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警察官青島の場合4

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青島の前に不意にやって来た来客。
七瀬と名乗る彼女は人探しをやってもらいたいと言う。しかし、その人物の名が……。
「み、ミリアだって⁉︎」
青島にとって、今最も因縁のある名前だった。
追いかけていた事件の重要人物と思われる女、恩師チョウさんの死、そして先のヤマさんを豹変させた化け物の告げた名前。
それら全てに「ミリア」という名前が関わっていたのだ。
そしてこの時期にまた「ミリア」という名前……。
これは果たして偶然なのか?

ミリアという名前に驚いていた青島の様子を見て、七瀬は小首を傾げた。
「どうしましたか?」
「あ、いや……。」
どぎまぎしながら、青島は考える。
(落ち着け…。“ミリア”って名前が出ただけでまだ例の事件に関わっているかどうか分からないじゃないか。もしかしたら本当に赤の他人のミリアって女性を探しに来ただけかもしれない。)
「失礼しました。じゃ、詳しい話を伺いますので、こちらへどうぞ。」
「あ、いえ。ここで結構です。」
「いやいや、人探しするなら色々と聴いて書類を書かないと。こっちも仕事なんでお願いしますよ。それに手がかり無しじゃ我々警察も動けないですよ。」
「警察の協力はいりません。青島さん。あなたの協力が必要なんです。」
「え…。」
(警察よりも一個人の力の方がいい?どういうことだろう。
そういえば彼女は初めにここに来た時も俺を名指しで呼んできた。なぜ俺の事を知っていたのか。そしてなぜ俺の協力が必要なのか……。)
疑問に思う青島だったが、それで彼女にをかけようだのという考えには至らなかった。元より彼はあれこれと考えを練るのが苦手なのだ。
(うーむ。どう聞き出したもんか。単刀直入に“アイツの仲間か⁉︎”なんて聞いてまともに答えるわけないし……。)
眉間にシワを寄せて青島はまたウンウンと唸る。
「……あのう、もしもし?」
「…へ?うわっ!」
思わず青島は飛びのいてしまった。自分が考え込んでいるうちに、七瀬が自分の顔を覗き込んでいたのだ。それも思っていた以上に近くで。女性に、しかもとびきりの美人にあんな至近距離まで近づかれた事のない青島にはあまりに刺激的すぎて、体が反射的に後ろに飛びあがってしまったのだ。そうして飛びあがった青島は座椅子に乗り損ねて見事に後ろ向きに転倒してしまった。
「だ、大丈夫ですか⁉︎」
「大丈夫……っス……。」
派手に音を立ててしまったので、何事かと後ろの同僚たちも怪訝な面持ちで向こうから青島を見ている。視線を感じた青島は慌てて立ち上がった。
「ええと…警察より俺の協力が必要ってどういうことっすかね?」
「それはその…。警察の方には言っても相手にしてもらえないと思うので…。」
「俺なら相手にすると?」
「はい。それにあなたは、既に“ミリア”に会っている筈です。きっと私の言葉に耳を貸します。」
「!」
「“ミリア”に関する事件を追い、同僚の方を“ミリア”に殺され、そしてご自身も“ミリア”に遭遇した。協力するのにあなたを選んだのはそれが理由です。」
「あんた……。やっぱりあのバケモノの……!」
正体を明かした七瀬を前にして、青島の脳裏に今までの事が浮かんだ。
全身に銃弾を浴びた惨殺死体で発見された恩師チョウさん、その同期であり良き先輩であったヤマさんの変貌、そして“ミリア”の名を呼びながら死んだ異形の存在……。
青島の中で今まで封じ込めていた感情が、ふつふつとまた湧き上がってきた。

「おい!何してる!」
「え……?」
急に背後から同僚の警官が青島の腕を抑えつけてきた。いつのまにか、青島は拳銃を握りしめていたのだ。
「お前!それで何するつもりだ!そこの女性を撃つつもりか!」
「は、放してください!あれは人間じゃないんです!今ここで撃ち殺さないと…!」
「ふざけるな!イかれてるぞ!お前!」
揉めあっている二人を尻目に、七瀬はその場から立ち去ろうとしていた。その背中を青島は呼び止める。
「ま、待て!逃げるな!」
「青島さん……。急に信用しろと言っても無理な話。今日のところは失礼します。ですが私はあなたの敵ではありません。それだけは信じて下さい。」 
「待てっ…!」
「いずれまたお会いしましょう。それでは…。」
警察署から出て行く七瀬。青島は抑えつける腕を振り払い、彼女に銃口を向けた。
「喰らえ…!」
引き金を引こうとした瞬間、強烈な衝撃が青島を襲った。先程腕を振り払った警官とはまた別の警官が、青島の下半身にタックルしてきたのだ。
さしもの青島もこれには堪らず、その場にうつ伏せに倒れてしまった。
「なんて奴だ!取り抑えろ!」
「全く面倒ごと増やしやがって!この忙しい時に!」
そうして一人、また一人と別の警官が現れ、青島を完全に押さえ込んでしまった。それぞれが思い思いの罵詈雑言を青島にぶつけたが、しかしそんな同僚のヤジも罵倒も、青島の耳には入ってこなかった。
「くそっ…!くそっ……!」
もう既にはるか向こうまで行ってしまった七瀬の姿を、青島は歯ぎしりしながらいつまでも睨みつけていた。
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