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明るみに出る謎
※黒天使の遭遇
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天界の都心を離れた小さな村。そこにいた天使達は黒天使の襲撃により全滅し、天使の骸が地面を埋め尽くす形で転がっている。
「はぁ……久々に殺りまくって疲れたな」
ワゾンは額の汗を拭い、武器である鎌を真っ直ぐに立てる。
彼の体には返り血や羽根が付いている。
「鎌の先に首が引っ掛かってるぞ」
「おっ、ホントだ」
サレオスの指摘に、ワゾンは鎌を何度も揺さぶった。首は地面に落ちた。
「……流石にやりすぎだろ、俺は神に選ばれた天使の血を回収したかっただけだぞ」
サレオスは冷静に言った。二人がこの村に来たのも神に選ばれた天使の血を探すためで、結果として一人回収できたので、サレオスの目標は達成できたことになる。
ワゾンは不愉快そうに表情を歪め、死体となった一人の少年を蹴りあげる。
「このクソガキが穢れた黒なんて言わなきゃ、サレオスが言うように皆殺しなんてしなくて済んだんだ」
ワゾンは吐き捨てるように言った。ワゾンは黒天使を侮辱する"穢れた黒"という言葉を極度に嫌っている。言われたら例え子供だろうが容赦できなくなる。
実質上、村人を殲滅させたのはワゾンだが(サレオスも一応は止めた)彼の行いはあまりに身勝手である。
「兄貴に責められても俺は庇えないぞ、罰はお前一人で受けろよ」
サレオスは言った。例え敵対関係であっても無闇に天使の命を奪ってはいけないのだ。 友人でもワゾンの行動は同意できない。
イロウのことだ。この天使の屍達を見ているはずだ。
「やっちまったのは仕方ないだろ、罰だろうが何だろうが受けるさ」
ワゾンは焦るそぶりを見せなかった。イロウが与える罰は暗い独房に一ヶ月閉じ込められるか、むち打ちをされるといったものがある。
「お前、大丈夫か?」
サレオスが心配そうに訊ねる。ワゾンの面倒くさがりな所が息を潜めていたからだ。
「ああ、大丈夫、むしろ絶好調だよ、忘れたか? おれは穢れた黒と言われるとスイッチが入るのを」
サレオスが知る限り、ワゾンは穢れた黒という単語を聞くと、今回のようにスイッチが入る。その上しばらくの間残酷な面が出たままになる。
誤って同胞がワゾンの前で穢れた黒と口走ってしまい、その黒天使はワゾンの手にかかり重傷を負った。
サレオスも間違っても穢れた黒という言葉はワゾンの前で口走らないようにしている。
「忘れてはないけど……」
「じゃあ細かいことは気にすんな、それより本家の目標を果たしに行くとするか」
ワゾンは目についた一人の遺体を乱暴に宙に放り投げ、首を切り落とした。
「ラフィアへの手土産にしては最高だろ、あいつどんな顔するかな」
ワゾンは醜悪に満ちた笑みをサレオスの横から見せる。
本家の目標……ラフィアを捕らえるというものだ。
二人の黒天使はラフィアのいる場所をテレパシーで教えてもらい、学校に向かったのだった。
時間の針は現在に戻り、黒天使の二人がラフィア達の前に立ちはだかっていた。
「遅くなったが、また会ったな、ラフィア」
ワゾンはラフィアと目を合わせた。怖さと不安からか言葉が上手く出てこない。
「どうしたんだよ、だんまりか、折角おまえのために、最高のお土産を送ったのによ」
「お土産?」
「おまえの足元に転がっている三つのブツだよ」
「ラフィアさん、見てはいけない」
メルキが忠告してきた。声色からして良くないものだと感じ取った。
「あ、黙れよ、おれは今ラフィアと話してるんだ」
ワゾンは乱暴にメルキの肩を蹴っ飛ばした。
「メルキ先生!」
「早く見ろよ、でないとこいつをもっと痛め付けるぞ」
ワゾンは地面に転がったメルキの体を踏みつけている。彼の言葉に嘘は無さそうだ。
