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第6章 隣国兄妹と嫉妬王子に挟まれ薬師
第5話 落ちた彼女は騒がしく
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「ミカルガ!」
「クリード殿下、リアム王太子もいらっしゃいましたか」
「失礼する、ミカルガ殿」
ドラゴンを医術院に預けてから2時間後。
薬師院の一室にいるわたしは、外から聞こえる声に気がついた。
ちょうど左腕に限界を感じていたころである。その声は希望の鐘に聞こえてきた。
「彼女はどこに?」
「ご案内いたします。今はメイシィが看ております、どうぞこちらへ」
足音が聞こえたと思えば、ひとこと断りが入って扉が開く。
ベッドから立ち上がり一礼するわたしとドラゴンを眺めたふたりは、随分と両極端の反応をした。
「メイシィ、」
クリード殿下は安堵の表情。
一方リアム殿下はというと。
「はぁ……」
深いため息だった。
「まったく、君はお転婆が過ぎる、フィクス」
「ちょっと、メイシィ!手を止めるんじゃないわよ!」
「あ、はい、失礼しました!」
部屋に響く甲高い声。
わたしはすぐさまベッドに座り直し、質の良い布右手で持ち直した。
それはもちろん、背中の小さなウロコを磨くためである。
リアム殿下のため息が大きくなった。
翼膜《よくまく》の縫い合わせが終わったあと、自己回復の促進のためにミカルガさんと塗り薬を作って戻ってきたわたしが見たのは喋るドラゴンだった。
『ちょっと、ちゃんと持っていただけます?わたくしを宙ぶらりんにでもするつもりかしら?』
『た、大変失礼しました!』
『もう!ドラゴンの持ち方くらい学んでおいてちょうだい!あの保護魔法は居心地よかったのに!!あの子はどこ!?』
『こ、こちらですが……?』
『あらあなた!』
鋭利すぎる牙を見せて、小さなドラゴンは甲高い女性の声を発した。
現在パスカ龍王国から訪問客がいる、なら喋るドラゴンがいたって不思議じゃない。
しかもこの態度としゃべり方、思い当たる人物がひとりしかいない。
王太子と共にきたという王女様だ。
『わたくしをベッドに移動させてくれない?さっきの方法で』
『はい、かしこまりました』
そこからこのドラゴンは、それはもう奔放だった。
『メイシィ、すぐに縫い合わせの施術を手配してくれたこと、ありがとう。さすがミリステア魔王国の魔法薬師だわ』
『お褒めいただき大変光栄でございます』
『それ、わたくし用の薬かしら?』
『さようでございます。侍従の方にお渡ししますので、後ほどご利用くだ』
『今塗ってもらえないかしら?いつもの施術じゃないから違和感があるの』
『は、はい』
『あとこの部屋から出ていきたいわ。ここは消毒臭いのよ。あなたの薬師院がいいわ。植物の匂いの方が好き』
『は、はあ……』
次から次へと投げてくる要望に応えた結果。今に至る。
一通り説明を終えると、リアム殿下ははっきりと困った表情をして小さなドラゴンに近づいた。
「フィクス、あまりミリステアの人々に負担をかけてはいけない」
「あら、じゃあわたくしの治療をさせてはいけなかったのかしら?」
「そうではない。ウロコの手入れは彼女の仕事ではないだろう?」
「だってメイシィの手入れは丁寧なんだもの。あ、そうだメイシィ、薬も毎日塗りに来てちょうだい」
「なっ」
「えっ」
「こら、フィクス!」
わたしのうっかり声はなぜか動揺するクリード殿下の声にかき消された。
リアム殿下がしびれを切らしたように声を荒げると、ひょいとドラゴン、フィクス王女を持ち上げて踵を返す。
「ちょっと、何するのよお兄さま!」
「すまない。今日はこれで失礼する!」
「邪魔しないでよ空気読みなさいよ!」
「それはこっちのセリフだ!」
「お待ちくださいリアム殿下、薬を……」
「……私が渡してこよう」
兄妹の言い合いが遠ざかる。
