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赤ずきんちゃん
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昔々、あるところに仲の良い親子がおりました。娘はいつも元気に走り回り、母親はそんな娘をいつもニコニコと見守っておりました。
娘はいつも赤いおべべを着ていたので、みんなからは赤ずきんちゃんと呼ばれておりました。
ある日、お母さんは赤ずきんに言いました。
「赤ずきんや。森にいるおばあちゃんのお見舞いに行ってくれないかい?」
「え!おばあちゃんのお見舞い!?うん!行く!」
赤ずきんちゃんは二つ返事で請け負いました。赤ずきんちゃんはおばあちゃんが大好きなのです。
「いい子ね。じゃあこのパイを持って行って。冷めないうちに持って行かないといけないから、寄り道なんかしちゃだめよ。」
「うん!」
「それから、森にはオオカミがいるから気をつけないとだめよ。オオカミは何でも食べちゃうんだから。」
「わかった!わかった!」
赤ずきんちゃんは早くおばあちゃんのお家に行きたくて仕方がありません。
やれやれ、と半ば呆れながらお母さんは赤ずきんちゃんにパイの入ったカゴを手渡しました。
「じゃあ気をつけてね。行ってらっしゃい。」
「行ってきまあす!」
おばあちゃんは森の奥の家に一人で住んでおりました。どうしてそうなったのか、赤ずきんは知りません。でも内緒でおばあちゃんの家まで行っていたので、道のりはわかります。
途中、開けた場所に出ました。
見渡す限りの花畑。色とりどりの花々が咲き乱れていました。
「わぁ…!」
赤ずきんちゃんは思わず見惚れてしまいました。
「そうだわ!おばあちゃんに綺麗な花も持って行きましょう!きっと喜ぶわ!」
そうしてパイが冷めるのも気にせず、赤ずきんちゃんは花摘みに興じました。
どれほど経ったでしょうか。
あたりは少し日が暮れ始めました。
「いけない!早くお見舞い行かなきゃ!」
と、赤ずきんちゃんのすぐ後ろに誰かいることに気がつきました。
見上げると身の丈は大きくその上から外套を被った男が立っておりました。
「君が赤ずきんか?」
「え、ええそうだけど…あなたはだあれ?」
「俺は…。」
答えを渋る男に、赤ずきんちゃんは背中につけた猟銃を見つけました。
「そうか!あなた狩人さんね!悪いオオカミをやっつける人!」
「…まあ、そんなところだ。」
無邪気に笑いかける赤ずきんをよそに、狩人さんは無愛想に答えました。
「わたしはこの先のおばあちゃんの家に行くけど、一緒にいく?」
「…そうだな。」
しばし考えて、狩人さんもついていくことにしました。
道中で赤ずきんちゃんは狩人さんにいろんな話をしました。
元々両親とおばあちゃんと自分の4人家族だったこと。随分前におばあちゃんが一人で暮らすようになったこと。最近になってお父さんがいなくなったことなど。
そんな話を赤ずきんちゃんはそれはそれは楽しげに話しました。狩人さんは表情を変えず黙って聞いています。
「お父さんはどうなったのか、気にならないかい?」
不意に狩人さんは尋ねました。
しかし赤ずきんちゃんはきょとんとしています。
「わかんない。どこか遠くに行った、ってお母さんが言ってたから。そのうち帰ってくるんじゃないかな。」
「そうか……。」
それきり、狩人さんは黙ってしまいました。
そうこうするうちにおばあちゃんが住んでいる家に着きました。
「あ、着いた!じゃあここでお別れだね。」
「いや、俺も一緒に行こう。」
「そう?じゃあおばあちゃんにあなたのこと紹介するね!」
鼻歌を歌いながら、赤ずきんちゃんは上機嫌で家のドアを開けます。
「おばあちゃん!こんにちは!お見舞いに来たよ!」
しかし返事はありません。
家の中はしんと静まり返り、人のいる気配がありません。