下手に逆らえば、メルキだけでなくサレオスの呪文にやられたナルジスにまで危害が加わりかねない。
ラフィアは足元に転がっている三つの物体に目を向ける。
「……っ!」
物の正体を見て、ラフィアは顔色を青ざめて、口を押さえる。
それは生首だった。しかも三つ……いや三人とも苦痛に歪んだ表情をしている。
「どうだその手土産は、おまえに相応しいだろ」
ワゾンは口元を歪めた。手土産とは転がっている三つの生首のことらしい。
生首の表情とワゾンの悪意にラフィアは吐き気がこみ上げ、目をつむって、両手で口を押えた。
吐いたらワゾンに負ける気がしたので、必死にこらえた。少し経つと吐き気は波のように引いていった。
目を開くと、変わらず生首はあったが、最初に見た時ほど気持ち悪さを感じなかった。
「……酷いよ」
ラフィアは小さく呟く。
「何だよ、聞こえないな」
「酷いって言ったの!」
ワゾンに聞き返され、ラフィアは大きな声で口走った。
ワゾンはメルキから離れる。
「酷い? 何でだよ」
「わたしの仲間を殺したことだよっ!」
ラフィアは叫ぶ。
面識はないが、同胞の命をこんな形て奪われて気分のいいものではない。
「おれのしたことが酷いって言うのかよ」
ワゾンの声色には罪悪感が伝わって来なかった。
「そうだよ!」
「ははっ、面白いことを言うな、おまえ」
ワゾンは乾いた笑い声を発し、蟻のようにゆっくりとラフィアの方に歩く。
ラフィアの目の前でワゾンは止まった。
「酷いのはおまえの方だぞ、ラフィア」
ワゾンは冷たく言い放つ。
「だってそうだろ! おまえを捕まえる目的のために、おれやおまえの仲間が何人犠牲になったか考えたことがあるか?
おまえがさっさと捕まらない限り、犠牲は増えるだろうな!」
ワゾンはラフィアを責めるような口振りだった。
ラフィアは言葉が出なかった。ワゾンの意見も無視はできないからだ。ラフィアが黒天使に捕まらないと、黒天使の行いは止まらないだろう。
カーシヴは自分を犠牲にするなと言っていたが、無関係な天使が黒天使に命を奪われているのも事実だ。
ラフィアの心はちくりと痛んだ。
「ワゾン、少し違うぞ」
「何だよ、折角良いところだったのに」
サレオスの介入に、ワゾンは不快な気分になったようだ。
「捕まえるだけではなく、ベリルと戦わせて、ラフィアの力を試さないとならないんだ」
確かそんな話はコンソーラから聞いた。
「だとよ、さっさとベリルと戦うんだな、でないと被害は大きくなるからな!」
ワゾンが言い切ったその時だった。強烈な疾風がワゾンの体にぶつかり、ワゾンは吹っ飛ばされた。
サレオスは雷が直撃して、軽く飛んで地面に倒れる。
「これ以上、ラフィアさんをいじめるなよ」
疾風を放ったメルキは立ち上がって、厳しい口調で言った。
「元々……天使だけがいる天界に入ってきた異物の貴様等が悪い……ラフィアに責任転嫁するな」
脂汗を流し、ふらついた足取りで、ナルジスはラフィアの横に立った。
サレオスに雷を放ったのは彼である。
「メルキ先生……ナルジス……くん」
ラフィアはメルキとナルジスに目を向ける。二人の天使が、黒天使から自分を守ろうとしているのが理解できた。
「ナルジスくん、きみのタフさや先生に合わせて呪文を放ってくれたのは誉めてあげるよ」
メルキは言った。テレパシーでナルジスとやり取りをしたのだろう。
「誉めるのは……後にして下さい……こんな事で奴等はくたばらないです……」
ナルジスは苦しそうな声を発した。
『……ラフィアさん、聞こえるかな、声に出しちゃダメだよ、テレパシーで返してね』
メルキがラフィアの心の中に語りかける。
話している間にも、ワゾンとサレオスは起き上がろうとしている。
『どうしたんですか?』
『ナルジスくんを見て分かると思うけど、彼を戦わせるなんて難しいよね、現状を考えると彼にも手伝ってもらわないといけないけどね』
『ええ……』
