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警察官青島の場合3
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……数日が経った。
件の少女の生首の化け物事件は、青島の署内では誰一人知るものはいなかった。例の乗り移られかけた他署から来た警官は当時の事を全く覚えておらず、食中毒による腹痛で失神した、という謎の事故として処理された。当人は化け物が口に入ってきた、などと訴えたらしいが、夢でも見たのだろうと誰も相手にしなかった。
さて青島はというと、こちらは仕事場に来ながら暇を持て余していた。彼の警察署は未だに機能を回復していなかった。例の事件で署に元々所属していた職員は、しばらくの間、日常業務以外の一切の活動を禁止されてしまったのだ。そんなわけで昼出勤の青島の仕事も、書類の整理、作成が終わってしまい、後は上がりの時間まで担当の課の受付業務を行うのみとなっていた。
(暇だ……。やることがない……。)
以前の刑事担当の時と比べると、今の仕事のなんてやりがいのないことか……という考えがよぎったところで、青島は首を振った。
『どんな仕事も立派な仕事。優劣なんてありはしない。』
死んだチョウさんの言葉だった。
(これじゃ、チョウさんに叱られるな。『お前は仕事にケチつけられるほどエラくなったのか!?』なんて……。)
そうして青島は自身の顔を二、三度ひっぱたいた。
「おし!あと少し!頑張りますか!」
(それにしても……。)
青島の中で未だに引っかかることがある。
例の少女の首の事件、あの時の化け物が遺した言葉。
『たすけて。みりあ。』
その言葉をあれから青島は幾度となく反芻していた。
(『助けて、みりあ』。確かに奴はあの時そう言っていた。あの化け物の仲間の名前か、あるいは奴はただの下っ端でもっととんでもない奴がいるのか……。)
ウンウンと唸りながら、青島は腕を組み考え込んだ。
(ミリア。確か井口という会社員の彼女らしき女もその名前だっけ。これは偶然なんだろうか。それとも同一人物なのか。もしそうなら、そいつはあちこちで騒ぎを起こしていることになる。このままにはしておけない。第一、まだケリがついてないままじゃ俺自身収まりがつかない。しかし……。)
「あのう……。」
「ふえ?」
不意に呼びかけられた青島は思わず間の抜けた返事をしてしまった。気づけば目の前に来客がいるではないか。慌てて体裁を整えて一息咳払いをすると、彼は応対を始めた。
「……失礼しました。今日はどういったご用件で?失せ物、あるいは人探し?免許の更新なら一階で……。」
「あの……青島さん……ですよね?」
「え……?」
青島はまたも驚いてしまった。この来客は自分の事を知っている。……しかもよくよく見れば綺麗な女性だ。鼻筋の通った整った顔立ちにすらりと伸びた手足。申し分ない美人が自分のもとにわざわざ訪ねてきた。それだけで青島は胸踊る気分だった。
だが情けない話、女性にはもっぱらこれといった縁のない生活を送ってきた青島には、彼女のような美人の知り合いなど見当もつかなかった。
「……確かに自分は青島ですが、一体どちら様で?」
「よかった!あなたを探していたんです!私、七瀬と申します。あなたに頼み事があって参りました。」
「頼み事……ですか。」
(どうしようか?相手は得体が知れない。人違いかもしれないし…。しかしこんな綺麗な人の頼みだ。聞いてあげてもいいかも……。どうせヒマだし。)
「いいですよ!自分でよければ何でも頼んじゃってください!」
「本当ですか!ありがとうございます!」
青島が承諾したのを聞いて、その七瀬という女はさも嬉しそうに微笑んだ。愛くるしいその表情に、青島は内心夢見心地だった。
「それで、自分に頼み事というのは?」
「はい。実は人を探して欲しくって。」
「人探し?なら任せて下さい。自分、本職ですから。それで探す人はどんな人なんですか?」
「はい。ミリアというんですが…。」