「留守なのかなぁ。おばあちゃん。」
「……いや。」
狩人さんはリビングを指差しました。
タンスの中は出し放題、食べかけの料理はひっくり返されてと、そこはひどく荒らされておりました。
「な…何これ。」
「どうやら何者かが入ったあとらしい。」
「何者かって?」
「わからん。野盗か、あるいは……。」
その時、二階からガタガタと物音が聞こえてきました。
「おばあちゃん!」
赤ずきんちゃんは物音のする二階へ走り出しました。
おばあちゃんの寝室に着くと、ベッドが膨らんでいるのが見えました。
「……おばあちゃん?」
赤ずきんちゃんは恐る恐る尋ねました。返事はありません。
「おばあちゃんなの?」
赤ずきんちゃんは再び尋ねました。わずかに膨らみが動きます。
「……赤ずきんかい?」
か細い声が帰ってきました。赤ずきんちゃんはホッと胸を撫で下ろします。
「心配したんだよ。リビングがぐちゃぐちゃになってたから。」
「……あ、ああ。あれね。物を無くしちゃって。どこにやったか分からなくなって、探し回っちゃってねえ。」
「それでゴハンもこぼしたの?」
「……ああ。隅から隅まで探さないと気が済まないのさ。」
「……探し物で血が出るの?」
赤ずきんちゃんは部屋からベッドまで続く血痕を見逃しませんでした。ベッドの膨らみはまたごそごそと動きました。
「……あ、ああ。探す時に指を切っちまったのさ。それで気分が悪くて寝込んでるのさ。さあ、分かったらさっさとお帰り。」
「……うん。」
しかし赤ずきんちゃんは帰りません。
「……ねえ、どうしてさっきから顔を見せてくれないの?」
「それは……。」
「いつも私が来たらニコニコで出迎えてくれたのに、どうして?」
「そ、それは……。」
次の瞬間、ベッドの毛布がめくれあがり、男が飛びかかって来ました。
「もう死んじまってるからだよ!!」
男が飛びかかると赤ずきんちゃんは恐怖でその場にうずくまってしまいました。しかし同時に一発の銃声が響き渡りました。
恐る恐る顔を上げると、さっきの男が血を流して苦しんでいます。
「狩人さん!」
銃を撃ったのは狩人さんでした。狩人さんは撃ち終わった銃口を下げると、まずベッドを調べました。
「……この人がおばあちゃんか。既に死んでるな。」
「え!?」
赤ずきんちゃんが駆け寄ると、そこには変わり果てたおばあちゃんが横たわっておりました。眼はカッと見開かれ、首元からは斬られたばかりなのか、大量の血がどくどくと流れています。
「……お、俺が殺し、たのさ。」
狩人さんに撃たれた男が語ります。
「し、仕事を失くして…、か、金が無かった…。このご時世、金が無けりゃ……死ぬしかねえ…。全部、国が……国が持って行きやがる……。」
「だから婆さんの家に入り、金目のものを漁ったのか。」
「…そ、そうさ…。俺はコイツのむ、息子さ……。子供が、親のもんを奪って……な、何が悪い……。」
息も絶え絶えになった男の元に、赤ずきんちゃんは駆け寄りました。
「お父……さん?」
「赤ずきんか……。」
お父さんと呼ばれた男は赤ずきんちゃんの首元を掴みました。
「……お前さえ……お前さえいなけりゃ、あの女ともすぐに別れられたんだ。別れたら養育費だの、慰謝料だの払えなんかのたまわりやがって、あの女……!お前は……、お前は……!」
そこから続く声は聞こえませんでした。狩人さんがもう一発男に撃ち込んだ音にかき消されたのです。
「……狩人さん。これ、夢だよね……?おばあちゃんもお父さんも死んじゃって……。こ、こんなの……嘘だよね?」
涙を流しながら放心する赤ずきんちゃんをよそに、狩人さんは弾丸を込め直します。
「いいや。現実さ。」
そうして狩人さんは、赤ずきんちゃんを撃ち抜きました。
狩人さんが家から出ると、そこには赤ずきんちゃんのお母さんが立っていました。
「終わったんですね。」