ナルジスのやる気は分かるが、本人はとても辛そうだ。
コンソーラから煎じたラビエス草を三つほど貰ったので、後で飲ませたい所だ。ラビエス草には痛苦の呪文を治すことができる。
『ラフィアさん、きみが得意な攻撃呪文であの二人を退けてくれないかな』
『わたしが……ですか?』
『大丈夫、きみにならできるよ、全力で攻撃呪文を使っても構わないから』
メルキが励ますようように語り掛ける。
メルキは教えてくれなかったが、 確か自分は他の天使より力が高いらしい。なので注意して使わないとならない。
二人を退けるなら攻撃呪文を応用した上級呪文を使った方が良さそうだ。
『やってみます』
『良い返事だね、ナルジスくんにもテレパシーで伝えておくよ』
隣のナルジスはメルキのテレパシーを聞いているためか、黙ったままだった。
「ラフィア……攻撃呪文は……頼む……俺は奴等を引き付けておくから……」
少し経ってからナルジスはラフィアを見て言った。
「無茶なことはしないでね」
「分かってる」
ナルジスは言うとメルキと共に、黒天使に疾駆する。
目を閉じ、ラフィアは深呼吸して、上級呪文の詠唱を開始した。
それに伴い、腰まで伸びたラフィアの髪がふわりと浮き、風が巻き起こる。
ラフィアは目を瞑っているが、二人の天使が戦っているのが気配で理解できた。メルキは呪文を放ち、ナルジスは動きにくい体にも関わらず呪文を使わずに体術を駆使していた。二人の努力を無駄にしないためにも、ラフィアは言葉を紡ぐのを止めなかった。
詠唱が進むにつれ、彼女の真上には無数の氷の礫が集まり。冷気と風も強まった、呪文の完成が間近だというのも目に見えた。
氷の礫が天井一杯になり、呪文が完成し、ラフィアは目を開く。
「メルキ先生、ナルジスくん、下がって!」
ラフィアが叫んだ。黒天使と戦っていた二人の天使は攻撃を止め、メルキはバック転でワゾンから退き、ナルジスはメルキに背中を引っ張られる形で下がることになった。乱暴に見えるが切迫した状況なのでやむ得ない。
二人の天使が下がった直後だった。ラフィアは手を伸ばした。
「……ワゾン、退くぞ、これはまずい」
「何でだよ」
ワゾンは悔しそうに表情を歪める。
サレオスの言っている事が正しかったのを知るのは、ラフィアが呼び出した氷の礫が二人の黒天使に襲い掛かってきたことだった。
サレオスは身を翻して保健室から逃げ出し、ワゾンは体に当たる氷の礫に耐えつつ前に進もうとしたが、氷の礫の群れに押し流されてしまった。氷の礫の群れは大きな音を立てて、保健室の扉や壁を壊していった。
氷の礫は消え去り、保健室内はベッドや机が壊れて滅茶苦茶だった。
「はぁ……久々に殺りまくって疲れたな」
ワゾンは額の汗を拭い、武器である鎌を真っ直ぐに立てる。
彼の体には返り血や羽根が付いている。
「鎌の先に首が引っ掛かってるぞ」
「おっ、ホントだ」
サレオスの指摘に、ワゾンは鎌を何度も揺さぶった。首は地面に落ちた。
「……流石にやりすぎだろ、俺は神に選ばれた天使の血を回収したかっただけだぞ」
サレオスは冷静に言った。二人がこの村に来たのも神に選ばれた天使の血を探すためで、結果として一人回収できたので、サレオスの目標は達成できたことになる。
ワゾンは不愉快そうに表情を歪め、死体となった一人の少年を蹴りあげる。
「このクソガキが穢れた黒なんて言わなきゃ、サレオスが言うように皆殺しなんてしなくて済んだんだ」
ワゾンは吐き捨てるように言った。ワゾンは黒天使を侮辱する"穢れた黒"という言葉を極度に嫌っている。言われたら例え子供だろうが容赦できなくなる。
実質上、村人を殲滅させたのはワゾンだが(サレオスも一応は止めた)彼の行いはあまりに身勝手である。
「兄貴に責められても俺は庇えないぞ、罰はお前一人で受けろよ」
サレオスは言った。例え敵対関係であっても無闇に天使の命を奪ってはいけないのだ。 友人でもワゾンの行動は同意できない。