ミカルガさんはわたしから薬を受け取るとすぐに追いかけていった。
騒がしすぎる嵐が勢いよく通り過ぎていったような感覚に、わたしもクリード殿下も立ち尽くしたまま呆気にとられている。
「あー……メイシィ、大丈夫かな?」
「あ、はい、クリード殿下。わたしは走り回っただけですので」
「それならよかった。温室で急にフィクス王女が落ちてきたんだって?」
「ええ……」
一体どういうことなのか。まだ完全に事情を把握していないことを告げると、殿下は隣に座ってリアム殿下から伺ったことを教えてくれた。
まず、フィクス王女はリアム殿下と年が離れており、ヒューマン年齢でいう12歳ほどのお方。
今回のミリステア来訪は2度目で、お転婆な王女様として有名らしい。
女性のドラゴンは成長が遅いためまだ子供の大きさ。
ウロコも翼膜も成熟していないのに、じっとしていられない性格のせいであちこち傷をつけてしまうという。
今回も部屋を黙って抜け出し温室を探検していたところ、トゲのある木に引っかかって落ちてしまった。
「かなり大きく破れてしまっていたようだから、発見と治療が遅れたら飛べなくなったかもしれないらしい」
「そうでしたか……間に合ってよかったです」
「今回でリアム殿にも、帰国したらパスカ龍王にも怒られるだろうね」
「そうですね」
「はあ……それより」
クリード殿下は説明が終わるなり頭を抱えだした。
苦悶の表情だが花びらが落ちてこないし部屋の中に異常もない。
腕で隠れた顔を覗き込んでみたら、驚いた表情が返ってきただけだった。
「近っ、あ、ええと……まさかフィクス王女まで君を気にいるとは思わなかったんだ。君は不思議だよ」
「そうでしょうか。今回は本当にただ走っただけですが……」
「君のことだから、怪我をした王女に必死に声をかけて走り回っていたんだろう。まじめで素直な君を誇らしく思う」
急に褒められると照れてしまう。
この綺麗な顔で言われると、顔を向けていられなくて逸らしてしまう。
「……でも、やっぱりだめだ」
「はい?」
その言葉にわたしは強烈な違和感を感じて顔を戻した。
あ、殿下、その表情は。
「同性でも駄目だ。絶対だめだ!薬を塗るなんて……メイシィの素手が誰かの素肌に触れるなんて耐えられるわけがない!想像するだけで我慢ならない。私も塗ってもらったことないのにずるいじゃないか!塗ってくれメイシィ……」
「殿下怪我してないじゃないですか……何を塗るんですか……」
「そうか……怪我か……。私は火属性の魔法も得意だよ……跡が残らない程度の火加減ならもしかすると」
「いけません。だめです。もしかしないです」
「じゃあどうすれば塗ってくれる!?」
「まずは塗るところから離れてくれますか!?」
手元の布が急な突風で飛びそうになり両手で掴む。
ぐらっと身体が傾いたけれど、いつの間にか腰に添えられていた手のおかげですぐに立て直すことができた。
素肌じゃなくともちゃっかりしっかり触れている自分のことは高くて大きな棚に上げている。
「そうだ!」
何とか抜け出せないかと距離をとろうとしているわたしに、クリード殿下は突然明るい声を出した。
手の力がぐっと強まり、わたしは引いた腰ごと急に抱き寄せられる。
「バラのハンドクリームがあった!ねえメイシィ、この前のクリームを私の手に塗ってくれないかな?」
「はい?!というか殿下、近い、近いです」
「君と同じ匂いを纏える……君に塗ってもらえれる……一石二鳥だ!」
片方の腕もしっかり腰を掴んでぐいぐい近づいてくる。
クリード殿下のご尊顔が近い。なんてすべすべな肌なんだ、毛穴が見えない……というか毛穴を探せるほど近づいてこないでええ。
「殿下!」
「!」
顔から湯気が出そうになるという表現はあながち比喩じゃなかったりして。
顔に血が集まる感覚にだらだら汗をかきながら、わたしは思わず大声を出してしまった。
クリード殿下は驚いた顔をして停止する。
ああ、王族相手に大声なんて!
