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《体験談》柳生にて
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奈良で働いていた頃のお話。
古都である奈良。
歴史的価値の高い建造物も多く、その風景を大事にしたいという住人も多い。
しかしまだまだ遊びに飢えていた私には、この鹿とお寺だらけの土地は少し刺激が足りなかった。
そんなわけで車でひとっ走り、良さげなところにドライブにでも行こうか、とナビで検索すると「柳生」という文字が目に入った。
おお!「柳生」!
時代劇が好きな人間なら必ずと言っていいほど耳にするワードだ。
柳生一族の野望、柳生十兵衛、柳生新陰流…。
思い浮かべただけでもワクワクすることこの上ない。
私はその日のドライブ先をその「柳生」にすることに決めた。
一体どんなものがあるのか、ワクワクしながら山道を走らせること数十分。
辿り着いた先は…特にこれと言ったもののない村、と言った場所だった。
柳生城跡というのもあったが、城らしいものはなく、ここにそれがありましたよ、という看板くらいしか立っていなかった。
ガッカリである。
しかしここまできたのだからこれだけで帰るのももったいない。
周辺で他に何かないかを調べてみると、「柳生一刀石」なるものが近くにあるらしい。せっかくなので立ち寄ることにした。
近くに車を停めて山道をナビの示す方へひたすらに歩く。
風光明媚な風景を横目で見ながら、藪蚊に噛まれながら、「これは道なのか」と戸惑いながら、とにかく歩き続けた。
どれほど歩いたろうか。
深い山奥にまで歩いた先にそれはあった。
巨大な、とにかく巨大な真っ二つに割れた花崗岩。
側にはその「柳生一刀石」についての逸話について語る看板があった。
曰く、柳生宗厳がこの地で修行をしていたところ、突然天狗に襲われたそうな。これはいかんと天狗を一太刀の下に斬り伏せると、天狗はたちまち姿を変えて、残ったのは二つにパックリと割れた巨大な岩だったそうだ。
なんとも不思議な話だが、その岩は見事に二つに割れていた。まあ、逸話というものは大抵大袈裟に伝えるものだから、詰まるところは大岩が自然に割れた、というのがオチだろう。
まあ逸話の真偽はともかく、私はこの岩、いや岩だけじゃ無い、それがある空間そのものから不思議な感覚を肌で感じた。
真っ二つに割れた大岩のあるその場所は、街の喧騒はおろか、鳥たちの鳴く声も聞こえない。わずかに竹の揺れる音がするだけだった。
まるで何百年も時間が止まったような、そこだけが世界の理から切り取られたような、そんな感覚だ。
言葉で例えれば、「神々しい」というか、「厳か」であるとかいうものがそれに当たるのだろうが、それでも不相応な気さえする。
おそらく、ああいった場所を「聖域」と呼ぶのだろう。
後になってあそこが鬼滅のなんたらの聖地になったと聞いたが、荒らされてはいないだろうか。
願わくば、そっとしておいてほしいものだ。
古都である奈良。
歴史的価値の高い建造物も多く、その風景を大事にしたいという住人も多い。
しかしまだまだ遊びに飢えていた私には、この鹿とお寺だらけの土地は少し刺激が足りなかった。
そんなわけで車でひとっ走り、良さげなところにドライブにでも行こうか、とナビで検索すると「柳生」という文字が目に入った。
おお!「柳生」!
時代劇が好きな人間なら必ずと言っていいほど耳にするワードだ。
柳生一族の野望、柳生十兵衛、柳生新陰流…。
思い浮かべただけでもワクワクすることこの上ない。
私はその日のドライブ先をその「柳生」にすることに決めた。
一体どんなものがあるのか、ワクワクしながら山道を走らせること数十分。
辿り着いた先は…特にこれと言ったもののない村、と言った場所だった。
柳生城跡というのもあったが、城らしいものはなく、ここにそれがありましたよ、という看板くらいしか立っていなかった。
ガッカリである。
しかしここまできたのだからこれだけで帰るのももったいない。
周辺で他に何かないかを調べてみると、「柳生一刀石」なるものが近くにあるらしい。せっかくなので立ち寄ることにした。
近くに車を停めて山道をナビの示す方へひたすらに歩く。
風光明媚な風景を横目で見ながら、藪蚊に噛まれながら、「これは道なのか」と戸惑いながら、とにかく歩き続けた。
どれほど歩いたろうか。
深い山奥にまで歩いた先にそれはあった。
巨大な、とにかく巨大な真っ二つに割れた花崗岩。
側にはその「柳生一刀石」についての逸話について語る看板があった。
曰く、柳生宗厳がこの地で修行をしていたところ、突然天狗に襲われたそうな。これはいかんと天狗を一太刀の下に斬り伏せると、天狗はたちまち姿を変えて、残ったのは二つにパックリと割れた巨大な岩だったそうだ。
なんとも不思議な話だが、その岩は見事に二つに割れていた。まあ、逸話というものは大抵大袈裟に伝えるものだから、詰まるところは大岩が自然に割れた、というのがオチだろう。
まあ逸話の真偽はともかく、私はこの岩、いや岩だけじゃ無い、それがある空間そのものから不思議な感覚を肌で感じた。
真っ二つに割れた大岩のあるその場所は、街の喧騒はおろか、鳥たちの鳴く声も聞こえない。わずかに竹の揺れる音がするだけだった。
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言葉で例えれば、「神々しい」というか、「厳か」であるとかいうものがそれに当たるのだろうが、それでも不相応な気さえする。
おそらく、ああいった場所を「聖域」と呼ぶのだろう。
後になってあそこが鬼滅のなんたらの聖地になったと聞いたが、荒らされてはいないだろうか。
願わくば、そっとしておいてほしいものだ。
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