「……ああ。婆さんとガキだけの予定だったが、あんたの旦那に横槍を入れられちまった。」
「あら。あの人が来てたのね。どこに行ったのかと思っていたけど。それで?」
「殺したよ。」
「そう。」
冷たく言い放つお母さんを、狩人さんは何も言わずにじっと見続けました。
「……何よ。何か言いたい事でもあるの?」
「……いや。」
答えない狩人さんに、お母さんは報酬の金を投げつけました。
「言いなさいよ!見下してるんでしょう!私を!娘も姑も旦那も殺させて、何も感じない冷たい女と蔑んでいるんでしょう!」
「……いや。」
「この時代、年寄りと子供なんか抱えてられないのよ!あんなのを養うためにいくらかかると思う!?役立たずの旦那は仕事無くしてどっか行っちまうしさ!」
狩人さんは答えず、じっとお母さんを睨め付けていました。そんな狩人さんにお母さんはまだ訴え続けます。
「あの子の服、見たでしょう!?赤いかわいいずきん。何が『赤ずきんちゃん』よ。私なんかよりよっぽど上等なもの着てるじゃない!私だってあいつらがいなけりゃ、キレイなドレスが着れたわよ!もっと贅沢できたわよ!それがこんな片田舎で平凡に暮らして終わりだなんて、冗談じゃないわよ!」
捲し立てるお母さんを尻目に、狩人さんは叩きつけられた報酬を一枚一枚拾い上げます。
「……あんたも同類よ。自分が生きるために人殺しだってやるんでしょう?あんたが私を馬鹿にする権利なんて無いわよ。」
「俺は別に……。ただ……。」
「何よ。言ってごらんなさいよ。」
凄むお母さんを狩人さんは正面に見据えて答えました。
「……こんな時代だ。食い扶持を減らすために、使えない老人や子供を殺すのは珍しく無い。別にあんたの事は責めやしねえよ。俺もこんな仕事、一度や二度じゃねえんだ。あんたとおんなじことをする奴はほかにもゴロゴロいやがるんだ。あんたの言うことはわかるよ。ただな。その度に思うんだ。こんな生きるのにも大変な世の中で、平凡な家庭を築く。それ以上に欲しい贅沢って、一体何なんだい?」
「それは……。」
お母さんは答える事ができませんでした。
娘はいつも赤いおべべを着ていたので、みんなからは赤ずきんちゃんと呼ばれておりました。
ある日、お母さんは赤ずきんに言いました。
「赤ずきんや。森にいるおばあちゃんのお見舞いに行ってくれないかい?」
「え!おばあちゃんのお見舞い!?うん!行く!」
赤ずきんちゃんは二つ返事で請け負いました。赤ずきんちゃんはおばあちゃんが大好きなのです。
「いい子ね。じゃあこのパイを持って行って。冷めないうちに持って行かないといけないから、寄り道なんかしちゃだめよ。」
「うん!」
「それから、森にはオオカミがいるから気をつけないとだめよ。オオカミは何でも食べちゃうんだから。」
「わかった!わかった!」
赤ずきんちゃんは早くおばあちゃんのお家に行きたくて仕方がありません。
やれやれ、と半ば呆れながらお母さんは赤ずきんちゃんにパイの入ったカゴを手渡しました。
「じゃあ気をつけてね。行ってらっしゃい。」
「行ってきまあす!」
おばあちゃんは森の奥の家に一人で住んでおりました。どうしてそうなったのか、赤ずきんは知りません。でも内緒でおばあちゃんの家まで行っていたので、道のりはわかります。
途中、開けた場所に出ました。
見渡す限りの花畑。色とりどりの花々が咲き乱れていました。
「わぁ…!」
赤ずきんちゃんは思わず見惚れてしまいました。
「そうだわ!おばあちゃんに綺麗な花も持って行きましょう!きっと喜ぶわ!」
そうしてパイが冷めるのも気にせず、赤ずきんちゃんは花摘みに興じました。
どれほど経ったでしょうか。
あたりは少し日が暮れ始めました。
「いけない!早くお見舞い行かなきゃ!」
と、赤ずきんちゃんのすぐ後ろに誰かいることに気がつきました。