イロウのことだ。この天使の屍達を見ているはずだ。
「やっちまったのは仕方ないだろ、罰だろうが何だろうが受けるさ」
ワゾンは焦るそぶりを見せなかった。イロウが与える罰は暗い独房に一ヶ月閉じ込められるか、むち打ちをされるといったものがある。
「お前、大丈夫か?」
サレオスが心配そうに訊ねる。ワゾンの面倒くさがりな所が息を潜めていたからだ。
「ああ、大丈夫、むしろ絶好調だよ、忘れたか? おれは穢れた黒と言われるとスイッチが入るのを」
サレオスが知る限り、ワゾンは穢れた黒という単語を聞くと、今回のようにスイッチが入る。その上しばらくの間残酷な面が出たままになる。
誤って同胞がワゾンの前で穢れた黒と口走ってしまい、その黒天使はワゾンの手にかかり重傷を負った。
サレオスも間違っても穢れた黒という言葉はワゾンの前で口走らないようにしている。
「忘れてはないけど……」
「じゃあ細かいことは気にすんな、それより本家の目標を果たしに行くとするか」
ワゾンは目についた一人の遺体を乱暴に宙に放り投げ、首を切り落とした。
「ラフィアへの手土産にしては最高だろ、あいつどんな顔するかな」
ワゾンは醜悪に満ちた笑みをサレオスの横から見せる。
本家の目標……ラフィアを捕らえるというものだ。
二人の黒天使はラフィアのいる場所をテレパシーで教えてもらい、学校に向かったのだった。
時間の針は現在に戻り、黒天使の二人がラフィア達の前に立ちはだかっていた。
「遅くなったが、また会ったな、ラフィア」
ワゾンはラフィアと目を合わせた。怖さと不安からか言葉が上手く出てこない。
「どうしたんだよ、だんまりか、折角おまえのために、最高のお土産を送ったのによ」
「お土産?」
「おまえの足元に転がっている三つのブツだよ」
「ラフィアさん、見てはいけない」
メルキが忠告してきた。声色からして良くないものだと感じ取った。
「あ、黙れよ、おれは今ラフィアと話してるんだ」
ワゾンは乱暴にメルキの肩を蹴っ飛ばした。
「メルキ先生!」
「早く見ろよ、でないとこいつをもっと痛め付けるぞ」
ワゾンは地面に転がったメルキの体を踏みつけている。彼の言葉に嘘は無さそうだ。
下手に逆らえば、メルキだけでなくサレオスの呪文にやられたナルジスにまで危害が加わりかねない。
ラフィアは足元に転がっている三つの物体に目を向ける。
「……っ!」
物の正体を見て、ラフィアは顔色を青ざめて、口を押さえる。
それは生首だった。しかも三つ……いや三人とも苦痛に歪んだ表情をしている。
「どうだその手土産は、おまえに相応しいだろ」
ワゾンは口元を歪めた。手土産とは転がっている三つの生首のことらしい。
生首の表情とワゾンの悪意にラフィアは吐き気がこみ上げ、目をつむって、両手で口を押えた。
吐いたらワゾンに負ける気がしたので、必死にこらえた。少し経つと吐き気は波のように引いていった。
目を開くと、変わらず生首はあったが、最初に見た時ほど気持ち悪さを感じなかった。
「……酷いよ」
ラフィアは小さく呟く。
「何だよ、聞こえないな」
「酷いって言ったの!」
ワゾンに聞き返され、ラフィアは大きな声で口走った。
ワゾンはメルキから離れる。
「酷い? 何でだよ」
「わたしの仲間を殺したことだよっ!」
ラフィアは叫ぶ。
面識はないが、同胞の命をこんな形て奪われて気分のいいものではない。
「おれのしたことが酷いって言うのかよ」
ワゾンの声色には罪悪感が伝わって来なかった。
「そうだよ!」
「ははっ、面白いことを言うな、おまえ」
ワゾンは乾いた笑い声を発し、蟻のようにゆっくりとラフィアの方に歩く。
ラフィアの目の前でワゾンは止まった。
「酷いのはおまえの方だぞ、ラフィア」
ワゾンは冷たく言い放つ。
「だってそうだろ! おまえを捕まえる目的のために、おれやおまえの仲間が何人犠牲になったか考えたことがあるか?
