姿を皆に一時的に見えるようにしてくれた。
 教室の前に突然私が現れたことで皆は驚いていたわ。そんな中堀井さんが私に近づいてきた。
「石坂さん、今までどこに行ってたの? あなたのお父さんが死んだというのに」
堀井さんは問いかけてきた。
この子は私がいきなり出てきて戸惑っている中で一番最初に私に声をかけてきた。
堀井さんは度胸があるという理由で学級委員長をやっているが、私もこの子の勇気は凄いと思う。
最期なので私は教室にいた時とは違った口調でいこうと決めた。
「ふっふっふ……」
「何がおかしいのよ」
「あの男が死んだのは私が呪い殺したからよ、ようやく願いが叶ったわ!
ずっと長い間やって実らなかったけど、これでママも安心して眠れる!」
私は興奮混じりの声になった。心からそう思ったため、目から涙が薄っすらと涙が出る。
堀井さんは顔を引きつらせた。仕方ないわね。
人が死んで喜ぶなんて、どう考えても不謹慎だもの。
 二人の女子が私を見て話をしていた。吉木さんと長谷川さんだ。
吉木さんには公園の件もあるから話しておきたい。私は吉木さんに近づいた。
「吉木さん」
「な……なに」
吉木さんは目に見えて分かるぐらいに緊張していた。
「約束は覚えてる?」
私の質問に吉木さんは一回頷いた。
「誰にも言ってないよ」
吉木さんははっきり答える。
この子は嘘はつかないから信じても良い。
「守ってくれて有り難う、あなたはおしゃべり男子と違うのね」
私は言った。
"おしゃべり男子"とは私の趣味のことを影で口走っていた二人のことだ。
……最も二人は私を見て怯えている様子だ。お化けが来て怖いと言わんばかりに。
「教室に来たのは、お別れを言いたかったの、もう学校には来られないから」
「どうして?」
「魔法の代償よ、人を呪った分術者にも跳ね返るの」
体も消えたし、これも代償なのね。
吉木さんにはまだ言いたいことはあったけど、うまく言えないから挨拶も終わりにしましょう。
「さよならみんな、ここでの時間は悪くなかったわ」
私は別れの挨拶をして、天の使いと共に姿を消した。
教室の窓が開き、強風が入ったのも天の使いの演出だ。
天の使いは不思議な力を持っており、無茶な願いでなければ死人の言うことは聞いてくれるという。
皆の印象に残るような別れ方ができるように天の使いにお願いしたのだ。
学校を出て、天の使いが私に訊ねてくる。
「……あんな感じで良いんですか?」
「十分よ、有難う」
私は天の使いに心を込めて言った。
「それじゃあ行きましょうか、あなたが言ってたあの世に」
「他にやることはありませんか? あの世に行けば現世には二度と戻れませんよ」
天の使いは私に訊ねた。私は首を横に振る。
「もういいわ」
私は短く言った。
色々やりたいことはあるが、全てこなすには時間が足りない。
クラスメイトに顔を出せて良かったと満足することにしよう。
「分かりました。では行きましょう」
私は現世の風景をしっかり目に焼き付けることにした。
もう来ることも無いだろうから。
……さよなら、現世
私は心の中で呟くと、現世の風景から違う風景になった。


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