「ち、ちかいです、でんか、ちょっと、はなれてほしいです」
「え?」
「あまり、こっちをみないでください……!は、はずかしいです……っ」
「ウッッッ」
目を真ん丸にしてこちらを見下ろしていたクリード殿下は、呻きだすと顔と胸を押さえながら後ろを向いた。
あまりの勢いにわたしは硬直している。
心臓が痛い、バクバク悲鳴を上げているのに動けない!呼吸できている自信がない。
「メ、メイシィ……今のは……ちょっと」
そう言ってクリード殿下は、ソファの肘置きにうつぶせになるように倒れてしまった。
大丈夫かな、脱力した感じだったけれど。
驚くほど耳が真っ赤になっている。こちらも赤くなりそうなほど見事なミリスリンゴ色に。
「威力が高すぎる……」
「も、申し訳ございませんでした……?」
やがて平常心を取り戻した殿下は、もう大丈夫と爽やかに笑って見せた。
いつの間にか瞳に光が戻っている。
よくわからないけれど、まあ、落ち着いたのならよかったかな?
そんな事件から数日後、フィクス王女の侍従が薬師院に来た。
治療の御礼と共に渡されたのは、深紅の高級な布に金糸の兎が小さく踊るハンカチ。
刺繍が得意な王女が自ら作ったものだという。
恐れ多すぎて震えるわたしの隣で、怒りに震えるクリード殿下。
背後の窓にはたちまち暗い雲が覆っていき、もうひと騒動起こしますねと妖精たちの合唱が聞こえるようだった。
自らの髪や目と同じ色を贈る行為は、パスカ龍王国では信頼の証。
ミリステア魔王国では、愛情の証。
クリード殿下は相も変わらず我慢ができない。
「……クリード殿下からもハンカチをいただけたら、メイシィ、トテモ嬉シイ、デス」
「ウッッッ」
晴れやかな空。
明日はパスカ龍王国の来客たちが過ごす最後の3日間、舞踏会が開催される。
「クリード殿下、リアム王太子もいらっしゃいましたか」
「失礼する、ミカルガ殿」
ドラゴンを医術院に預けてから2時間後。
薬師院の一室にいるわたしは、外から聞こえる声に気がついた。
ちょうど左腕に限界を感じていたころである。その声は希望の鐘に聞こえてきた。
「彼女はどこに?」
「ご案内いたします。今はメイシィが看ております、どうぞこちらへ」
足音が聞こえたと思えば、ひとこと断りが入って扉が開く。
ベッドから立ち上がり一礼するわたしとドラゴンを眺めたふたりは、随分と両極端の反応をした。
「メイシィ、」
クリード殿下は安堵の表情。
一方リアム殿下はというと。
「はぁ……」
深いため息だった。
「まったく、君はお転婆が過ぎる、フィクス」
「ちょっと、メイシィ!手を止めるんじゃないわよ!」
「あ、はい、失礼しました!」
部屋に響く甲高い声。
わたしはすぐさまベッドに座り直し、質の良い布右手で持ち直した。
それはもちろん、背中の小さなウロコを磨くためである。
リアム殿下のため息が大きくなった。
翼膜《よくまく》の縫い合わせが終わったあと、自己回復の促進のためにミカルガさんと塗り薬を作って戻ってきたわたしが見たのは喋るドラゴンだった。
『ちょっと、ちゃんと持っていただけます?わたくしを宙ぶらりんにでもするつもりかしら?』
『た、大変失礼しました!』
『もう!ドラゴンの持ち方くらい学んでおいてちょうだい!あの保護魔法は居心地よかったのに!!あの子はどこ!?』
『こ、こちらですが……?』
『あらあなた!』
鋭利すぎる牙を見せて、小さなドラゴンは甲高い女性の声を発した。
現在パスカ龍王国から訪問客がいる、なら喋るドラゴンがいたって不思議じゃない。
しかもこの態度としゃべり方、思い当たる人物がひとりしかいない。
王太子と共にきたという王女様だ。
『わたくしをベッドに移動させてくれない?さっきの方法で』
『はい、かしこまりました』