見上げると身の丈は大きくその上から外套を被った男が立っておりました。
「君が赤ずきんか?」
「え、ええそうだけど…あなたはだあれ?」
「俺は…。」
答えを渋る男に、赤ずきんちゃんは背中につけた猟銃を見つけました。
「そうか!あなた狩人さんね!悪いオオカミをやっつける人!」
「…まあ、そんなところだ。」
無邪気に笑いかける赤ずきんをよそに、狩人さんは無愛想に答えました。
「わたしはこの先のおばあちゃんの家に行くけど、一緒にいく?」
「…そうだな。」
しばし考えて、狩人さんもついていくことにしました。
道中で赤ずきんちゃんは狩人さんにいろんな話をしました。
元々両親とおばあちゃんと自分の4人家族だったこと。随分前におばあちゃんが一人で暮らすようになったこと。最近になってお父さんがいなくなったことなど。
そんな話を赤ずきんちゃんはそれはそれは楽しげに話しました。狩人さんは表情を変えず黙って聞いています。
「お父さんはどうなったのか、気にならないかい?」
不意に狩人さんは尋ねました。
しかし赤ずきんちゃんはきょとんとしています。
「わかんない。どこか遠くに行った、ってお母さんが言ってたから。そのうち帰ってくるんじゃないかな。」
「そうか……。」
それきり、狩人さんは黙ってしまいました。
そうこうするうちにおばあちゃんが住んでいる家に着きました。
「あ、着いた!じゃあここでお別れだね。」
「いや、俺も一緒に行こう。」
「そう?じゃあおばあちゃんにあなたのこと紹介するね!」
鼻歌を歌いながら、赤ずきんちゃんは上機嫌で家のドアを開けます。
「おばあちゃん!こんにちは!お見舞いに来たよ!」
しかし返事はありません。
家の中はしんと静まり返り、人のいる気配がありません。
「留守なのかなぁ。おばあちゃん。」
「……いや。」
狩人さんはリビングを指差しました。
タンスの中は出し放題、食べかけの料理はひっくり返されてと、そこはひどく荒らされておりました。
「な…何これ。」
「どうやら何者かが入ったあとらしい。」
「何者かって?」
「わからん。野盗か、あるいは……。」
その時、二階からガタガタと物音が聞こえてきました。
「おばあちゃん!」
赤ずきんちゃんは物音のする二階へ走り出しました。
おばあちゃんの寝室に着くと、ベッドが膨らんでいるのが見えました。
「……おばあちゃん?」
赤ずきんちゃんは恐る恐る尋ねました。返事はありません。
「おばあちゃんなの?」
赤ずきんちゃんは再び尋ねました。わずかに膨らみが動きます。
「……赤ずきんかい?」
か細い声が帰ってきました。赤ずきんちゃんはホッと胸を撫で下ろします。
「心配したんだよ。リビングがぐちゃぐちゃになってたから。」
「……あ、ああ。あれね。物を無くしちゃって。どこにやったか分からなくなって、探し回っちゃってねえ。」
「それでゴハンもこぼしたの?」
「……ああ。隅から隅まで探さないと気が済まないのさ。」
「……探し物で血が出るの?」
赤ずきんちゃんは部屋からベッドまで続く血痕を見逃しませんでした。ベッドの膨らみはまたごそごそと動きました。
「……あ、ああ。探す時に指を切っちまったのさ。それで気分が悪くて寝込んでるのさ。さあ、分かったらさっさとお帰り。」
「……うん。」
しかし赤ずきんちゃんは帰りません。
「……ねえ、どうしてさっきから顔を見せてくれないの?」
「それは……。」
「いつも私が来たらニコニコで出迎えてくれたのに、どうして?」
「そ、それは……。」
次の瞬間、ベッドの毛布がめくれあがり、男が飛びかかって来ました。
「もう死んじまってるからだよ!!」
男が飛びかかると赤ずきんちゃんは恐怖でその場にうずくまってしまいました。しかし同時に一発の銃声が響き渡りました。
恐る恐る顔を上げると、さっきの男が血を流して苦しんでいます。
「狩人さん!」
