37 / 38
第一章
7-2.「私はまだ、あなたの前で、人の形を保てて、いますか?」
しおりを挟む*
──ある日。ユキマサの父、稗月木枯はパチスロへと足を運んでいた。
(雨だ……今日はパチスロ日和だな)
さて、何を打つか……
(パチンコなら〝ホスト無双〟スロットなら〝パシリスト絆〟だな……悩み所だ……)
顎に手を当て、小遣いである一万円札を握りしめ、木枯は朝イチのパチ屋の入場抽選を待つ。
抽選の順番は10番、平日の特にイベントでも無い日としてはまあまあの入場順だ。
(よし、今日はパシリストだ! 絆を打つぞ!)
木枯は決意を固める。
そうして打つこと100回転前後、木枯はフリーズを引いた。
「おいおい、マジか!?」
引いた木枯自身が驚く。
結果、この日、木枯は5000円でフリーズを引き、なんやかんやで8000枚(16万円)と大勝利を果たした。
ご機嫌なテンションで木枯は帰路に着く。
家に着くと、木枯は吹雪の前で正座していた。
「──あぶく銭です」
稗月家にはこんな家訓がある。
〝汗水垂らして稼いだ金は自分達の為に使え、あぶく銭は可能な限り他人のために使え〟
この家訓の為の吹雪の対応である。
「ま、待ってくれ、今までスッたのを計算するとそんなに勝ってないんだ!」
「あぶく銭です!」
ニッコリと吹雪が笑う。
「まあ、家族で外食ぐらいは行きましょうか」
その場にぐったりと木枯は膝を吐く。
その日、家族6人で食べ放題の焼き肉チェーン店に晩飯を食べに行き、残った金は母さんが全額孤児院に寄付していたのだった──。
*
「夏祭り?」
理沙が口を開く。
「ああ、今日の夜だ! 屋台、見に行こうぜ!」
俺は楽しげに理沙に言う。
「で、でも……」
チラりと母さんを理沙が見る。
「いいじゃない、せっかくのお祭りよ、理沙ちゃんも見てきなさいな」
「う、うん!」
「よっしゃあ、決まりだな!」
「いや、何で親父が一番嬉しそうなんだよ?」
まあ、ということで、その夜──
「こ、混んでるね」
「理沙はお祭り来たこと無いのか?」
「うん、来たこと無い」
「まじかよ」
「あ、理沙ちゃん、はい、お小遣い!」
と、理沙に母さんが5000円を渡す。
「え、こんな大金、受け取れないよ」
「いいのよ、むしろ店の手伝いをしてくれてるんだから、普通ならこの100倍ぐらい渡したい所よ」
100倍って……まあ、一年以上店を手伝ってるんだからそれぐらい出ても、何ら不思議じゃないか。
「じゃ、じゃあ、ありがとう、な、何、買おうかな」
「たこ焼き、焼きそば、りんご飴、唐揚げ、ポテト、早く回らないとだな」
「ユキマサはどれだけ買うつもりなの?」
「ん? 制覇に決まってるだろ? 名が廃る」
「俺はユキマサに賛成だ、金は俺が持つ、好きに食べてこい」
「流石は親父だ、分かってるな!」
ガシッと、腕を絡ます俺と親父。
「はーいはい、理沙ちゃんバカは放っておきましょ、それより、花火の場所取りをしてくれてる、お義父様とお義母様を探さなきゃね」
「……うん」
*
「たこ焼き1つ」
「焼きそば1つ」
「りんご飴1つ」
そんな感じでどんどんと俺は屋台を回る。
「おい、ユキマサ、そっちはどうだ?」
「どうだも何も、俺は飲食系の屋台を回ってるだけだぜ? 親父こそ、そのキツネの面はどうしたんだよ?」
いつの間にか、キツネの面を斜めにかける親父は上機嫌で話しかけてくる。
「あ、やっと見つけた! おかーさんが探してたよ」
と、現れたのは理沙だ。
だが、理沙の手にはりんご飴とわたあめが握られており、どうやら理沙も理沙で夏祭りを満喫しているみたいだ。
「理沙か、どうだ? 祭りは?」
「うん、すごい楽しい、おばーちゃんにりんご飴も貰ったし──美味しいね、これ」
「にしし、だろ?」
「何でユキマサが誇らしげなのよ?」
「おい、ユキマサ、理沙、そろそろ花火が始まるぜ? 吹雪達と合流しなきゃな? 理沙、案内頼むぜ?」
「あ、うん、こっち」
理沙に案内され、かき氷、大判焼き、お好み焼き、を買いながら俺達は母さん達と合流する。
と、その時だ、ヒュ~ン、ドッカーン!