そこからこのドラゴンは、それはもう奔放だった。
『メイシィ、すぐに縫い合わせの施術を手配してくれたこと、ありがとう。さすがミリステア魔王国の魔法薬師だわ』
『お褒めいただき大変光栄でございます』
『それ、わたくし用の薬かしら?』
『さようでございます。侍従の方にお渡ししますので、後ほどご利用くだ』
『今塗ってもらえないかしら?いつもの施術じゃないから違和感があるの』
『は、はい』
『あとこの部屋から出ていきたいわ。ここは消毒臭いのよ。あなたの薬師院がいいわ。植物の匂いの方が好き』
『は、はあ……』
次から次へと投げてくる要望に応えた結果。今に至る。
一通り説明を終えると、リアム殿下ははっきりと困った表情をして小さなドラゴンに近づいた。
「フィクス、あまりミリステアの人々に負担をかけてはいけない」
「あら、じゃあわたくしの治療をさせてはいけなかったのかしら?」
「そうではない。ウロコの手入れは彼女の仕事ではないだろう?」
「だってメイシィの手入れは丁寧なんだもの。あ、そうだメイシィ、薬も毎日塗りに来てちょうだい」
「なっ」
「えっ」
「こら、フィクス!」
わたしのうっかり声はなぜか動揺するクリード殿下の声にかき消された。
リアム殿下がしびれを切らしたように声を荒げると、ひょいとドラゴン、フィクス王女を持ち上げて踵を返す。
「ちょっと、何するのよお兄さま!」
「すまない。今日はこれで失礼する!」
「邪魔しないでよ空気読みなさいよ!」
「それはこっちのセリフだ!」
「お待ちくださいリアム殿下、薬を……」
「……私が渡してこよう」
兄妹の言い合いが遠ざかる。
ミカルガさんはわたしから薬を受け取るとすぐに追いかけていった。
騒がしすぎる嵐が勢いよく通り過ぎていったような感覚に、わたしもクリード殿下も立ち尽くしたまま呆気にとられている。
「あー……メイシィ、大丈夫かな?」
「あ、はい、クリード殿下。わたしは走り回っただけですので」
「それならよかった。温室で急にフィクス王女が落ちてきたんだって?」
「ええ……」
一体どういうことなのか。まだ完全に事情を把握していないことを告げると、殿下は隣に座ってリアム殿下から伺ったことを教えてくれた。
まず、フィクス王女はリアム殿下と年が離れており、ヒューマン年齢でいう12歳ほどのお方。
今回のミリステア来訪は2度目で、お転婆な王女様として有名らしい。
女性のドラゴンは成長が遅いためまだ子供の大きさ。
ウロコも翼膜も成熟していないのに、じっとしていられない性格のせいであちこち傷をつけてしまうという。
今回も部屋を黙って抜け出し温室を探検していたところ、トゲのある木に引っかかって落ちてしまった。
「かなり大きく破れてしまっていたようだから、発見と治療が遅れたら飛べなくなったかもしれないらしい」
「そうでしたか……間に合ってよかったです」
「今回でリアム殿にも、帰国したらパスカ龍王にも怒られるだろうね」
「そうですね」
「はあ……それより」
クリード殿下は説明が終わるなり頭を抱えだした。
苦悶の表情だが花びらが落ちてこないし部屋の中に異常もない。
腕で隠れた顔を覗き込んでみたら、驚いた表情が返ってきただけだった。
「近っ、あ、ええと……まさかフィクス王女まで君を気にいるとは思わなかったんだ。君は不思議だよ」
「そうでしょうか。今回は本当にただ走っただけですが……」
「君のことだから、怪我をした王女に必死に声をかけて走り回っていたんだろう。まじめで素直な君を誇らしく思う」
急に褒められると照れてしまう。
この綺麗な顔で言われると、顔を向けていられなくて逸らしてしまう。
「……でも、やっぱりだめだ」
「はい?」
その言葉にわたしは強烈な違和感を感じて顔を戻した。
