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第2章 病み王子と中級薬師の1ヶ月
第1話 同僚の帰りを出迎える
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「ここでお昼を食べるとは珍しいな」
暖かく風が気持ち良いある日のある日のこと。
執務室の端っこでお弁当箱を広げたわたしに、ミカルガさんが自席から声をかけてきた。
いつもは食堂や公園に移動してお昼を食べている。
だけれど今日は大事な用事があってここで過ごすことにしていた。
「午後からマリウスが執務室に来るって聞いたので、出迎えくらいはしようかなと思っているんです」
「ああ、そういえば昨日、遠征の同行から帰ってきていたな」
ちょうど昨日返ってきたらしいのだけれど、わたしが退勤した後だったので会えなかった。
だからこうして午後から出勤する彼を待ち構えているのだ。
ガチャ
「お疲れさまでーす」
「! マリウス!」
お弁当をつついていると、お目当ての人物が現れた。
すぐにわたしに気づいて、にかっと笑う。
「お!ただいまメイシィ」
「おかえり、お疲れさま」
「おうよ!」
マリウスは疲れを見せずミカルガさんに挨拶すると、すぐにわたしの向かいに座った。
大きく背伸びする姿にわたしは声をかける。
「怪我はなかった?体調は?」
「全然問題なし!騎士の人たちも思った以上に怪我しなくてさ、ラッキーだったよ」
「よかった……」
「メイシィ、気にしすぎだよ」
……バレてたか。
わたしは、このマリウスの遠征参加に後ろめたい気持ちがあった。
「だって、本当はわたしが当番だったんだし……」
騎士による遠征任務。
それは定期的に行われる1週間以上の長期間をかけた魔物討伐の任務のこと。
毎回騎士だけでなく、炊事や怪我、病気に対処できるよう医者や薬師もついていくのが決まりになっていて、当番制になっている。
単独で危険な地域に薬草採取にいけない薬師にとっては悪くない機会なんだけど、長期間戻ってこれない、というのが問題だった。
わたしが、というよりわたしの周りが。
「そりゃあ今のメイシィじゃ無理だろ。いない間は誰がクリード殿下の『アレ』をなんとかすんだよ」
「うーん……」
と、いう理由があり、今回はわたしの代わりにマリウスが任務に同行することになったのだ。
2回連続の同行だったので、なかなかハードだったはず。
だからこそわたしはどうしても後ろめたい気持ちが拭えなかった。
「それよりさ、どうだったよ?」
「ん?どうって、どういうこと?」
「いやどういうって……クリード殿下のことだよ」
殿下のこと?
訳が分からずマリウスを見返すと、じれったいとばかりに両ひざをバタバタと上下する。
まるで駄々っ子のような姿に思わず何も言えずにいると、あああもう、とついに声を出した。
「俺がいなかった間!殿下と何かあった??」
「殿下と?いや、別にいつも通りだけど」
「そのいつもどおりが聞きたいんだって!」
「……ほんと、マリウスってクリード殿下のこと好きだよね」
「あったり前だろ!あんな面白……興味深い人いないって!」
今、面白いって言いかけなかった?というよりほぼ言ってなかった?
聞いてみたくなったけれど、ミカルガさんの眉間に皺が寄ったので何とか押しとどめた。
ミカルガさんは喧騒を好まない。
「何でそんなに好きなの?」
「いやあさ、丁度半年くらい前にクリード殿下が薬師院に来るようになってからなんだけど…」
『マリウス、と言ったね』
『は、はい!殿下!』
『君は……メイシィと学校に通っていたころから仲が良いと聞いているが』
『はい、どちらかというと腐れ縁ですね!薬師院に就職したときに初めて同じ職を目指してたことを知ったので』
『……そうか、以前から知り合い、かつ、同じ夢を持って……』
『(ん?なんか空気が変わった?
これってもしかして嫉妬…『病み』スイッチってやつ!?
や、やばいぞ俺!!)』
『で、殿下!』
『ああ、何かな?』
『そ、その……ですね……』
『……何かな?』
『め、メイシィはリンゴが好きなんですよー!』
『………』
『(やばい、やっちまったか?まだ死にたくねえよ俺ぇ)
あと、大きくてふわふわしたぬいぐるみが好きで、得意な薬は胃腸薬!
好きな色は黄色で……あとあと、城下町の出店で売ってるスイーツを使ったタルトが好きです!』
『……マリウス』
『は、はい!?』
『君は、良い友人だな!』
『はい!?』
『メイシィの好みをそれほど多く知っているとは……ぜひもっと聞かせてくれないか!』
『(えっ)』
「あの意外と前向きな考え方、好きなんだよなあ……」
「??」
何かを思い出しているように、上を向いて笑うマリウス。
ちょっと気持ち悪いけれど、なんだか聞いたら後悔するような気がして触れないでおく。
「じゃあ、マリウスがいない間にわたしと殿下がどんな話をしてたか、っていう話をすればいいの?」
「そう!そうだよメイシィ、頼むよ」
パン!