「ミリア……!?」
その名が、青島を一気に現実に引き戻した。
件の少女の生首の化け物事件は、青島の署内では誰一人知るものはいなかった。例の乗り移られかけた他署から来た警官は当時の事を全く覚えておらず、食中毒による腹痛で失神した、という謎の事故として処理された。当人は化け物が口に入ってきた、などと訴えたらしいが、夢でも見たのだろうと誰も相手にしなかった。
さて青島はというと、こちらは仕事場に来ながら暇を持て余していた。彼の警察署は未だに機能を回復していなかった。例の事件で署に元々所属していた職員は、しばらくの間、日常業務以外の一切の活動を禁止されてしまったのだ。そんなわけで昼出勤の青島の仕事も、書類の整理、作成が終わってしまい、後は上がりの時間まで担当の課の受付業務を行うのみとなっていた。
(暇だ……。やることがない……。)
以前の刑事担当の時と比べると、今の仕事のなんてやりがいのないことか……という考えがよぎったところで、青島は首を振った。
『どんな仕事も立派な仕事。優劣なんてありはしない。』
死んだチョウさんの言葉だった。
(これじゃ、チョウさんに叱られるな。『お前は仕事にケチつけられるほどエラくなったのか!?』なんて……。)
そうして青島は自身の顔を二、三度ひっぱたいた。
「おし!あと少し!頑張りますか!」
(それにしても……。)
青島の中で未だに引っかかることがある。
例の少女の首の事件、あの時の化け物が遺した言葉。
『たすけて。みりあ。』
その言葉をあれから青島は幾度となく反芻していた。
(『助けて、みりあ』。確かに奴はあの時そう言っていた。あの化け物の仲間の名前か、あるいは奴はただの下っ端でもっととんでもない奴がいるのか……。)
ウンウンと唸りながら、青島は腕を組み考え込んだ。
(ミリア。確か井口という会社員の彼女らしき女もその名前だっけ。これは偶然なんだろうか。それとも同一人物なのか。もしそうなら、そいつはあちこちで騒ぎを起こしていることになる。このままにはしておけない。第一、まだケリがついてないままじゃ俺自身収まりがつかない。しかし……。)
「あのう……。」
「ふえ?」
不意に呼びかけられた青島は思わず間の抜けた返事をしてしまった。気づけば目の前に来客がいるではないか。慌てて体裁を整えて一息咳払いをすると、彼は応対を始めた。
「……失礼しました。今日はどういったご用件で?失せ物、あるいは人探し?免許の更新なら一階で……。」
「あの……青島さん……ですよね?」
「え……?」
青島はまたも驚いてしまった。この来客は自分の事を知っている。……しかもよくよく見れば綺麗な女性だ。鼻筋の通った整った顔立ちにすらりと伸びた手足。申し分ない美人が自分のもとにわざわざ訪ねてきた。それだけで青島は胸踊る気分だった。
だが情けない話、女性にはもっぱらこれといった縁のない生活を送ってきた青島には、彼女のような美人の知り合いなど見当もつかなかった。
「……確かに自分は青島ですが、一体どちら様で?」
「よかった!あなたを探していたんです!私、七瀬と申します。あなたに頼み事があって参りました。」
「頼み事……ですか。」
(どうしようか?相手は得体が知れない。人違いかもしれないし…。しかしこんな綺麗な人の頼みだ。聞いてあげてもいいかも……。どうせヒマだし。)
「いいですよ!自分でよければ何でも頼んじゃってください!」
「本当ですか!ありがとうございます!」
青島が承諾したのを聞いて、その七瀬という女はさも嬉しそうに微笑んだ。愛くるしいその表情に、青島は内心夢見心地だった。
「それで、自分に頼み事というのは?」
「はい。実は人を探して欲しくって。」
「人探し?なら任せて下さい。自分、本職ですから。それで探す人はどんな人なんですか?」
「はい。ミリアというんですが…。」
「ミリア……!?」
その名が、青島を一気に現実に引き戻した。
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