あ、殿下、その表情は。
「同性でも駄目だ。絶対だめだ!薬を塗るなんて……メイシィの素手が誰かの素肌に触れるなんて耐えられるわけがない!想像するだけで我慢ならない。私も塗ってもらったことないのにずるいじゃないか!塗ってくれメイシィ……」
「殿下怪我してないじゃないですか……何を塗るんですか……」
「そうか……怪我か……。私は火属性の魔法も得意だよ……跡が残らない程度の火加減ならもしかすると」
「いけません。だめです。もしかしないです」
「じゃあどうすれば塗ってくれる!?」
「まずは塗るところから離れてくれますか!?」
手元の布が急な突風で飛びそうになり両手で掴む。
ぐらっと身体が傾いたけれど、いつの間にか腰に添えられていた手のおかげですぐに立て直すことができた。
素肌じゃなくともちゃっかりしっかり触れている自分のことは高くて大きな棚に上げている。
「そうだ!」
何とか抜け出せないかと距離をとろうとしているわたしに、クリード殿下は突然明るい声を出した。
手の力がぐっと強まり、わたしは引いた腰ごと急に抱き寄せられる。
「バラのハンドクリームがあった!ねえメイシィ、この前のクリームを私の手に塗ってくれないかな?」
「はい?!というか殿下、近い、近いです」
「君と同じ匂いを纏える……君に塗ってもらえれる……一石二鳥だ!」
片方の腕もしっかり腰を掴んでぐいぐい近づいてくる。
クリード殿下のご尊顔が近い。なんてすべすべな肌なんだ、毛穴が見えない……というか毛穴を探せるほど近づいてこないでええ。
「殿下!」
「!」
顔から湯気が出そうになるという表現はあながち比喩じゃなかったりして。
顔に血が集まる感覚にだらだら汗をかきながら、わたしは思わず大声を出してしまった。
クリード殿下は驚いた顔をして停止する。
ああ、王族相手に大声なんて!
「ち、ちかいです、でんか、ちょっと、はなれてほしいです」
「え?」
「あまり、こっちをみないでください……!は、はずかしいです……っ」
「ウッッッ」
目を真ん丸にしてこちらを見下ろしていたクリード殿下は、呻きだすと顔と胸を押さえながら後ろを向いた。
あまりの勢いにわたしは硬直している。
心臓が痛い、バクバク悲鳴を上げているのに動けない!呼吸できている自信がない。
「メ、メイシィ……今のは……ちょっと」
そう言ってクリード殿下は、ソファの肘置きにうつぶせになるように倒れてしまった。
大丈夫かな、脱力した感じだったけれど。
驚くほど耳が真っ赤になっている。こちらも赤くなりそうなほど見事なミリスリンゴ色に。
「威力が高すぎる……」
「も、申し訳ございませんでした……?」
やがて平常心を取り戻した殿下は、もう大丈夫と爽やかに笑って見せた。
いつの間にか瞳に光が戻っている。
よくわからないけれど、まあ、落ち着いたのならよかったかな?
そんな事件から数日後、フィクス王女の侍従が薬師院に来た。
治療の御礼と共に渡されたのは、深紅の高級な布に金糸の兎が小さく踊るハンカチ。
刺繍が得意な王女が自ら作ったものだという。
恐れ多すぎて震えるわたしの隣で、怒りに震えるクリード殿下。
背後の窓にはたちまち暗い雲が覆っていき、もうひと騒動起こしますねと妖精たちの合唱が聞こえるようだった。
自らの髪や目と同じ色を贈る行為は、パスカ龍王国では信頼の証。
ミリステア魔王国では、愛情の証。
クリード殿下は相も変わらず我慢ができない。
「……クリード殿下からもハンカチをいただけたら、メイシィ、トテモ嬉シイ、デス」
「ウッッッ」
晴れやかな空。
明日はパスカ龍王国の来客たちが過ごす最後の3日間、舞踏会が開催される。
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