偽装彼氏

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第一章

プロローグ3

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「なんだよ、ここもいっぱいかよ…」

 トイレに向かった俺だったが、教室から一番近くにある所のトイレは休み時間という事もあって男子生徒で奥まで埋まっていた。時間もあまりないため仕方なく他の所を使おうと場所を変えてみたが。故か、今日に限って他のトイレも男子生徒らの溜まり場と化していた。

 2年生が使うであろうトイレは全部当たった。だけどもどこもかしこも人、人、人で溢れかえっている。単に用を足すためにトイレに居るのなら仕方がない。しかし、大抵の奴らは周辺だけではなく中に入ってまで友人らと談笑をしている。

 トイレを使いたい側からすれば、すげぇ迷惑極まりないことこの上ない。わざわざトイレまで来て話をする必要がどこにあるというのか。教室でも廊下でも、談笑するだけなら場所は幾らでもあるというのに。お前らはガールズトークが好きな女子か!と一言罵ってやろうか。

 しかし今はそれどころではなかった。何故なら尿意の限界がすぐそこまで迫っているからだ。早くトイレで用を足したい。そうは思っても、どこも空いてるトイレが見つからないどころか、休み時間終了のチャイムがなるまであと数分。
 窮地に追いやられた俺はどこか使える場所はないものかと必死に考えを巡らすと、ふととある場所が頭の中に思い浮かんだ。あそこなら体育館から近いし、周りに教室がないため使う人もいないだろう。だが…。
 俺は一瞬躊躇した。躊躇っている暇などないのだが、それでもあそこのトイレだけはできれば使いたくない。思案している間にも刻一刻と予鈴が鳴る時間は迫っている。

 仕方ない。こうなったら気は進まないが、あのトイレを使わざるを得ない。あそこなら誰も怖がって寄りつかないだろうし。

 腹を括った俺一つ深呼吸をし、目的地のトイレまで廊下を全速力で駆け抜けた。




「…いつきても不気味な所だな。」

 誰に言うでもなくぽつりと呟いた言葉は薄暗い廊下に溶け込んで消えた。
 辿りついた先は、南側にある校舎の1階だ。俺が通っている高校は2つの校舎からできていて、北校舎と南校舎に分けられる。北校舎は主に2年と3年の教室がある校舎で、1年生は南校舎を使っている。実はこの南校舎には昔からちょっとした噂話があった。

 いつから流れるようになったのかはわからないが、何十年前もの昔。この学校の生徒だった男がイジメを苦に、校内で自殺を図ったらしい。その自殺場所とされるのがなんとこの南校舎のトイレらしく、今でも成仏できていない男の霊が彷徨っていると噂されている。

 この話を初めて知ったのは高校に入学して2か月程経った時の事で、その話を友人から聞かされたときは正直馬鹿馬鹿しいと鼻で笑った。そんなオカルト話を誰が信じるか、と。

 しかし、今の俺がその噂話を馬鹿に出来ないでいるのはある奇妙な体験をしてしまったからだ。今でもその時の事を思い出すとゾクッと背筋が栗立つので端折るが、兎に角この場所は近づかないことに越したことはないのは確か。

 俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。まだ昼前だというのに南校舎の西側にある廊下は薄暗く、どんよりとしている。ただでさえ日の光が差し込みにくい場所に位置している上、窓際の方にある大きな銀杏の木々は光を遮断するかのように立ち並びこの陰鬱とした雰囲気をより濃くしている。

「さっさと行ってしまう…か」

 寒さはとっくに和らいでいるはずなのにひんやりとした独特の空気が身体に触れ、思わずぶるりと身を震わせた。トイレは廊下の一番奥にある。意を決して足を踏み出した俺は、足早に廊下の奥へと突き進んだ。
 いざ目の前まで来てみるとこの何とも言えない雰囲気も相まって、肝試しでもしているような気持ちにさせられる。どうしてこうもトイレと言う場所は恐怖心を煽ってくるのだろうか。すくみそうになる足にグッと力を込め、気を奮い立たせると覚悟を決めて男子トイレの方へ足を向けた。




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