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裸の王様

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皆さんは「裸の王様」をご存知でしょうか?

ー昔々、ある国にやってきた機織り職人が“バカには見えない生地”で織った服を作りましょう、とその国の王様に持ちかけたところ、王様はこれを快諾。
しかし作業が進んでも、王様にも家来にもその生地は見えません。でもバカだと思われたくないので誰も見えないなんて言えないのでした。かくして出来上がった“服”を着て、王様は意気揚々とパレードへ。国を闊歩する王様はどこからどう見ても丸裸。しかし咎められるのを恐れて誰も何も言えません。
するとある一人の子供が声をあげました。
「なんで王様、裸で外を歩いてるの?変なの!」
その一言をきっかけに、あちらこちらで王様を笑う声が聞こえてきました。王様は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして城へ帰って行きました。
そう、あの機織り職人は詐欺師だったのです……。


城に帰ってきた王様は、改めて腹が立ってきました。
「ええい。忌々しい!あの機織りどもめ、よくも騙しおったな!このままで済ましてなるものか!」
王様は家来に命じて、王様を騙した機織りの二人を国中探させました。機織りはすぐに見つかり、王様の前に突き出されます。
二人は涙を流しながら王様に許しを乞うのでした。
「お許しくださいまし!王様!ほんの出来心で!どうか、どうか命だけは……!」 
二人の必死の訴えも王様の耳には入らず、二人は断頭台にて処刑されたのでした。

しかし王様の腹の虫はまだ収まりません。
「ワシを一番に笑ったあの子供!あの子供も許せぬ!その子とその親、共々に連れてこい!」
かくして王様を始めに笑った子供とその両親もまた、王様の前に突き出されました。
王様を笑った男の子は状況が分からないのか、王様の顔をポカンと見上げていました。対してその両親は必死に頭を下げて王様に向けて懇願します。
「申し訳ございません!王に対し息子が大変ご無礼な事を!しかしまだ年端もいかぬ子供でございます!どうか、どうか息子の命だけは!」
両親の必死の訴えも王の耳には届かず、王を笑った子供とその両親は、公衆の面前で吊るし首にされたのでした。

しかし王様の腹の虫はまだまだ収まりません。
王様はそれからというもの、あの日、あの時に自分を笑った者を徹底して探し出し、それらを例外なくすべて処刑したのでした。
女子供も容赦なく殺す王様の横暴に堪り兼ねた民は、王様を倒そうと秘密裏に団結をしようとしていましたが、どこから情報が漏れたのか、それが王様の耳に入り、実行に移る前に関係者は全て処刑されました。
こうなってはもう、民には逆らう気力まで削がれ、一人、また一人と王様の国から離れていくのでした……。



数年が経ったある日……。
王様の国に二人の旅人が通りがかりました。
二人はその国の様子に目を見張りました。
「何だ……?この国は……。」
そこは既に国というより、廃墟の群れでした。家という家は扉を破られ、窓を割られ、そこに住まう人影もなく、大通りの敷石は、まるで戦でもあったかのように踏み荒らされておりました。井戸は既に枯れ果て、とても人が住めるような場所には思えませんでした。
あまりの惨状に二人は言葉を失いましたが、一人は何か心当たりがあるらしく、もう一人にその事を伝えました。
「風の噂に聞いたことがある。なんでも国王が乱心して国民を虐殺し、ついには誰一人と居なくなってしまった国があるとか。それがここなんだろう。」
「なんと……。噂はまことだった訳か。その国は野盗に襲われて一夜にして滅びたそうだが……。」

驚きながらも、二人はその街を探索することにしました。どこかに野盗の取りこぼしたお宝があるのでは?と考えたのです。
しかし、探せど探せど、値打ちのありそうな物は見当たりません。
「はぁ……。やっぱりお宝はあらかた持ってかれたようだな。」
「まあいいじゃないか。とりあえず今日の寝床が見つかったと思えば……。」
その時、旅人の一人が目の端に何かうごくものを感じました。目を凝らすと、そこには部屋の隅で小さく震える人影があるではありませんか。
「おい。誰かいるのか?そこのあんた。おい。」
話しかけられた人影はビクリと肩をすくませると、旅人の方へ恐る恐る振り返りました。
それは一人の痩せこけた老人でした。髪はボサボサ、ヒゲはボウボウ、衣服はぼろぼろの布切れだけで、眼だけが異様にギョロギョロと旅人を睨め付けます。両手両足は枯れ木のように節くれだっており、その手には何かを大事そうに抱えておりました。
「あんた……もしかしてこの国の生き残りかい?こんなとこで何やってんだ?」
旅人が話しかけた途端、老人は突然怒り出しました。
「き……貴様……!貴様もわ、わしを笑うのか!え⁉︎笑うのか!」
「な、何言ってるんだ。俺たちはただ話しかけただけじゃないか。」
「だ、黙れ!わしはこの国の王ぞ!王に向かってよくもそのような馴れ馴れしい口を……!」
老人は旅人を指差しながら喚き立てます。すると老人が手に持っていた物が露わになりました。
老人が大事に手に隠し持っていた物、それは煤けたボロボロの冠でした。
「貴様ら!死刑にしてやる!必ず死刑にしてやるからな!」
「わかった、わかった。悪かったよ。俺たちは出て行くから勘弁してくれ。」
まくし立てる老人を後にし、旅人たちはその場を立ち去りました。

民は去り、富は奪われ、滅び切ったその国にただ一人残ったのは、古びた王冠に縋り付く、醜い裸の老人だけとなりました。
それからその老人は、現れもしない周囲の目に怯えながら、王冠を抱えて部屋の隅でずうっと震えておりました。
ずうっと。
ずうっと……。
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