両手が良い音を立ててわたしの前に合わさる。
口元は堪えきれないのかニヤついている。
「はあ、わかった」
「やった!それでそれで??」
マリウスのいない1か月を思い出す。
確か殿下の『病み』スイッチが入ったのは3回くらいだったな。
わたしは記憶を呼び起こしながら、マリウスに語り始めた。
暖かく風が気持ち良いある日のある日のこと。
執務室の端っこでお弁当箱を広げたわたしに、ミカルガさんが自席から声をかけてきた。
いつもは食堂や公園に移動してお昼を食べている。
だけれど今日は大事な用事があってここで過ごすことにしていた。
「午後からマリウスが執務室に来るって聞いたので、出迎えくらいはしようかなと思っているんです」
「ああ、そういえば昨日、遠征の同行から帰ってきていたな」
ちょうど昨日返ってきたらしいのだけれど、わたしが退勤した後だったので会えなかった。
だからこうして午後から出勤する彼を待ち構えているのだ。
ガチャ
「お疲れさまでーす」
「! マリウス!」
お弁当をつついていると、お目当ての人物が現れた。
すぐにわたしに気づいて、にかっと笑う。
「お!ただいまメイシィ」
「おかえり、お疲れさま」
「おうよ!」
マリウスは疲れを見せずミカルガさんに挨拶すると、すぐにわたしの向かいに座った。
大きく背伸びする姿にわたしは声をかける。
「怪我はなかった?体調は?」
「全然問題なし!騎士の人たちも思った以上に怪我しなくてさ、ラッキーだったよ」
「よかった……」
「メイシィ、気にしすぎだよ」
……バレてたか。
わたしは、このマリウスの遠征参加に後ろめたい気持ちがあった。
「だって、本当はわたしが当番だったんだし……」
騎士による遠征任務。
それは定期的に行われる1週間以上の長期間をかけた魔物討伐の任務のこと。
毎回騎士だけでなく、炊事や怪我、病気に対処できるよう医者や薬師もついていくのが決まりになっていて、当番制になっている。
単独で危険な地域に薬草採取にいけない薬師にとっては悪くない機会なんだけど、長期間戻ってこれない、というのが問題だった。
わたしが、というよりわたしの周りが。
「そりゃあ今のメイシィじゃ無理だろ。いない間は誰がクリード殿下の『アレ』をなんとかすんだよ」
「うーん……」
と、いう理由があり、今回はわたしの代わりにマリウスが任務に同行することになったのだ。
2回連続の同行だったので、なかなかハードだったはず。
だからこそわたしはどうしても後ろめたい気持ちが拭えなかった。
「それよりさ、どうだったよ?」
「ん?どうって、どういうこと?」
「いやどういうって……クリード殿下のことだよ」
殿下のこと?
訳が分からずマリウスを見返すと、じれったいとばかりに両ひざをバタバタと上下する。
まるで駄々っ子のような姿に思わず何も言えずにいると、あああもう、とついに声を出した。
「俺がいなかった間!殿下と何かあった??」
「殿下と?いや、別にいつも通りだけど」
「そのいつもどおりが聞きたいんだって!」
「……ほんと、マリウスってクリード殿下のこと好きだよね」
「あったり前だろ!あんな面白……興味深い人いないって!」
今、面白いって言いかけなかった?というよりほぼ言ってなかった?
聞いてみたくなったけれど、ミカルガさんの眉間に皺が寄ったので何とか押しとどめた。
ミカルガさんは喧騒を好まない。
「何でそんなに好きなの?」
「いやあさ、丁度半年くらい前にクリード殿下が薬師院に来るようになってからなんだけど…」
『マリウス、と言ったね』
『は、はい!殿下!』
『君は……メイシィと学校に通っていたころから仲が良いと聞いているが』
『はい、どちらかというと腐れ縁ですね!薬師院に就職したときに初めて同じ職を目指してたことを知ったので』
『……そうか、以前から知り合い、かつ、同じ夢を持って……』
『(ん?なんか空気が変わった?
これってもしかして嫉妬…『病み』スイッチってやつ!?
や、やばいぞ俺!!)』
『で、殿下!』
『ああ、何かな?』
『そ、その……ですね……』
『……何かな?』
『め、メイシィはリンゴが好きなんですよー!』
『………』
『(やばい、やっちまったか?まだ死にたくねえよ俺ぇ)
あと、大きくてふわふわしたぬいぐるみが好きで、得意な薬は胃腸薬!
好きな色は黄色で……あとあと、城下町の出店で売ってるスイーツを使ったタルトが好きです!』
『……マリウス』
『は、はい!?』
『君は、良い友人だな!』
『はい!?』
『メイシィの好みをそれほど多く知っているとは……ぜひもっと聞かせてくれないか!』
『(えっ)』
「あの意外と前向きな考え方、好きなんだよなあ……」
「??」
何かを思い出しているように、上を向いて笑うマリウス。
ちょっと気持ち悪いけれど、なんだか聞いたら後悔するような気がして触れないでおく。
「じゃあ、マリウスがいない間にわたしと殿下がどんな話をしてたか、っていう話をすればいいの?」
「そう!そうだよメイシィ、頼むよ」
パン!
両手が良い音を立ててわたしの前に合わさる。
口元は堪えきれないのかニヤついている。
「はあ、わかった」
「やった!それでそれで??」
マリウスのいない1か月を思い出す。
確か殿下の『病み』スイッチが入ったのは3回くらいだったな。
わたしは記憶を呼び起こしながら、マリウスに語り始めた。
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