おまえがさっさと捕まらない限り、犠牲は増えるだろうな!」
ワゾンはラフィアを責めるような口振りだった。
ラフィアは言葉が出なかった。ワゾンの意見も無視はできないからだ。ラフィアが黒天使に捕まらないと、黒天使の行いは止まらないだろう。
カーシヴは自分を犠牲にするなと言っていたが、無関係な天使が黒天使に命を奪われているのも事実だ。
ラフィアの心はちくりと痛んだ。
「ワゾン、少し違うぞ」
「何だよ、折角良いところだったのに」
サレオスの介入に、ワゾンは不快な気分になったようだ。
「捕まえるだけではなく、ベリルと戦わせて、ラフィアの力を試さないとならないんだ」
確かそんな話はコンソーラから聞いた。
「だとよ、さっさとベリルと戦うんだな、でないと被害は大きくなるからな!」
ワゾンが言い切ったその時だった。強烈な疾風がワゾンの体にぶつかり、ワゾンは吹っ飛ばされた。
サレオスは雷が直撃して、軽く飛んで地面に倒れる。
「これ以上、ラフィアさんをいじめるなよ」
疾風を放ったメルキは立ち上がって、厳しい口調で言った。
「元々……天使だけがいる天界に入ってきた異物の貴様等が悪い……ラフィアに責任転嫁するな」
脂汗を流し、ふらついた足取りで、ナルジスはラフィアの横に立った。
サレオスに雷を放ったのは彼である。
「メルキ先生……ナルジス……くん」
ラフィアはメルキとナルジスに目を向ける。二人の天使が、黒天使から自分を守ろうとしているのが理解できた。
「ナルジスくん、きみのタフさや先生に合わせて呪文を放ってくれたのは誉めてあげるよ」
メルキは言った。テレパシーでナルジスとやり取りをしたのだろう。
「誉めるのは……後にして下さい……こんな事で奴等はくたばらないです……」
ナルジスは苦しそうな声を発した。
『……ラフィアさん、聞こえるかな、声に出しちゃダメだよ、テレパシーで返してね』
メルキがラフィアの心の中に語りかける。
話している間にも、ワゾンとサレオスは起き上がろうとしている。
『どうしたんですか?』
『ナルジスくんを見て分かると思うけど、彼を戦わせるなんて難しいよね、現状を考えると彼にも手伝ってもらわないといけないけどね』
『ええ……』
ナルジスのやる気は分かるが、本人はとても辛そうだ。
コンソーラから煎じたラビエス草を三つほど貰ったので、後で飲ませたい所だ。ラビエス草には痛苦の呪文を治すことができる。
『ラフィアさん、きみが得意な攻撃呪文であの二人を退けてくれないかな』
『わたしが……ですか?』
『大丈夫、きみにならできるよ、全力で攻撃呪文を使っても構わないから』
メルキが励ますようように語り掛ける。
メルキは教えてくれなかったが、 確か自分は他の天使より力が高いらしい。なので注意して使わないとならない。
二人を退けるなら攻撃呪文を応用した上級呪文を使った方が良さそうだ。
『やってみます』
『良い返事だね、ナルジスくんにもテレパシーで伝えておくよ』
隣のナルジスはメルキのテレパシーを聞いているためか、黙ったままだった。
「ラフィア……攻撃呪文は……頼む……俺は奴等を引き付けておくから……」
少し経ってからナルジスはラフィアを見て言った。
「無茶なことはしないでね」
「分かってる」
ナルジスは言うとメルキと共に、黒天使に疾駆する。
目を閉じ、ラフィアは深呼吸して、上級呪文の詠唱を開始した。
それに伴い、腰まで伸びたラフィアの髪がふわりと浮き、風が巻き起こる。
ラフィアは目を瞑っているが、二人の天使が戦っているのが気配で理解できた。メルキは呪文を放ち、ナルジスは動きにくい体にも関わらず呪文を使わずに体術を駆使していた。二人の努力を無駄にしないためにも、ラフィアは言葉を紡ぐのを止めなかった。
詠唱が進むにつれ、彼女の真上には無数の氷の礫が集まり。冷気と風も強まった、呪文の完成が間近だというのも目に見えた。
氷の礫が天井一杯になり、呪文が完成し、ラフィアは目を開く。
「メルキ先生、ナルジスくん、下がって!」
ラフィアが叫んだ。黒天使と戦っていた二人の天使は攻撃を止め、メルキはバック転でワゾンから退き、ナルジスはメルキに背中を引っ張られる形で下がることになった。乱暴に見えるが切迫した状況なのでやむ得ない。
二人の天使が下がった直後だった。ラフィアは手を伸ばした。
「……ワゾン、退くぞ、これはまずい」
「何でだよ」
ワゾンは悔しそうに表情を歪める。
サレオスの言っている事が正しかったのを知るのは、ラフィアが呼び出した氷の礫が二人の黒天使に襲い掛かってきたことだった。
サレオスは身を翻して保健室から逃げ出し、ワゾンは体に当たる氷の礫に耐えつつ前に進もうとしたが、氷の礫の群れに押し流されてしまった。氷の礫の群れは大きな音を立てて、保健室の扉や壁を壊していった。
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