銃を撃ったのは狩人さんでした。狩人さんは撃ち終わった銃口を下げると、まずベッドを調べました。
「……この人がおばあちゃんか。既に死んでるな。」
「え!?」
赤ずきんちゃんが駆け寄ると、そこには変わり果てたおばあちゃんが横たわっておりました。眼はカッと見開かれ、首元からは斬られたばかりなのか、大量の血がどくどくと流れています。
「……お、俺が殺し、たのさ。」
狩人さんに撃たれた男が語ります。
「し、仕事を失くして…、か、金が無かった…。このご時世、金が無けりゃ……死ぬしかねえ…。全部、国が……国が持って行きやがる……。」
「だから婆さんの家に入り、金目のものを漁ったのか。」
「…そ、そうさ…。俺はコイツのむ、息子さ……。子供が、親のもんを奪って……な、何が悪い……。」
息も絶え絶えになった男の元に、赤ずきんちゃんは駆け寄りました。
「お父……さん?」
「赤ずきんか……。」
お父さんと呼ばれた男は赤ずきんちゃんの首元を掴みました。
「……お前さえ……お前さえいなけりゃ、あの女ともすぐに別れられたんだ。別れたら養育費だの、慰謝料だの払えなんかのたまわりやがって、あの女……!お前は……、お前は……!」
そこから続く声は聞こえませんでした。狩人さんがもう一発男に撃ち込んだ音にかき消されたのです。
「……狩人さん。これ、夢だよね……?おばあちゃんもお父さんも死んじゃって……。こ、こんなの……嘘だよね?」
涙を流しながら放心する赤ずきんちゃんをよそに、狩人さんは弾丸を込め直します。
「いいや。現実さ。」
そうして狩人さんは、赤ずきんちゃんを撃ち抜きました。
狩人さんが家から出ると、そこには赤ずきんちゃんのお母さんが立っていました。
「終わったんですね。」
「……ああ。婆さんとガキだけの予定だったが、あんたの旦那に横槍を入れられちまった。」
「あら。あの人が来てたのね。どこに行ったのかと思っていたけど。それで?」
「殺したよ。」
「そう。」
冷たく言い放つお母さんを、狩人さんは何も言わずにじっと見続けました。
「……何よ。何か言いたい事でもあるの?」
「……いや。」
答えない狩人さんに、お母さんは報酬の金を投げつけました。
「言いなさいよ!見下してるんでしょう!私を!娘も姑も旦那も殺させて、何も感じない冷たい女と蔑んでいるんでしょう!」
「……いや。」
「この時代、年寄りと子供なんか抱えてられないのよ!あんなのを養うためにいくらかかると思う!?役立たずの旦那は仕事無くしてどっか行っちまうしさ!」
狩人さんは答えず、じっとお母さんを睨め付けていました。そんな狩人さんにお母さんはまだ訴え続けます。
「あの子の服、見たでしょう!?赤いかわいいずきん。何が『赤ずきんちゃん』よ。私なんかよりよっぽど上等なもの着てるじゃない!私だってあいつらがいなけりゃ、キレイなドレスが着れたわよ!もっと贅沢できたわよ!それがこんな片田舎で平凡に暮らして終わりだなんて、冗談じゃないわよ!」
捲し立てるお母さんを尻目に、狩人さんは叩きつけられた報酬を一枚一枚拾い上げます。
「……あんたも同類よ。自分が生きるために人殺しだってやるんでしょう?あんたが私を馬鹿にする権利なんて無いわよ。」
「俺は別に……。ただ……。」
「何よ。言ってごらんなさいよ。」
凄むお母さんを狩人さんは正面に見据えて答えました。
「……こんな時代だ。食い扶持を減らすために、使えない老人や子供を殺すのは珍しく無い。別にあんたの事は責めやしねえよ。俺もこんな仕事、一度や二度じゃねえんだ。あんたとおんなじことをする奴はほかにもゴロゴロいやがるんだ。あんたの言うことはわかるよ。ただな。その度に思うんだ。こんな生きるのにも大変な世の中で、平凡な家庭を築く。それ以上に欲しい贅沢って、一体何なんだい?」
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