大きな花火が打ち上がる。
「綺麗……」
「にひひ、だろ? 花火は良いよな」
感動したような声で理沙が呟き、俺はその隣で楽しく笑う。花火は良い、特に誰かと見る花火は格別だ。
「おーい、理沙、ユキマサ、かき氷の屋台があるぜ! 夏の醍醐味だ、食おうぜ、さて何味にするか?」
俺と理沙の間に割って入り、右手を俺に、左手を理沙の頭の上に乗せる親父は子供のように笑顔だ。
「親父、花火見ろ、花火! もう始まっちまったじゃねぇか! ブルーハワイ!」
「バカ野郎! 花火の下で食う、かき氷ってのが乙なんだぜ? お前もやってみろ?」
「な、花火の下で、かき氷だと……!?」
最高に決まってる。
く、馬鹿は俺だ。
「私はイチゴにしようかな」
「お、いいねぇ。俺は変化球でコーラ味だな。よし、おやっさーん! かき氷3つ、ブルーハワイ、イチゴ、コーラで頼むぜ!」
でも、時間は無駄にはしまいと、さっさかと親父は注文と会計を済ませる。
「ありがとな、親父」
「ありがとう。おとーさん」
かき氷を受けとる、シロップもケチケチせず、たっぷりだ。
しかもよく見るとシロップはかけ放題らしい。気前が良いね。
「おうよ。ゆっくり食べな、キーンてなるからな? さ、じゃあ、食いながら、吹雪たちと合流しようぜ」
サクッと刺し、パクっと食う。うん、美味い。
ブルーハワイのこの青色が実に涼しげだよな。
「ていうか、おとーさんもユキマサも手荷物いっぱいだね。どれだけ買ったの?」
かき氷を食いながら、ビニール袋に入った屋台の食べ物を両腕にこれでもかとブラ下げる俺と親父を見て理沙が驚き半分呆れ半分といった様子で見てくる。
「ん? 目に止まった物、全てだが?」
然も当然かのように答える俺に、理沙はやはり呆れ気味だ。
花火の打ち上がる空の下、俺と理沙と親父は、席を取っていた母さんと爺ちゃん婆ちゃんと合流する。
「あら、遅かったですね、花火始まってますよ」
母さんが少しズレて、俺たちの席を開ける。
「おい、木枯、早くせい、先にもう飲んどるぞ」
「あらあら、飲み過ぎないでくださいね」
「いいねぇ。屋台で色々買ってきたぜ、皆で食おう」
親父がビールをグラスに爺ちゃんに注いでもらいながら返事を返す。
ヒュ~ン、ドッカーン!
花火が打ち上がる。
「どうした理沙?」
ふわぁ、と、感動したように花火を眺める理沙に俺はイタズラ気に声を掛ける。
「うん、綺麗だなって!」
花火に負けない明るい笑顔だ。
「理沙ちゃん、理沙ちゃん、たこ焼き食べる?」
「食べる、お婆ちゃんも一緒に食べよ」
婆ちゃんの隣に座り、たこ焼きを爪楊枝で食べ始める。理沙は、たこ焼きを食べると、花火が上がると、少しオーバーなぐらいのリアクションを取る。
でも、凄く楽しそうだ。婆ちゃんも笑ってる。
「本当に綺麗、たこ焼きも美味しい──」
笑みを溢す、理沙。
──花蓮理沙は、この日見た花火を生涯忘れない。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
(改訂版)帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!
黒猫
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。
ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。
観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中…
ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。
それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。
帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく…
さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

特技は有効利用しよう。
庭にハニワ
ファンタジー
血の繋がらない義妹が、ボンクラ息子どもとはしゃいでる。
…………。
どうしてくれよう……。
婚約破棄、になるのかイマイチ自信が無いという事実。
この作者に色恋沙汰の話は、どーにもムリっポい。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる