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警備員守田の記録

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4月1日 晴れ
H県立大学にて
今日からここの警備として赴任することになった。
これが業務日誌の第1ページになる。
正直何を書けばいいのか分からんが、前任者いわくとにかく書いとけとの事なので仕方ない。郷に入らば郷に従えというやつだ。
もう一人、同時期に就いた警備員がいたのだがこの日誌を書く担当は俺になった。納得がいかない。

4月2日 晴れ
異常無し。
本日は入学式の準備が行われた。
部活動を行なっている学生が夜遅くまで勧誘のポスターやチラシ作りに励んでいた。健気なものだ。

4月3日 曇り
異常無し。
だが同僚の奴が何か怯えている。
なんでも化け物がいたらしいがそんな奴は見てもいないし誰からも聞いていない。多分見間違いだろう。
まったく、夜中が怖いなんて大の大人がどうかしている。

4月4日 曇り
異常無し。
あるとすれば同僚が相変わらず怯えてる点か。いい加減にしてほしい。

4月5日 雨
今日、午前2時頃に不審者がカメラに映った。
大きな暗い影がじっとして動かない。いつからいたのか、どこから来たのかは分からない。気づいたらいた、という感じだった。
特にその場を荒らすわけでなかったので様子を見ていたが、30分以上もそこに留まっていたので注意に向かう。同僚は相変わらず怯えて動いてくれそうもなかったので俺が向かう事にした。
しかし現場に辿り着いた時には既に影は消えていた。何かと見間違えたかと周辺を探したが、それらしい物も見つからない。
そこで同僚に影がどこかに移動したか聞こうと連絡を取った。
同僚は「カメラにはまだ影が映ってる」と答えたが結局見つからなかった。見間違いだろう。

4月6日 雨
異常無し。
だが昨日から同僚の態度が変わった気がする。
妙によそよそしいというか、恐る恐る会話をしている感じだ。
あとしきりに体調の様子を聞いてきた。なんなんだろう。



死月儺嘗日 










4月8日 雨
同僚が辞めてしまった。
理由を聞いたら、なんでもらしい。何を見たのかは半狂乱になっていたので聞けなかったそうだ。まあ、いつも怯えていた彼の事だ。なんでもない物を幽霊か何かと勘違いしたに違いない。
だが今日の変わった事はそれだけではない。
何故か自分の感覚が1日ズレている。
毎日同じ生活をしていたら意識しないがこの日誌を見て気づいた。
昨日、誰かがこの日誌をつけている。誰だろう。辞めた同僚が書いたのだろうか。だとしたら嫌なイタズラだ。

4月9日 雨
異常無し。
だが一人の勤務というのも物寂しい。早く一人補填してもらいたいものだ。





緇月獸日














4月11日 雨
またあのイタズラだ。
一体誰が書いているのか。
だが誰に聞いても、警備室には俺しかいなかったらしい。
おかしい。
昨日、俺には出勤した記憶が無い。

4月12日 雨
いい加減にこのイタズラの犯人を突き止める事にした。
警備室内と扉にビデオカメラを設置した。
少々高くついたがこれも安心して働くためだ。あとで経費として請求しておこう。
犯人め。今に見ていろ。





屍月呪惨日















4月14日 雨
イタズラの犯人が分かった。分かってしまった。
警備室の入り口、室内、日誌の置かれている机。どの角度のカメラにもたった一人しか映っていなかった。
俺だ。
俺が映っていた。
俺が警備室に入り、室内でじっとした後、日誌に書き込んでいる様子が映っていたのだ。
だがこれは俺じゃない。俺の姿をした別の俺だ。
俺にはこの日にここに来た記憶は無い。
いやそもそも昨日の記憶すら曖昧だ。
俺は一体どうしてしまったんだろう。ビデオカメラの画像も何かの冗談じゃないかという思いで眺めている。


4月15日 雨
今日、辞めた同僚を見つけ出した。
やむを得なかった。今、俺は不安で仕方がなかったんだ。
自分が徐々に自分でなくなっていく。そんな感覚に襲われていた。
何か自分に納得させる、安心させる理由が必要だった。
同僚の居場所は意外とあっけなく見つかった。相変わらずひどく怯えて、俺の姿を見た途端逃げ出そうとしたので取っ捕まえるのに苦労した。
俺が同僚の奴に聞きたかった事は一つ、あの日彼はだった。
俺が問いただすと同僚はおずおずと教えてくれた。

同僚はまず辞める日の二日前、そう、あのカメラに不審な影が映ったという日だ、あの日に見てしまったらしい。
それは幽霊なんて有り触れたものでない、もっと奇妙なことだった。
同僚いわく、あの日監視カメラにはまだ影が映っていたらしい。現場に行った俺には何も見えなかったのに、カメラ映像にはくっきりと残っていたのだ。
それだけじゃない。その影は俺が近づくや否や、首をもたげて俺の方を値踏みするように見つめていたかと思うと、スッと姿を消したらしい。いや、姿を消したというより、俺の体の中に入っていったように見えたとか。

そして翌日、あのイタズラの日誌が書き込まれた日だ。
その日、俺はいつもの様子で出勤してきたそうだ。俺には記憶が無いんだが、見たところはいつもと変わらなかったそうだ。
だが挨拶をしても返してこない。会話もしない。どうしたのかと顔を覗きこんだら、

俺は俺の顔をしてなかったらしい。
顔が歪に曲がり、両眼は焦点が合わず、口はだらしなく開けっ放しになって変なうめき声をあげていたとか。
そして時折、何かが俺の体内なかで這いずり回っているのが見えたらしい。

それを見てしまった同僚は恐ろしくなってその場から逃げ出し、翌日に辞職したという訳だ。

同僚はそこまで言った後、もう関わらないでほしいと告げて、そそくさと逃げてしまった。




死死死死死

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ




4月16日 
もう限界だ。
この仕事を辞めたい。だが辞められない。
俺が日に日に薄まっているのを感じる。今日なんて気がついたらここに居た。意識が飛ぶ事も日に何度もある。
俺が俺じゃなくなる。
俺が何かになっていく。
耐えられない。


死月17日



もうダメだ。俺の中の俺は



もう居なくなりつつある。



この日誌を書くのももう



助けて 助けて 誰か



俺は俺でいたい。俺は



死にたくない。
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